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脳卒中における生命予後の現在

UPDATE - 2022.6.13

<抄録>

 予後予測には,機能予後予測と生命予後予測が存在する.対象者の方の生命の質や,その人特有の生活の成就に焦点を当てるリハビリテーションにおいては,機能予後予測が非常に注目されがちだが,対象者の人生の大きな分岐となる疾患罹患後の生命予後も理解しておく必要がある.本コラムにおいては,脳卒中全体の生命予後,病系による生命予後の違いについて論述していく

     

1.脳卒中の予後予測について

 過去の時代を遡ると,脳卒中後の生命予後は非常に悪く,死因の1位,2位に就くことが多かった.しかしながら,予防医療と,急性期における救命医療の充実により1,1960年代以降は,減少し続けており,2018年現在では,死因の第4位にまで低下している2.しかしながら,急性期における救命率が上がった反面,疾患の後遺症とともに,その後の人生を生きる方々は増加している.
例えば,高齢化に伴い介護が必要となった方々の要因を調査した研究では,1位の認知症につぎ,脳血管疾患(脳卒中)が18.4%と2位と多くを占めている3.さらに,多くの介護が必要な要介護5の対象者における要因分析では,脳卒中が1位(30.8%)となっている.加えて,要介護の要因の1位である認知症に関するMatsuiら4の研究では,認知症の病型別の約30%が血管性認知症とも言われており,脳卒中を起点に,対象者の人生が大きく変化することも報告されている.
 従って,脳卒中発症後のリハビリテーションは,生命予後が改善した元医療において,非常に重い役割を担っているとも言える.さて,本稿では,主にわが国における脳卒中患者の生命予後について,解説を行う.

     

2.脳卒中の生命予後について

 脳卒中とは,脳梗塞(ラクナ梗塞,アテローム血栓症,心原性脳塞栓症),脳出血,くも膜下出血から成り立つ疾患である.さて,脳卒中におけるわが国の代表的な生命予後に関する研究に,久山町研究がある5.
 この研究は1961年から50年以上継続された研究であり,非常に多くの知見をわが国にもたらしている.その研究の中で,333例の脳卒中患者の5年生存率は約30%,10年生存率が約20%であったと報告している.また,当然のことながら,高齢者になればなるほど,生存割合は少なくなることも報告されている.
なお,発症後の死因としては,発症後早期では,急性期救命はできたものの,発症した脳卒中由来の急変によるものが多い.次に,発症から10年間の死因としては,41%は初回の脳卒中に由来する急変,22%は脳卒中の再発,6%が脳卒中以外の動脈硬化由来の心疾患系病変であったと報告されている.

     

3.脳梗塞の病型別の生命予後について

 前項で少し触れたが,脳梗塞は,ラクナ梗塞,アテローム血栓症,心原性脳塞栓症と行った病型から成り立っている.脳梗塞は,脳血管の動脈硬化を来した部位や心臓において生じた血栓により,脳血管が閉塞して脳実質が壊死することで症状をきたすと言われている.
 わが国における脳梗塞の病型別罹患率は,2015年の日本脳卒中データバンクによる調査で,ラクナ梗塞31.9%,アテローム血栓性脳梗塞33.9%,心原性脳塞栓症27%と報告されている.この結果は過去の調査よりも,ラクナ梗塞が減少し,アテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症が増加傾向にあることが示されている6.
 同様に,久山町研究においても,1961年〜1973年(第1群),1974年〜1986年(第2群),1987年〜2000年(第3群)の3群間で5年生存率について比較し,報告している7.その結果,ラクナ梗塞の5年生存率は,第1群は,第2群または第3群に比べて,有意な改善を示している.しかしながら,アテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓症の予後に関しては,第2群以降,改善は認められていない.さらに,心原性脳塞栓症だけに焦点を絞ると, 第1期に比べ,第2期や第3期において,5年生存率は改善しているものの,いまだに30%程と他の病型に比べて,著しく生命予後が悪いことが示唆されている.
 ただし,これらの2005年以降,急性期における脳梗塞の医学的治療も,遺伝子組み換え組織型プラスミノーゲン活性化因子(recombinant tissue-type plasminogen activator: t-PA)静脈療法や,新規ステント型デバイスによるカテーテル治療(血栓回収療法)の承認等,進化を続けている.これら新しい治療導入後の生命予後予測については,不明な点も多く,今後さらなる調査が望まれる分野であることも,申し添えておきたい.

     

4.脳出血,くも膜下出血の生命予後について

 2018年の日本脳卒中データバンクの報告では,脳卒中発症者の病型割合として,脳梗塞(一過性脳虚血発作を含む)76.1%,脳出血19.5%,くも膜か出血4.5%であったと報告している8.しかしながら,Van Swietenらは,退院時の重症度を示すmodified ranking scaleでは,脳梗塞例に比べて,脳出血例および,くも膜下出血例の方が,点数が高く,重度の障害を有する例の割合が多かったと報告している9.また,死亡退院する例数も,脳梗塞例に比べて,脳出血例および,くも膜下出血例の方が,多かったと述べている.
 また,上記の久山町研究においても,脳卒中患者の5年生存率に比べて,脳出血および,くも膜下出血の生存率は低かったと報告されている.同様に,今井ら10の栃木県における登録者5081名の死亡の有無や死因について調査し,5年生存率を検討した研究がある.その中でも,脳梗塞による死亡の5年生存率が約85%に対し,脳出血で約75%,くも膜下出血で60%程度とされている.ただし,これらの5年生存率の違いは,急性期医療における救命率が大きく影響していることが考えられており,急性期を脱した後の生命予後の推移に大きな違いはないと考えられている.

     

引用文献
1.秦 淳,二宮利治:総説(循環器病予防総説シリーズ2)わが国の循環器疾患の危険因子「脳卒中」.日循予防誌52(2):63—73,2017
2.厚生労働省:平成30年(2018)人口動態統計(確定数)の概況.(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai18/dl/gaikyou30.pdf)
3.厚生労働省:平成28年 国民生活基礎調査の概況.(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/05.pdf)
4.Matsui Y, et al:Incidence and survival of dementia in a general population of Japanese elderly:the Hisayama study. J Neurol Neurosurg Psychiatry 80:366—370, 2009
5.Kiyohara Y, et al:Ten—year prognosis of stroke and risk factors for death in a Japanese community:The Hisayama study. Stroke 34:2343—2347, 2003
6.6)小林祥泰:急性期脳卒中の実態.小林祥泰(編):脳卒中データバンク2015.pp18—19,中山書店,2015
7.7)Kubo M, et al:Decreasing incidence of lacunar vs other types of cerebral infarction in a Japanese population. Neurology 66:1539—1544, 2006
8.8)「脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握(日本脳卒中データバンク)」報告書,2019.(http://strokedatabank.ncvc.go.jp/f12kQnRl/wp-content/uploads/27f9c9e8df9c5853644f84616ace7775.pdf)
9.Van Swieten JC, Koudstaal PJ, Visser MC, et al:Interobserver agreement for the assessment of handicap in stroke patients. Stroke 19:604—607, 1988
10.今井明,他:脳卒中患者の予後予測と死因の5年間に渡観察研究:栃木県の調査結果とアメリカの報告の比較.脳卒中32: 572-578, 2010

     

<最後に>
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