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脳卒中患者に対して実施したConstraint-induced movement therapy(CI療法)のメカニズムについて(神経機構の回復について)

UPDATE - 2022.10.10

<抄録>

 脳卒中後に生じる上肢麻痺に対する効果的なアプローチ方法の一つとして,Constraint-induced movement therapy(CI療法)がある.これらは,多くの臨床試験において,エビデンスが確立されており,非常に有用な治療法の一つとされている.この効果的なアプローチであるが,効果の要因(回復メカニズム)に関しても,1994年のNudo博士の研究を皮切りに多くの基礎研究を通して,多種多様な検証が行われている.2000年以降は,基礎研究における技術も向上したことにより,多角的な側面から神経機構の回復に関して,明らかにされている.本コラムにおいては,2000年以降の基礎研究を中心に,CI療法による神経機構の回復について,解説を行うことを考えている.

     

1.脳卒中患者に対して実施したConstraint-induced movement therapy(CI療法)のメカニズムについて(神経機構の回復について)

 脳卒中後の上肢麻痺に対する治療法の一つにConstraint-induced movement therapy(CI療法)がある.このアプローチは,脳卒中後に生じる麻痺手の機能改善に寄与するもので,効果のエビデンスが多々あり,多くのガイドラインにおいて推奨がなされている.このCI療法の回復メカニズムについては,中枢神経系の機能改善(可塑性)等が言われており,この点については多くの研究者が基礎研究や臨床研究を通して検討を行なっている.Huら(1は,CI療法が損傷半球において,内在性AMPA型グルタミン酸レセプター(AMPAR)を介したシナプスにおける神経伝達物質の伝達を促進することにより,脳卒中後に生じた上肢の運動障害を回復させることを報告している.また,彼ら(2は,CI療法が損傷側および非損傷側の感覚運動野の樹状突起と樹状突起棘の可塑性を高め,非損傷側の感覚運動野のシナプスにおけるグルタミン酸レセプター2(GluR2)の発言を増加させることも報告している.
 また,Liuら(3は,麻痺側上肢の神経支配領域がCI療法によってどのように伸展するかを確認するために,狂犬病ウィルスを利用し,ニューロンの拡大を追跡している.その結果,CI療法がラットの歩行機能を著しく向上させたことと同時に,麻痺側上肢(前脚)の神経ネットワークに多くのニューロンのコネクションが生まれたことが報告されいている.また,Nesinら(4は,ラットにおいて,脳損傷後の通常の経過とCI療法を実施した際の経過において,Golgi-Cox染色を用いて,神経における樹状突起の変化に関する比較を行なっている.その結果,通常の経過においては,樹状突起の樹枝部分の著しい現象を認めたが,CI療法を実施した際の経過においては,樹状突起の樹枝部分の拡大を認めたと報告している(特に大きな変化はL3錐体ニューロン周辺にて起こっていた).
 加えて,Zhaoら(5は,CI療法が皮質における梗塞による損傷面積を減少させることはないが,非損傷側から錐体交差した皮質脊髄路から,脊髄レベルにおいて,脊髄正中を交差して,損傷側の皮質脊髄路付近まで神経繊維の延長が認められたと報告している.さらに,Livingston-Thomasら(6は,CI療法介入後においても,損傷側皮質における梗塞範囲の周囲のBDNF発現細胞の割合は変化しなかったが,脳由来神経栄養因子(brain derived neurotrophic factor: BNDF)が発現している細胞における発現由来が通常の状況から変化したと報告している.具体的には,従来の状況に比べると,非神経細胞および非星状細胞の発現が有意に増加したことが示されている.この変化の原因としては,ミクログリアに由来すると彼らは推測していることを明かしている.
 上記の情報をまとめると,脳卒中後の神経機能再建におけるCI療法による神経機構の回復メカニズムとしては、主にシナプス数の増加、運動皮質における樹状突起配列の増加、神経栄養因子の変化などが知られています。

     

引用文献

1. Hu J., Liu P. L., Hua Y., Gao B. Y., Wang Y. Y., Bai Y. L., et al. (2021). Constraint-induced movement therapy enhances AMPA receptor-dependent synaptic plasticity in the ipsilateral hemisphere following ischemic stroke. Neural Regener. Res. 16 319–324.

2. Hu J., Li C., Hua Y., Liu P., Gao B., Wang Y., et al. (2020). Constraint-induced movement therapy improves functional recovery after ischemic stroke and its impacts on synaptic plasticity in sensorimotor cortex and hippocampus. Brain Res. Bull. 160 8–23. 

3. Liu P., Li C., Zhang B., Zhang Z., Gao B., Liu Y., et al. (2019). Constraint induced movement therapy promotes contralesional-oriented structural and bihemispheric functional neuroplasticity after stroke. Brain Res. Bull. 150

4. Nesin S. M., Sabitha K. R., Gupta A., Laxmi T. R. (2019). Constraint induced movement therapy as a rehabilitative strategy for ischemic stroke-linking neural plasticity with restoration of skilled movements. J. Stroke Cerebrovasc. Dis. 28 1640–1653.

5. Zhao S., Zhao M., Xiao T., Jolkkonen J., Zhao C. (2013). Constraint-induced movement therapy overcomes the intrinsic axonal growth-inhibitory signals in stroke rats. Stroke 44 1698–1705. 6. Livingston-Thomas J. M., McGuire E. P., Doucette T. A., Tasker R. A. (2014). Voluntary forced use of the impaired limb following stroke facilitates functional recovery in the rat. Behav. Brain Res. 261 210–219. 

     

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