<抄録>
脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチのひとつとして,Constraint-induced movement therapy(CI療法)がある.このアプローチは,世界中のガイドラインにおいて,推奨されており,中等度から軽度の上肢麻痺を有する対象者においては,有効な上肢機能アプローチである.CI療法については,上肢麻痺の改善に関する生理学的なメカニズムとして,大脳皮質をはじめとした中枢神経の可塑性変化(再構成)が考えられ,これに関しても多くの研究がなされている.本コラムにおいては,これらCI療法の脳の可塑性に関する研究をまとめ,簡単な解説を行うことを目的としている.
1.Constraint-induced movement therapy(CI療法)における神経可塑性のメカニズム
脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチにおいて,運動学習に伴う脳の可塑性は、機能改善に関する大切なメカニズムの一つであると考えられている.これらの研究に歴史において,大きな転機となったのが,1996年に発表されたNudoら1の研究があげられる.彼らの研究が報告されるまでは,脳を含む中枢神経系は非常に硬い存在として考えられており,一度損傷した領域については,回復することや他の領域によって代償される可能性については,考えられていなかった.しかしながら,彼らの研究では,上肢運動障害を呈した霊長類において,単純に自然回復なく,麻痺側上肢に対するトレーニングの結果として,麻痺側上肢に関わる領域を含む皮質に再編成が起こることを示した.また,霊長類だけでなく,他の動物モデルにおいても,麻痺側上肢に対するトレーニングの結果として,麻痺側上肢の運動機能の回復と当該皮質領域の神経可塑性が同様に観察されたとされている2, 3.
特にこれらの回復メカニズムは,Constraint-induced movement therapy(CI療法)と言った高い強度で提供される上肢機能アプローチにおいて,言及されることが多い.麻痺側上肢の集中練習や,実生活における麻痺側上肢の積極的利用を通して,経験依存性の大脳皮質の神経系の再編成が生じ,麻痺側上肢の感覚運動系の回復を仲介すると考えられている4.
CI療法をはじめとした高い強度で実施される課題指向型練習は,脳卒中患者の麻痺側上肢における運動障害を軽減すると言われており,高い効果のエビデンスを誇っている5.CI療法は,その定義上,実生活や練習における手の使用について,麻痺手の限定する(拘束する)という特性を持っているが,その本質のひとつはShapingとTask practice,といった対象者の上肢機能に応じた適切な難易度が施された課題指向型アプローチを実施することにあると言われている.これらに関する神経可塑性変化については,Johansen-Bergら6やWittenbergら7が,報告している.彼らの研究においては,集中的な課題指向型練習を実施することで,一次運動皮質および二次運動皮質領域における経験依存性の市皮質の再編成を誘発することが報告されている.
それらに加え,最も重要なコンポーネントとして,ShapingやTask practiceによって培われた麻痺側上肢の機能改善を,実生活に反映させるための行動心理学的手法であるTransfer packageが示されており,これらが総じて実施されることにより,多様な神経可塑性を促進すると考えられている.Transfer packageの脳の神経可塑性に与える影響については,Gautherら8が両側の海馬,感覚野,運動野の灰白質に両側対称な灰白質の質量の増加を認めたと報告している.さらに,この研究においては,該当する灰白質の質量の増加が,脳卒中患者の実生活における麻痺側上肢の使用頻度と中等度の相関を示したことが明らかとなった.
これらの研究に代表されるように,この10年間でCI療法によってもたらされる神経可塑性は,感覚運動領域の皮質の再編成と関連していると,多くの研究によって証明がなされている.したがって,麻痺側上肢に対する高い強度の反復的課題指向型アプローチが,対象者の中枢神経の再構成に大きな影響を与えていることが証明されている.
引用文献
1.Nudo R. J., Wise B. M., SiFuentes F., Milliken G. W. (1996). Neural substrates for the effects of rehabilitative training on motor recovery after ischemic infarct. Science 272 1791–1794. 10.1126/science.272.5269.1791
2.Castro-Alamancos M. A., Borrell J. (1995). Functional recovery of forelimb response capacity after forelimb primary motor cortex damage in the rat is due to the reorganization of adjacent areas of cortex. Neuroscience 68 793–805. 10.1016/0306-4522(95)00178-
3.Jones T. A., Chu C. J., Grande L. A., Gregory A. D. (1999). Motor skills training enhances lesion-induced structural plasticity in the motor cortex of adult rats. J. Neurosci. 19 10153–10163. 10.1523/JNEUROSCI.19-22-10153.1999
4.Laible M., Grieshammer S., Seidel G., Rijntjes M., Weiller C., Hamzei F. (2012). Association of activity changes in the primary sensory cortex with successful motor rehabilitation of the hand following stroke. Neurorehabil. Neural Rep. 26881–888. 10.1177/1545968312437939
5.Winstein, C. J., Stein, J., Arena, R., Bates, B., Cherney, L. R., Cramer, S. C., … & Zorowitz, R. D. (2016). American Heart Association Stroke Council, Council on Cardiovascular and Stroke Nursing, Council on Clinical Cardiology, and Council on Quality of Care and Outcomes Research. Guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery: a guideline for healthcare professionals from the American heart association/American stroke association. Stroke, 47(6), e98-e169.
6.Johansen-Berg H., Rushworth M. F., Bogdanovic M. D., Kischka U., Wimalaratna S., Matthews P. M. (2002). The role of ipsilateral premotor cortex in hand movement after stroke. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99 14518–14523.
7.Wittenberg G. F., Chen R., Ishii K., Bushara K. O., Eckloff S., Croarkin E., et al. (2003). Constraint-induced therapy in stroke: magnetic-stimulation motor maps and cerebral activation.Neurorehabil. Neural Rep. 17 48–57.
8.Gauthier, L. V., Taub, E., Perkins, C., Ortmann, M., Mark, V. W., & Uswatte, G. (2008). Remodeling the brain: plastic structural brain changes produced by different motor therapies after stroke. Stroke, 39(5), 1520-1525.
<最後に>
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