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呼吸器疾患の予後予測と利用されているアウトカムについて

UPDATE - 2022.9.9

<抄録>

 呼吸器疾患については,本法においても,リハビリテーション関連職種が関わることが多い疾患である.特に,高度経済発展を遂げた時期に,日本の各所で頻発した公害に伴い,呼吸器系の障害を有した対象は多く,リハビリテーションの場面でもしばしば問題点となることが多い.呼吸器疾患は多岐に渡るが,その中でもリハビリテーション場面において,慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれる疾患の総称である慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD: Chronic Obstructive Pulmonary Disease)に関わることが多く,これらの予後に影響を及ぼす因子を知ることで,臨床の幅は間違いなく広がることが予測される.本コラムにおいては,COPDの予後予測と,それらを理解する上で必要なアウトカムについて,簡単に解説を行う.

     

1.呼吸器疾患の予後予測と,それらを理解する上で必要なアウトカムについて

 慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD: Chronic Obstructive Pulmonary Disease)に対するリハビリテーションは,Pulmonary Rehabilitation(呼吸器リハビリテーション)と呼ばれ,COPD患者の身体的・心理的状態を改善するために考案された包括的な介入である.これらの介入は,COPDケアプランの基本的部分とされ,疾患や機能的な予後をよく理解した上で,利用することが推奨されている1.
 Chestが2007年に示したガイドラインにおいて,6分間歩行距離によって評価された歩行能力が,COPD患者の身体活動や呼吸機能,健康関連Quality of life(QOL)および生存率との間に,強い関連性を認めたことから,対象者の状況や呼吸器リハビリテーションの効果を予測する上でも,非常に重要だと報告されている2.したがって,これまでの研究の結果から,6分間歩行距離は,COPD患者の予後予測を考える上で,非常に重要なアウトカムの一つとされている3.
 ただし,ガイドラインで推奨されている呼吸器リハビリテーションを実施したからといって,確実に効果がもたらされるわけではない.先行研究では,約30%の対象者において,呼吸器リハビリテーションを実施した後に,6分間歩行距離の改善がほとんど認められなかったと報告している4.
 また,先行研究においては,呼吸器リハビリテーションを実施した際,6分間歩行距離の改善が比較的大きい対象者の潜在的な予測因子としては,ベースラインにおいて肥満度が高いこと(Body mass index > 25)5,肺機能が低いこと(< 60mmHg)5,6分間歩行距離が低いこと4,が示されている.
 さて,COPDの歩行機能の予後を予測する上で,上記のように6分間歩行試験における6分間歩行距離の他にも,酸素飽和度,心拍数,呼吸困難度等のアウトカムも有用であることが示されており6, 7,それらを併用することも重要である.Chikhanewらは,呼吸器リハビリテーションの効果が鋭敏に認められる対象者の特徴として,年齢(オッズ比0.968),呼吸器リハビリテーションを受ける前の6分間歩行試験の歩行距離(オッズ比 0.996,)と試験中の呼吸困難感(オッズ比 0.886),酸素療法の実施(オッズ比 0.363,)を因子として示している.
 さらに,呼吸器リハビリテーション実施後の歩行機能の改善の因子としては,表1を挙げている.この研究では,歩行機能の改善においては,年齢,呼吸器リハビリテーションを実施前の6分間歩行試験時の歩行距離,呼吸困難感,酸素療法の実施を挙げている.呼吸器リハビリテーション実施前の6分間歩行距離が10m増加するにつれて,実施後における歩行距離の改善量は2.2m減少した.同様に,呼吸器リハビリテーション実施前の6分間歩行試験における呼吸困難度が1点増加するにつれ,実施後における歩行距離の改善量は4.6m減少したと報告している.そして,呼吸器リハビリテーション実施前の6分間歩行試験において,酸素療法の実施が行われた際には,実施後における歩行距離の改善量は40.7m減少したと報告している.
 ただし,呼吸器リハビリテーションを実施後に,臨床的に有用な改善を示すための未知の因子が上記以外にもあるとされており,それらを探索的に調べるためには,今後も大規模コホート試験が必要であるとされている.

     

引用文献

1.Spruit Ma, singh sJ, Garvey c, ZuWallack r, Nici l, rochester c, et al.; ATS/ERS Task Force on Pulmonary Rehabilitation. An official American Thoracic Society/European Respiratory Society statement: key concepts and advances in pulmonary rehabilitation. am J respir crit care Med 2013;188:e13–64.

2.Ries al, bauldoff Gs, carlin bW, casaburi r, Emery cf, Mahler da, et al. Pulmonary Rehabilitation: Joint ACCP/AACVPR Evidence-Based Clinical Practice Guidelines. Chest 2007;131(Suppl):4S–42S.

3.Puhan Ma, siebeling l, Zoller M, Muggensturm p, ter riet G. sim- ple functional performance tests and mortality in copd. Eur respir J 2013;42:956–63.

4.Spielmanns M, Gloeckl r, schmoor c, Windisch W, storre Jh, boen- sch M, et al. Effects on pulmonary rehabilitation in patients with copd or ild: a retrospective analysis of clinical and functional predictors with particular emphasis on gender. Respir Med 2016;113:8–14.

5.Vagaggini b, costa f, antonelli s, de simone c, de cusatis G, Martino f, et al. Clinical predictors of the efficacy of a pulmonary rehabilitation programme in patients with COPD. Respir Med 2009;103:1224–30.

6.poulain M, durand f, palomba b, ceugniet f, desplan J, Varray a, et al. 6-minute walk testing is more sensitive than maximal incremental cycle testing for detecting oxygen desaturation in patients with copd. Chest 2003;123:1401–7.

7.Gallego Mc, samaniego J, alonso J, sánchez a, carrizo s, Marín JM. [dyspnea in copd: relation to the Mrc scale with dyspnea induced by walking and cardiopulmonary stress testing]. Arch Bronconeumol 2002;38:112–6. [Spanish]. 8. Chikhanie YAL, et al. Predictors of changes in 6-min walking distance following pulmonary rehabilitation in COPD patients: a retrospective cohort analysis. Euro J Phys Med Rehabil 58: 251-257, 2022

     

<最後に>
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