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脳卒中後の感覚障害に対するアプローチの評価と実際(3)

UPDATE - 2022.9.16

<抄録>

 感覚障害は脳卒中後に生じる障害において,最もポピュラーなものの一つである.感覚障害によるフィードバックの欠如は,時に運動障害にも影響を与え,身体のパフォーマンスを低下させる恐れがある.本コラムにおいては,それらに対するアプローチの実際と評価について,論述を行うものとする.

     

1.脳卒中後の感覚障害に対するアプローチの評価と実際(3)

 位置合わせテスト(position-matching test)では,視覚を用いずに,自分の上下肢を用いて,基準となる関節の位置を一致させることで,感覚障害の程度を推定する手法である.臨床においては,この検査の測定精度は,評価者による視覚的な観察能力によって左右される.Gobleら1は,位置合わせテストの解釈を混乱させる可能性がある要素として,年齢,手の大きさ,基準位置の確立方法の不備,テストが行われた作業スペースの環境,位置合わせの種別,等を上げている.また,位置合わせテストのエラーに関わる要因についても,同じ論文において,言及している.例えば,同側空間における照合エラーの原因としては,認知障害(半側無視等),記憶障害に関連している可能性が高いと報告されている.一般的に,脳卒中後に生じる位置感覚に関する感覚障害は,両側の空間において生じる.しかしながら,一般的には同側よりも,対側において,より位置感覚の混乱を来す場合が多いと考えられている.位置合わせテストとBrief Kinesthesia Test2は,ともに位置合わせといった共通の要素を有する検査であるため,Brief Kinesthesia Testの限界でもある若年者と高齢者層における成績のばらつきが大きいと言われている.
 次に,Nottingham sensory assessmentのErasmus MCバージョン(改訂版)の立体認識に関するサブセットについて解説する.この検査は,10個の一般的な物体に対して,それぞれ15秒間,掌の中におかれ,その形態を認識するといった課題である.もちろん,探索の間,視覚は用いない.各物体について,正しく回答できた場合は2点,物体の特徴を説明できた際には1点,どのような方法でも識別できなかった場合には0点が与えられる. Nottingham sensory assessmentのErasmus MCバージョン(改訂版)の立体認識に関するサブセットにおける検査の利点は,評価者間の信頼性が十分担保されていることが挙げられる3.ちなみに,実施時間に関しても10分程度完遂でき,実現可能性が高い点も長所と考えられる.
 手動形態知覚検査(The manual form perception test)は,感覚統合検査(the sensory integration and praxis test)4の下位検査にあたるものである.このテストでは,対象者は8つのプラスチック製の物品を,視覚を用いない条件下で実施し,サンプルとして示されている形状との差異を照合する.このテストには,日常ほとんど使ったことがないような形状から,実生活において頻繁に使用する形状までが含まれており,過去の経験にかかわらず,形態模写に関わる感覚障害を評価することができる.照合にかかる時間と差異が採点に用いられるパラメーターとされている.手動形態知覚検査は,比較的安価で購入でき,短時間(実施時間は10分程度)で実施が可能で,定量的な評価が可能とされている.この検査の欠点としては,脳卒中患者における評価の信頼性,妥当性が十分確立されていないことと,標準的な採点方法も不明瞭な点が多いことである.
 次に,手の能動感覚検査(Hand Active Sensation Test:HASTe)について,論述する.HASTeは,18項目の項目からなり,それぞれがサンプルマッチ,もしくは強制選択式の識別課題から構成されている.また,試験を実施する際には,当然のことながら,視覚を用いずに体性感覚のみを使用して実施する5.HASTeの欠点は,物品を掴んで持ち上げることができる対象者に限って使用することができるため,麻痺をはじめとした運動障害がある対象者は,検査の対象外となる.逆に長所は,脳卒中後の感覚障害に対する反応性が高く,天井効果も認めないことだと言われている.

     

2.おわりに

 今回は,複数の感覚検査の特徴を述べた,次回以降も,感覚障害を測定するツールについて,紹介を実施していく.脳卒中後の重度感覚障害に対するアプローチの評価と実際(4)に続く.

     

引用文献
1.Goble DJ. Proprioceptive acuity assessment via joint position matching: From basic science to general practice. Phys Ther. 2010;90(8):1176-1184.
2.Dunn W, Griffi th JW, Morrison MT, et al. Somatosensation assessment using the NIH Toolbox. Neurology. 2013;80(11 Suppl 3):S41-S44.
3.Gaubert C, Mockett S. Inter-rater reliability of the Nottingham method of stereognosis assessment. Clin Rehabil. 2000;14(2):153-159.
4.Ayres AJ. Sensory Integration and Praxis Tests (SIPT). 3rd ed. Los Angeles: Western Psychological Servicees; 1996. .
5.Williams PS, Basso DM, Case-Smith J, NicholsLarsen DS. Development of the Hand Active Sensation Test: Reliability and validity. Arch Phys Med Rehabil. 2006;87(11):1471-1477.

     

<最後に>
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