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脳卒中後の上肢麻痺におけるICFの身体機能・構造に分類される大標的な評価

UPDATE - 2022.6.17

<抄録>

 世界における臨床研究において,脳卒中後の上肢麻痺に由来する運動障害を測定するために使用されている代表的なアウトカムとして,ICFの身体機能・構造のアウトカムでは,Fugl-Meyer Assessment(FMA),Stroke Impairment Assessment Set(SIAS),modified Ashworth Scaleなどが挙げられている.
 本項では,以降に示す予後予測を理解するために必要な脳卒中後の上肢麻痺に由来する運動障害を測定するために使用されている代表的なアウトカムについて,以下に紹介する.

     

1.脳卒中後の上肢麻痺に由来する運動障害を測定するアウトカムについて

 脳卒中後片麻痺患者に対するリハビリテーションは多岐にわたる.また,それらの中でも脳卒中後に生じる上肢麻痺に由来する運動障害に対するリハビリテーションは,世界的にも多くの治療法が開発され,重要なセクションの一つである.実際に,先行研究においては,脳卒中後に上肢機能障害を生じる対象者は,全脳卒中患者の80%と言われており,日常生活活動や社会参加能力の低下が示されている1.脳卒中後の長期生存者を対象とした研究において,脳卒中発症後から生じる健康関連Quality of life(生命の質)の低下が報告されている.2 さらに,近年の脳卒中後上肢麻痺を有する対象者に対する研究では,国際生活機能分類(International Classification of functioning, disability and health: ICF)における身体機能構造のアウトカムの改善よりも,活動・参加のアウトカムの改善の方が,QOLに対する寄与が大きい可能性を示しており,低下したQOLに対する介入方法についても,検討・考察がなされている3.
 そういった背景もあり,脳卒中後に生じる上肢麻痺に由来する運動障害に対する推奨される治療法と,それらの開発や効果検証に必要な確からしいアウトカムに関して,世界中のガイドラインによって示されている.本邦においては,脳卒中治療ガイドラインにおいて,妥当な治療法およびアウトカムが紹介されている4.
 世界における臨床研究において,脳卒中後の上肢麻痺に由来する運動障害を測定するために使用されている代表的なアウトカムとして,ICFの身体機能・構造のアウトカムでは,Fugl-Meyer Assessment(FMA),Stroke Impairment Assessment Set(SIAS),modified Ashworth Scaleなどが挙げられている.
 本項では,以降に示す予後予測を理解するために必要な脳卒中後の上肢麻痺に由来する運動障害を測定するために使用されている代表的なアウトカムについて,以下に紹介する.

     

2.身体機能・構造のアウトカム

1)Fugl-Meyer Assessment(FMA)

 FMAは,1975年にFugl-Meyerら5が,Brunnstromの報告した片麻痺の回復過程を参考に,さらに細分化し,開発したアウトカムである.脳卒中後上肢麻痺に由来する運動障害に関連する研究において,最も使用されているアウトカムと言われている.
 FMA自体は,脳卒中の機能障害に対する総合評価であり,大項目として①運動機能(上肢・下肢),②バランス能力,③感覚(上肢・下肢),④関節可動域・痛み,の項目から構成され,226点満点で評価がなされる.また,脳卒中後の上肢麻痺に由来する運動障害に関する研究においては,このうち上肢項目のみが独立して使用されることが多い.本項においては,FMAの上肢項目に焦点を当てて解説を行う
 上肢項目は,A:肩・肘・前腕,B:手関節,C:手指,D:協調性/スピードの4つのカテゴリ,全33項目(66点満点)で構成されている.採点は正常反射の1項目のみ,2件法(1点:消失,2点:亢進)であるが,その他は3件法(0点:不可能,1点:一部可能,2点:可能)で評価がなされる.FMAは世界中で多くの研究者によって,妥当性・信頼性が報告されているゴールドスタンダードのアウトカムである6.
 わが国においても,ダブルトランスレーションといった厳密な手法を用いて,日本語版のFMAがAmanoら7によって作成されている.また,日本語版の作成過程で,Hsuehらが作成し,妥当性信頼性も確保されている短縮版FMAに関しても,同様に翻訳し,妥当性・信頼性も確認がなされている9.
 また,多くの検討がなされていることから,単一事例報告において得られた数値が測定誤差を超えているかどうかの指標である最小可検変化量(Minimal detectable change: MCD)が5.2点と示している.また,臨床上意味のある最小変化量に関する検討では,臨床上意味のある最小変化量(Minimal clinical important difference: MCID)に関しては,Sheltonら10が,急性期における上肢機能に関わるFIMの各項目1.5点の変化に必要なFMAの値を10点,亜急性期におけるMCIDを9-10点11,生活期におけるMCIDを4.25-7.25点12と設定している.これらから,FMAの上肢項目は,脳卒中後の上肢麻痺に由来する運動障害の予後を鑑みる上で,最も重要なアウトカムの一つと言える.

     

2)Stroke impairment assessment set(SIAS)

 Chinoら13によって開発されたSIASのコンセプトは,1)脳卒中における機能障害を評価するために必要な最小限の項目を含むこと,2)医師(療法士)が1人で容易に評価が可能なこと,3)各項目が一つの検査(single-task assessment)によって評価ができること,とされている.
 この評価が登場する前にも,脳卒中に伴う総合評価は多く存在したが,関節可動域や筋緊張,非麻痺側の残存機能,高次脳機能機能等の項目を含むものはなかったと開発者は主張している.これらの観点から,SIASはこれらの項目も網羅した総合的なアウトカムであると考えられている.9種類の機能障害を示した大項目と,22項目の下位項目から構成されており,各項目は4件法,または6件法で評価がなされる.SIASの信頼性や妥当性については,複数の研究者によって報告がなされている14, 15.

     

3)modified Ashworth Scale(MAS)

 Modified Ashworth Scale(MAS)は,1987年にBohannonら16が,上肢麻痺に併発する痙縮の評価として,1987年に発表した検査である.この評価は,検査者が対象者の麻痺手を他動的に全可動域動かした際に,検査者が主観的に感じた抵抗の大きさや質によって,0から4までの6件法(0, 1, 1+, 2, 3, 4)で示す評価である.ただし,MASについては,信頼性と有効性が示される一方で,検者間信頼性に問題があるといった報告もあり17, 18,痙縮評価については,今後も検討が必要とされている.
 また,MASは多くの論文で多くの関節を対象に順序尺度のみ使用されているが,公式に開発されているのは肘関節の屈筋に対してのみである.それに関するMDCは1点以上と公表されている19.

     

引用文献
1.Langhorne P, Coupar F, Pollock A:Motor recovery after stroke:a systematic review. Lancet Neurol 8:741—754, 2009
2.Xie J, et al. Impact of stroke on healthrelated quality of life in the noninstitutionalized population in the United States. Stroke. 2006;37:2567-2572.
3.Kelly KM, Borstad AL, Kline D, et al:Improved quality of life following constraint—induced movement therapy is associated with gains in arm use, but not motor improvement. Top Stroke Rehabil 25:467—474, 2018
4.日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会(編):脳卒中治療ガイドライン2021.協和企画,2021
5.Fugl—Meyer AR, Jääskö L, Leyman I, et al:The post—stroke hemiplegic patient. 1. A method for evaluation of physical performance. Scand J Rehabil Med 7:13—31, 1975
6.Santisteban L, et al. Upper limb outcome measures used in stroke rehabilitation studies: a systematic literature review. Plos one 11. E0154792
7.Amano S, Umeji A, Uchita A, et al:Clinimetric properties of the Fugl—Meyer assessment with adapted guidelines for the assessment of arm function in hemiparetic patients after stroke. Top Stroke Rehabil 25:500—508, 2018
8.Hsueh IP, et al. Clinimetric properties of the shortened Fugl—Meyer Assessment for the assessment of arm motor function in hemiparetic patients after stroke. Neurorehabil Neural Repair 22: 737-744, 2007
9.Amano S, Umeji A, Takebayashi T, et al:Clinimetric properties of the shortened Fugl—Meyer Assessment for the assessment of arm motor function in hemiparetic patients after stroke. Top Stroke Rehabil 27:290—295, 2020
10.Shelton, FD, et al. Motor impairment as a predictor of functional recovery and guide to rehabilitation treatment after stroke. Neurorehabil Neural Repair 15: 229-237, 2001
11.Arya KN, Verma R, Garg RK:Estimating the minimal clinically important difference of an upper extremity recovery measure in subacute stroke patients. Top Stroke Rehabil 18 Suppl 1:599—610, 2011
12.Page SJ, et al. Clinically important differences for the upper-extremity Fugl-Meyer Scale in people with minimal to moderate impairment due to chronic stroke. Phys Ther 92: 791-798, 2012
13.Chino N, Sonoda S, Domen K, et al:Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)―a new evaluation instrument for stroke patients. リハ医学31:119—125,1994
14.道免和久:脳卒中片麻痺患者の機能評価法Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)の信頼性および妥当性の検討(1).リハ医学32:113—122,1995
15.園田 茂:脳卒中片麻痺患者の機能評価法Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)の信頼性および妥当性の検討(2).リハ医学32:123—132,1995
16.Bohannon RW, Smith MB:Interrater reliability of a modified Ashworth scale of muscle spasticity. Phys Ther 67:206—207, 1987
17.Ansari NN, Naghdi S, Moammeri H, et al:Ashworth scales are unreliable for the assessment of muscle spasticity. Physiother Theory Pract 22:119—125, 2006
18.Haas BM, Bergström E, Jamous A, at al:The inter rater reliability of the original and of the modified Ashworth scale for the assessment of spasticity in patients with spinal cord injury. Spinal Cord 34:560—564, 1996
19.Shaw L, et al. BoTULS: a multicentre randomized controlled trial to evaliuate the clinical effectiveness and cost-effectiveness of treating upper limb spasticity due to stroke with botulinum toxin type A. Health technol Assess 14: 1-113, ⅲ-ⅳ, 2010

     

<最後に>
【6月1日他開催:急性期・回復期における脳卒中の作業療法】
本講習会では急性期・回復期に従事する臨床経験1~5年程度の若手作業療法士に必要な基本的な評価とアプローチの留意点および実際について包括的に説明する。
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