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竹林崇先生のコラム

脳卒中後の上肢麻痺に対するロボット療法の効果は,研究において,どうしてこれほどバラ付きがあるのだろうか(1)

UPDATE - 2022.8.29

<抄録>

 世界中の主要な脳卒中後のリハビリテーションに関するガイドラインにおいて,ロボット療法は,療法士が提供する一般的なリハビリテーションと同等の効果を示すとされている.特に中等度から重度の上肢麻痺を有した対象者においては,対象者が療法士の助けを借りることなく,自主練習によって麻痺手を用いた練習量を確保することができる,と報告されている.これらの背景から,『練習量を確保するための機器』として,ロボット療法は,効果のエビデンスが確立されている.しかしながら,多くの論文を丁寧に読み解くと,研究ごとの結果の差が大きいことに気づく.本コラムにおいては,これらロボット療法に関わる多くの研究において,結果の差が大きくなる原因について,様々な観点から論考を進めていこうと考えている.

     

1.脳卒中後の上肢麻痺に対するロボット療法のエビデンス

 近年,リハビリテーション領域においても,エビデンスを基盤としたリハビリテーションの提供が重要と考えられている.そう言った背景の中,該当領域における効果のエビデンスをまとめた,ガイドラインやエビデンス集の存在は非常に心強い.世界中には多くのガイドラインが存在するが,その中でも脳卒中関連の情報に関して,一定の信頼性が担保されている米国心臓協会/米国脳卒中協会が示している脳卒中ガイドラインがある.このガイドラインは,脳卒中後の上肢麻痺に対して,推奨される療法として,課題指向型アプローチ,Constraint-induced movement therapy(CI療法),末梢神経筋電気刺激療法,運動イメージ,ロボット療法は挙げられている.しかしながら,この中でもロボット療法については,特に中等度から重度の上肢麻痺を有した対象者においては,対象者が療法士の助けを借りることなく,自主練習によって麻痺手を用いた練習量を確保することができる,と報告されている.これらの背景から,『練習量を確保するための機器』として,ロボット療法は,効果のエビデンスが示されている.では,これらの背景となる個別のロボット療法に関する研究について,続いて解説を行なっていく.

     

2.有名な大規模ランダム化比較試験について

 上記のガイドラインにも示されている『従来の療法士によるアプローチとロボット療法が同程度の上肢麻痺の改善効果を示す』と言った事実を,ある意味決定づけた代表的な論文として,Lo1が2010年に発表した論文である(この論文は,科学論文雑誌の最高峰であるNew England Journal of Medicine,Impact factor:91.245).この論文は,退役軍人を対象とした病院において実施されたランダム化比較試験である.介入群としてロボット療法を実施する群を設定し,その比較対象としては,一般的なケアを実施する群と,一般的なリハビリテーションの強度をあげたアプローチを実施した群が設定されている.これらの介入を,脳卒中発症から6ヶ月以上経過した脳卒中患者の方々に対し,1時間のアプローチを36セッション実施した.結果,ロボット療法を実施した群の上肢機能は,通常のケアを実施した群,および一般的なリハビリテーションの強度をあげたアプローチを実施した群と比較して,有意な差を認めなかったと報告している(この研究では,マサチューセッツ工科大学が開発したMIT-MunusというEnd-effector型のロボットが使用されている).
 次に,Loら1の研究の結論を強力に後押した論文であるRodgersら2が示した研究を示す.彼らは,発症1週間から5年が経過した脳卒中患者770名を3群(ロボット療法を実施した群,一般的なケアを実施した群,課題指向型練習を実施した群)にランダムに割り付け比較検討を実施している.その結果,ロボット療法を実施した群は,それぞれの対照群と比較検討し,有意な上肢機能の変化を示さなかった(表1).

     

表1. ロボット療法(RT)と通常のケア(UC),課題指向型アプローチ(EULT)の比較結果

     

3.おわりに

 これらの研究に示されたように,療法士がロボット療法を実施した際と従来のアプローチを実施した場合,その効果の差はほとんど見られないというコンセンサスがある.これらを鑑み,次回はどのような運用でロボット療法を用いることで,より良い効果を示すことができるか,について解説を行う.

     

引用文献
1.Lo A, et al. Robotic-assisted therapy for long-term upper limb impairment after stroke. N Engl J Med 362: 1772-1783, 2010
2.Rodgers H, et al: Robot assisted training for the upper limb after stroke(RATULS): a multicentre randomized controlled trial. Lancet, 2019

     

<最後に>
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