TOPICS

お知らせ・トピックス
コラム

脳卒中以前の身体機能や合併症,および発症後の体幹機能から予測される日常生活活動の予後について

UPDATE - 2022.7.29

<抄録>

 脳卒中後の日常生活活動(ADL)における予後予測は,対象者と療法士が目標設定をする上で非常に重要である.また,目標設定から派生するアプローチ方法の考案等についても,非常に重要な役割を担っている.現在,世界の主要な脳卒中後のリハビリテーションに関するガイドラインにおいて,予後予測は推奨されている必須の手続きの一つである.本コラムにおいては,脳卒中以前の身体機能および合併症,脳卒中後に生じた体幹の機能障害から予測されるADLの予後について,いくつかの研究内容を用いて解説を行う.

     

1.脳卒中以前の身体機能および合併症等から予測されるADLの予後について

 Sharmaら1)は,インドの高齢者において,身体機能や合併症がADLやIADLに与える影響について,検討を行っている.この研究では,高齢女性の26.36%,高齢男性の20.87%が既にADLの低下をきたしており,IADLにおいては,高齢女性で38.83%,高齢男性で56.86%の対象者に低下が認められたと報告している.さらに,年齢が上がるにつれて,ADLの低下が顕著になっていることも明らかとなった.また,高血圧(オッズ比で1.156),精神疾患(オッズ比で2.458),心臓病(オッズ比で1.383),脳卒中(オッズ比で3.283),骨関連疾患(オッズ比で2.158)を持つ高齢者は,疾患を有していない高齢者に比べ,有意にIADLが低下しており,特に脳卒中の既往がADLやIADLの低下に与える影響が大きいと報告している.さらに,3つ以上の慢性疾患を持つ高齢者は,それらを有さない高齢者に比べ,ADL(オッズ比で2.156),IADL(オッズ比で2.892)が低い可能性が示唆された.さらに,社会経済的,健康関連の共変量を調整した結果,3つ以上の慢性疾患を有する高齢者において,男性は女性に比べ,有意 にIADLが低下していることが示唆された(オッズ比で3.31).
 また,古い研究にはなるが,Colantonioら2)は,1982年から1988年までに,脳卒中を発症した症例に関するデータベースを用いたコホート研究を実施した.その研究の中で,脳卒中発症前のADLにおいて制限が認められないことが,脳卒中の重症度やその他の関連する顕教状態,社会人工学的条件をコントロールした分析においても,脳卒中後の身体的活動の制限の小ささと有意な関連があったと報告している.これらや,前述したKwakkel2)の研究からも,脳卒中発症前の既往歴の有無および日常生活活動の制限の度合いについては,脳卒中発症後のADLの予後予測因子となりうると考えられている.

     

2.脳卒中後の体幹機能から予測されるADLの予後について

 体幹機能に関しては,予後予測モデルとしての精度の検証がなされている.Okamotoら3)は,入院時FIMとその予後に影響を与える因子について検討を行っている.この研究の結果,脳卒中発症後の体幹機能と入院時のFIMの値が小さかった患者において,入院時のリハビリテーション実施前後のFIMの改善率が有意に低かったと報告している.また,Duarteら4)は,入院時FIMの値と体幹機能の両方を導入したモデルを使用することで,どちらか一方の因子を用いたモデルよりも退院時FIMに対する予測精度60%に向上することを示した.また,Sebastiaら5)の追試においても同様のモデルの検証が行われ,同様の結果が示されている.

     

3.まとめ

 発症前の身体機能や合併症,そして体幹機能においては,脳卒中関連のガイドラインにおいても,長期的なADLを予測し得る因子として紹介されることが多い.臨床において,脳卒中患者を診療する際には,これらの情報をいち早く収集し,長期的な視点を持って,目標設定やアプローチの優先順位を決定することが望ましいと思われる.

     

引用文献
1.Sharma P, et al. Nubmer of chronic conditions and associated functional limitations among older adults: cross-sectinal findings from the longitudinal aging study in India. BMC Geriatr 21: 664, 2021
2.Colantonio A, et al. Prestrple physical function predicts stroke outcomes in the elderly. Arch Phys Med Rehabi 77: 562-566, 1996
3.Okamoto S, Sonoda S, Watanabe M, et al:Relationship between Functional Independence Measure(FIM)score on admission and influence of inhibitive factors in a comprehensive inpatient stroke rehabilitation ward. Jpn J Compr Rehabil Sci 9:59—65, 2018
4.Duarte E, Marco E, Muniesa JM, et al:Trunk control test as a functional predictor in stroke patients. J Rehabil Med 34:267—272, 2002

     

<最後に>
【8月17日他開催:TKA・THAに対する作業療法 ~作業療法としての評価・実践方略からマネジメントまで~】
本講義ではTKAやTHAに対する作業療法実践を展開していくうえで必要となる評価や実践方略等について先行研究に基づいて解説していく。
https://rehatech-links.com/seminar/22_8_17/

     

【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
2,失認–総論から評価・介入まで–
3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
 –医療機関における評価と介入-
4,高次脳機能障害における就労支援
 –制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
5,失行
6,半側空間無視
 通常価格22,000円(税込)→8,800円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/

前の記事

脳卒中患者における認知機能の低下が日常生活活動および手段的日常生活活動に与える影響について

次の記事

ADLを構成する各活動の予測について