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コラム

ADLを構成する各活動の予測について

UPDATE - 2022.8.1

<抄録>

 ADLは多くのセルフケアから構成されている.ADLの自立度を測定する代表的な尺度であるF I Mにおいても食事,整容,清拭,更衣,トイレ動作,排泄コントロール,移乗,移動,階段と言った複数の運動項目から構成されている.FIMの場合,これら複数の異なる活動に対して,各活動7点満点の評価を実施する.しかしながら,評価の構造上,点数に同じだけの重み付けがなされているからといって,それぞれの活動を遂行するための労力や難易度が同様ということはあり得ない.本項目においては,先行研究において調査されたADLの難易度に関する調査と,個別の活動に対する自立度の予測について,解説を行っていく.

     

1.ADL・IADLにおけるそれぞれの活動の難易度

 Koyamaら1)は,回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者において,日常生活活動に含まれる各活動の難易度について,調査を行っている.この研究では,それぞれの活動がFIMにて5点(監視レベル)を取る確率が研究の対象者の50%に至る時点のFIMの運動項目の合計点により,各課題の難易度の順を示している(図4-1).また,辻ら2)の研究では,入院時の日常生活活動の自立度について,「食事」「排便管理」「排尿管理」「整容」「移乗」「トイレ動作」「更衣」「歩行」「階段」の順に難易度が高かったと報告している.これらを鑑みると研究によって,難易度の順番が変わる可能性があるものの,移動・移乗等を含むダイナミックな活動に関しては,難易度が高いと言った傾向が示された.
 次に,IADLの難易度に関する研究報告も散見されている.三宅ら3)は,女性の脳卒中患者における退院後の家事動作の実施状況について調査を行った.対象者84名のうち74%が家事を再開していることが示された.その中で外出や長距離歩行を要する買い物と言った活動に関して介助を必要とする割合が高かったとしている.近年の報告としては,小林ら4)の報告がある.この研究では,退院後の家事最下位について追跡調査を行っている.その中で,洗濯や食事の後片付けは再開確率が高く,難易度が低い可能性が示唆された.一方,力仕事である布団の上げ下ろしや床拭き,荷物の運搬等の実施状況が低く,難易度が高い家事動作である可能性が示唆された.しかしながら,IADLは対象者の嗜好性や役割,さらには職業・生活歴や性別等の因子によって左右されることが多く,実施状況そのものがIADLに含まれるそれぞれの活動の難易度に直結していない可能性がある.この点については,留意しておく必要がある.

     

2.入院時の日常生活活動からADLに含まれる個別の活動の自立度を予測する

 Koyamaら5)は,回復期リハビリテーション病院入院時とその2〜6週間後に評価したFIMの値から求められる対数曲線にADLの回復曲線を当てはめ,発症後約4〜6ヶ月後のFIMの運動項目の合計点を高精度で予測できることを明らかにした(予測の結果と実際のFIMの運動項目の合計点の推移に関する相関係数が0.85〜0.93).対数曲線を用いた予測については,図(文献5のFigure 1を参照)に示す.回復期リハビリテーション病棟入院時の発症からの日数をDay a,発症後約4〜6ヶ月後の再評価日の発症からの日数をDay b,予測したい日の発症からの日数をDay Xそれぞれの日にちのFIMの運動項目の合計値をFIM(Day a),FIM(Day b)と設定している.これらを図中の式に当てはまえることで,FIMの運動項目の予後予測が可能となる.
 次に上記によって,予測できたFIMの運動項目の合計点から,それぞれの活動における自立度を予測する方法を紹介する.この研究では,FIMの運動項目の合計点が明らかになった際に,FIMに含まれるADLを構成するそれぞれの項目における自立度の分布を示している(文献1のFigure 3).この図は,縦軸にそれぞれの自立度となる確立を,横軸にFIMの運動項目の合計点を示している.この図を使用すると,F I Mの運動項目の合計点が明らかになれば、その横軸上に垂線を引くと,それぞれの自立度を獲得する確率を確認することができる.これら2つの指標を組み合わせることで,比較的初期の2点のFIMの運動項目の評価から,ADLの個別の評価が可能となる.

     

引用文献
1.Koyama T, Matsumoto K, Okuno T, et al:Relationships between independence level of single motor—FIM items and FIM—motor scores in patients with hemiplegia after stroke:an ordinal logistic modelling study. J Rehabil Med 38:280—286, 2006
2.辻 哲也,園田 茂,千野直一:入院・退院時における脳血管障害患者のADL構造の分析―機能的自立度評価法(FIM)を用いて.リハ医33:301—309,1996
3.三宅直之,柳原幸治,新藤直子:女性脳卒中患者の家事動作の実施状況.リハ医36:644—648,1999
4.小林 竜,小林法一:回復期リハビリテーション病棟退院後の在宅脳卒中者における家事再開状況―予後予測因子の検討.作業療法38:430—439,2019
5.Koyama T, et al. A new method for predicting functional recovery of stroke patients with hemiplegia: logarithmic modeling. Clin Rehabil 19: 779-789, 2005

     

<最後に>
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