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著者が語る 生活期の脳卒中後上肢麻痺を呈した対象者におけるロボット療法の効果

UPDATE - 2022.7.1

<抄録>

 脳卒中後に生じる上肢麻痺に対する治療法として,ロボット療法がある.ロボット療法は,一般的なリハビリテーションと比較するとその効果はほとんど差がないと考えられている.しかしながら,自主練習として用いた際には,亜急性期の試験ではロボット療法を用いた自主練習の方が,従来の自主練習に比べ,良好な結果を残している.そこで,これら自主練習としてのロボット療法の効果が,生活期の対象者においても同様の傾向を示すのかについて,筆者らが検討を行った.それらの内容をまとめた論文が,アメリカ心臓学会,脳卒中学会の機関誌『Stroke』に採択されたので,その内容について,解説を行う.

     

1.ロボット療法の現在のエビデンス

 本コラムにおいては,筆者らが出版したアメリカ心臓学会/脳卒中学会から発刊した” Robot-Assisted Training as Self-Training for Upper-Limb Hemiplegia in Chronic Stroke: A Randomized Controlled Trial”について,解説を行っていく.さて,脳卒中後の上肢麻痺は,脳卒中患者のQuality of life(QOL)を低下させる一要素と言われており,それらに対する介入は,長年課題とされている.そういった背景の中で,世界中の多くのガイドラインにおいて,ロボット療法が良好なアプローチとして推奨されている.
 しかしながら,推奨の内容は,重度な麻痺を有する脳卒中患者に対して,練習量を確保するために有用な機器である,と言ったものとなっている.その背景には,複数の研究者が示すように,脳卒中後の上肢麻痺に対する従来のリハビリテーションに比べて,ロボット療法が,優位性を示すことができていないといった現状がある1, 2.ただし,一部の研究者は,上肢麻痺の改善度に優位性はないものの,費用対効果においては,イニシャルコスト以降のランニングコストが生じないロボットの方が,療法士を雇用するよりも,有意に優れていると報告している3.したがって,現状の業界のコンセンサスは,ロボット療法は,脳卒中後の上肢麻痺に対して,良くも悪くも従来のリハビリテーションを超えるアプローチ方法ではないというものである.
 ただし,一部の研究者の研究においては,療法士が1対1で行うリハビリテーションの時間内にロボットを用いたリハビリテーションを行うのではなく,従来のリハビリテーションを実施した上で,「追加療法として」ロボット療法を療法士の人件費がかからない自主練習といった形で,脳卒中患者に提供した場合,従来の自主練習に比べて有意な上肢機能の改善を示したことが報告されている5, 6.

     

2.生活期において自主練習としてロボット療法を使用した場合どのような結果になるのか?

 今回,我々は,129名の生活期脳卒中患者を1)ロボット療法による自主練習+従来のリハビリテーションを実施する群,2)ロボット療法による自主練習+Constraint-induced movement therapy(CI療法)を実施する群,3)従来の自主練習+従来のリハビリテーションを実施する群,の3群にランダムに割り付けを行い,それぞれの効果について,比較検討を行った7.本コラムにおいては,mixer effects models for repeated measures を用いた比較後,多重比較として,Dunette法によって,1)と3)群を比較した内容について,紹介する.
 この比較の結果,すべての対象者を比較対象としたFull Assessment Setにおいては,両軍にFugl-Meyer Assessmentの肩・肘・前腕の評価について,有意な差は認めなかった.次に,予定されていた前期間(週3回×10週間)の8割以上を完遂した対象者(pre-protocol set)において比較検討を行ったところ,Fugl-Meyer Assessmentの肩・肘・前腕において,1)群が3)群に比べて,有意な改善を示したと報告している.
 この結果は,自主練習としてロボット療法を用いたリハビリテーションを,ある一定量以上の練習量をこなした際には,従来の自主練習に比べ,ロボット療法を用いた自主練習は,効果がある可能性が示唆された.これらの結果から,ロボット療法を用いた自主練習は,生活期の対象者においても,脳卒中後に生じた上肢麻痺を改善する可能性が示唆された.
 本邦の保険制度を鑑みても,生活期は受けることができるサービスが非常に限られている.それらの期間においても,デイサービスやデイケアなどで,人件費がかかりにくいロボット療法を自主練習として用いることで,脳卒中後の上肢麻痺が改善する可能性が考えられた.

     

引用文献
1.Veerbeek JM, et al. Effects of robot-assisted therapy for the upper limb after stroke. Neurorehail Neural Repair. 2017;31:107–121.
Rodgers H, et. al. Robot assisted training for the upper limb after stroke (RATULS): a multicentre randomized controlled trial. Lancet. 2019;394:51–62.
2.Lo AC, et al. Robot-assisted therapy for long-term upper-limb impairment after stroke. N Eng J Med 210; 362: 1772-1783
3.Rodgers H, Bosomworth H, Krebs HI, van Wijck F, Howel D, Wilson N, Aird L, Alvarado N, Andole S, Cohen DL, et. al. Robot assisted training for the upper limb after stroke (RATULS): a multicentre randomized controlled trial. Lancet. 2019;394:51–62.
4.Hesse S, et al. et al. Effects of robot-assisted therapy for the upper limb after stroke. Neurorehail Neural Repair. 2017;31:107–121.
5.Takahashi K, et al. Efficacy of upper extremity robotic therapy in subacute poststroke hemiplegia: an exploratory randomized trial. Stroke. 2016; 47:1385–1388.
6.Takebayashi T, et al. Robot-assisted training as selt-trianing for upper-limb hemiplegia in chronic stroke: a randomized controlled trial. Stroke. 2022; 53, online first.

     

<最後に>
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