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脳卒中発症初期の年齢から予測される日常生活活動の予後について

UPDATE - 2022.7.15

<抄録>

 脳卒中後の予後予測を実施する際に,自然回復の程度も含めて,年齢は非常に大きな予後予測因子となると考えられている.基本的には,年齢が若い方が,機能・活動の双方において良好な予後を辿ると考えられている.本コラムにおいては,年齢が日常生活におけるADLの自立度に与える影響について,簡潔に解説を行う.

     

1.脳卒中発症初期の年齢から予測される日常生活活動の予後について

 Veelbeekら1のシステマティックレビューにおいて,年齢が数ヶ月後の日常生活活動(ADL: Activities of daily living)の自立度を予測する重要な因子であると指摘されている.つまり,年齢が若いことは,自然回復を含め,ADLにおける自立度向上のためにも,非常に重要な予測因子であることがわかる.例えば,Zhangら2は,虚血性脳卒中後の対象者において,発症から90日後のmRSにて評価されるADLの自立度の予後予測において検討を行なっている.その結果,単変量解析においては,年齢,高血圧の有無,糖尿病の有無,出血性変化,急性期および亜急性期を過ごした病院のNIHSS,発症早期の梗塞面積の範囲,が90日後のmRSの値と関連ある有意な因子として,示された.しかしながら,多変量解析にでは,それらの中から,急性期および亜急性期を過ごした病院を退院する際のNational Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)と年齢が,予後予測要因として残ったと報告している.
 また,Meloら3の研究においても,入院から10日目および28日目のADLの自立度を明らかにするために,それらに関わる要因について多変量解析を用いて検討している.その結果,入浴と着替えの自立度については,病院内で理学療法が実施されているかどうか
と並び,年齢についてオッズ比で0.202-0.402,身だしなみを整える,移乗動作については0.206-0.352の(60歳以上,59歳以下の群にて分析を行なっていることから,59歳以下であることが要因)であったと報告されている.
 Cioncoloniら4は,104名の初発の脳卒中患者を対象に,脳卒中発症後10日目において,退院時の日常生活活動の自立度を予測するための因子を検討している.その結果,性別(オッズ比にて2.431,男性が有意),年齢(オッズ比にて3.753,70歳以下), NIHSS視覚(オッズ比にて6.481,NIHSSの視覚項目が1点未満),NIHSS感覚(オッズ比にて6.071,NIHSSの感覚項目が4点以下),Motoricity index(MI)の手の項目の値(オッズ比26.600にて,MIの手の項目の値が75点以上),MIの足の項目の値(オッズ比9.158にて,MIの足の項目の値が75点以上),Trunk Control Test(TCT)の値で示されたバランス機能(TCTの値25点)についてが,予後良好な帰結を迎えるための因子として示された.加えて,Parkらは,25818名の虚血性脳卒中患者を対象とした研究において,若年者(15歳以上45歳未満,1431名,全体の5.5%)と高齢者(45歳以上)について,虚血性脳卒中患者の発症要因および転機について検討を行っている.その結果,若年者では,高齢者に比べて,ほとんどの慢性疾患の有病率は少なかったが,運動習慣がない,喫煙・因習習慣がある確率が有意に高かった.さらに,退院時のmRSの重症および中等度の症例が全体に占める確率が有意に低かったと報告している.これらの報告から,年齢自体が長期的な日常生活における能力障害を軽減される強い因子であることを推測することをできる.
 また,脳卒中に対する特殊な治療法を実施された症例においても,年齢が予後に与える影響について,検討がなされている.例えば,rtPA後に,虚血性脳卒中の併存疾患である出血性変容が認められた患者を対象としたJuradoら5の研究においても,高齢であることが実質血腫の出現するリスク因子として報告されている.
 これら複数の研究から,脳卒中患者のADLの自立度については,年齢が良好な予後に大きな影響を与えることが示唆されている.臨床において,年齢は操作できる因子ではないが,対象者の年齢を念頭に置きつつ,リハビリテーションプログラムの優先順位をつけ,手法を選択できることが望ましいと思われる.

     

引用文献

  1. 1.Veerbeek JM, Kwakkel G, van Wegen EE, et al:Early prediction of outcome of activities of daily living after stroke:a systematic review. Stroke 42:1482—1488, 2011
  2. 2.Zhang MY, et al. Ordinal prediction model of 90-day modified rankin scale in ischemic stroke. Front Neurol 12: 727171, 2021
  3. 3.Melo LP, et al. Predictive factors of functional independence in basic activities of daily libing during hospitalization and after discharge of stroke patients. Brain Injury 35: 26-31, 2021
  4. 4.Cincolini D, et al. Predictors of long-term recovery in complex activities of daily libing before discharge from the stroke unit. NeuroRehabilitation 33: 217-223, 2013
  5. 5.Park WB, et al. Comparison of epidemiology, emergency care, and outcomes of acuteischemic stroke between young adults and elderly in Korean population: a multicenter observational study. J Korean Med sci 20: 985-991, 2014
  6. 6.Jurado PBG, e tal. Incidence , prognosis, and prediction of haemorrhagic transformation after revascularization for stroke. Neurikigua 36: 589-596, 2021

     

<最後に>
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