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脳卒中後の重度感覚障害に対するアプローチの評価と実際(1)

UPDATE - 2022.9.12

<抄録>

 感覚障害は脳卒中後に生じる障害において,最もポピュラーなものの一つである.感覚障害によるフィードバックの欠如は,時に運動障害にも影響を与え,身体のパフォーマンスを低下させる恐れがある.本コラムにおいては,それらに対するアプローチの実際と評価について,論述を行うものとする.

     

1.脳卒中後の重度感覚障害に対するアプローチの評価と実際(1)

 脳卒中後の重大な障害の一つとして,体性感覚障害が挙げられる.脳卒中後の体性感覚障害は,軽度から重度まで様々であり,リハビリテーションを阻害する要因の一つであると考えられている.
 ただし,一般的な臨床における最も大きな問題点の一つは,感覚障害の有無や程度を評価するための評価方法である.一般的な感覚障害に対する評価は,電気生理学的な機器を基本的には使用せず,触覚や痛覚,そして手足の運動覚や位置覚を評価するのみに止まっている1.また,臨床的な評価においては,客観的かつ段階的なパラメトリックな評価ではなく,段階数の少ないノンパラメトリックな評価および感覚障害の有無といった大雑把な指標にて,評価がなされることが多い.
 しかしながら,体性感覚によるフィードバックは運動パフォーマンスに大きな影響を与えると考えられている.特に,手指の運動機能において,体性感覚によるフィードバックの影響は最も大きいとされており,パフォーマンスに直結した問題となることが多い.したがって,研究および臨床の場面においては,体性感覚障害の正確な定量化を試みる必要があると考えられている.
 体性感覚は,末梢受容器から中枢器官の間で広くやりとりされる受容体の結果として,表現されるもので,一般的な現象としては,触覚,痛覚,温度覚,および固有覚に区分されている.しかしながら,体性感覚システムの機能をより正確に説明するとするならば,この区分をさらに細分化することが可能である.例えば,触覚の場合,生理学的測定機器を用いたより高度な体性感覚処理により,位置,時間,速度,鋭さ・鈍さ,感触(テクスチャー),温度,圧力や重さ,については,正確に把握することができるとされている.
 さて,体性感覚測定を単純なものからより高度で複雑なものへと整理するためには,一般的には階層化モデルが有効であると考えられている.この体性感覚に関する階層化モデルは,より低次なものから,1)刺激検出,2)識別:異なる刺激を区別する能力,3)拡大縮小:刺激の大きさをメモリのついた系列順に並べる,4)触覚物体認識:触覚によって物体の文脈を認識する,という4つのレベルで構成されている.
 体性感覚受容器の密度や分布は身体の場所によって異なる.特に掌や体毛のない皮膚に多く存在すると考えられている.例えば,皮膚に触れている2点と1点を区別する感覚能力である2点識別覚は,健常者の指先と背中を比較すると少なくとも20倍の差があると考えられている2. したがって,人間の手は生体の中で,物体を知覚するために最も重要な器官であるということが示されている3.
 しかしながら,脳卒中後に体性感覚の障害を有する確率は,脳卒中患者の11%-89%と推定されている.このばらつきは,検査する感覚障害の種別(モダリティ)の違いや,評価する身体領域,さらには単一のモダリティに対する評価で実施した研究,もしくは複数の多角的なモダリティに対する評価を実施した研究の間で生じるものだと考えられている4.体性感覚のモダリティは,同じモダリティであれば,隣接する身体部位において,類似した結果が得られるとされている.一方,異なるモダリティ間においては,同一部位に対する評価ですらその一致率は非常に低いと考えられている5-7.したがって,各モダリティは独立したものであり,それぞれに対して,個別の評価を行うことが近年では推奨されている.
 これらのモダリティの中でも最も脳卒中患者において,損傷しているものが『立体覚』である.立体覚については,大きな物体では11%,小さな物体では89%の対象者で障害が認められることが報告されている8.また,位置覚においては,身体部位ごとに,34%から64%の身体範囲に障害が認められたと報告している8.また,体性感覚障害に関する多くの評価は,対象者の主観を用いて行うこととなるが,基本的に主観評価は減少を過小評価してすることが示されている9.

     

2.おわりに

 今回は,脳卒中後の感覚障害に対する評価について,概論を示した.なお,次回,脳卒中後の重度感覚障害に対するアプローチの評価と実際(2)に続く.

     

引用文献
1.Winward CE, Halligan PW, Wade DT. Somatosensory recovery: A longitudinal study of the first 6 months after unilateral stroke. Disabil Rehabil. 2007;29(4):293-299.
2.Weinstein S. Intensive and extensive aspects of tactile sensitivity as function of bodypart, sex and laterality. In: Kenshalo DR, ed. The Skin Senses. Springfi eld, IL: C.C. Thomas; 1968:195-222.
3.Klatzky RL, Lederman SJ, Metzger VA. Identifying objects by touch: An expert system. Percept Psychophysics.1985;37(4):299-302.
4.Kim JS, Choi-Kwon S. Discriminative sensory dysfunc – tion after unilateral stroke. Stroke. 1996;27(4):677.
5.Tyson SF, Hanley M, Chillala J, Selley AB, Tallis RC. The relationship between balance, disability, and recovery after stroke: Predictive validity of the Brunel Balance Assessment. Neurorehabil Neural Repair. 2007;21(4):341. 8.
6.Connell LA, Lincoln NB, Radford KA. Somatosensory impairment after stroke: Frequency of different defi cits and their recovery. Clin Rehabil. 2008;22(8):758.
7.Busse M, Tyson SF. How many body locations need to be tested when assessing sensation after stroke? An investigation of redundancy in the Rivermead Assessment of Somatosensory Performance. Clin Rehabil. 2009;23(1):91.
8.Yekutiel M, Guttman E. A controlled trial of the retraining of the sensory function of the hand in stroke patients. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1993;56(3):241. 12. Williams PS,
9.Basso DM, Case-Smith J, NicholsLarsen DS. Development of the Hand Active Sensation Test: Reliability and validity. Arch Phys Med Rehabil. 2006;87(11):1471-1477

     

<最後に>
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