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パーキンソン病における認知機能の予後について

UPDATE - 2022.10.7

<抄録>

 パーキンソン病は,神経難病の一つであり,運動障害および日常生活に長期的なスパンで悪影響を及ぼす進行性の疾患である.その病態は多岐にわたり,無動,筋強剛,静止時振戦,姿勢反射障害,自律神経症状,嗅覚障害,精神症状,睡眠障害,等,多様な症状が出現する.その中でも,実生活において大きな問題点の一つとなるのが認知障害である.代表的な認知障害としては,1)いくつかの手順を踏む行動計画ができなくなると言った遂行機能障害,2)物忘れがひどくなるなどの記憶障害が生じると言われている.さらに昨今では,パーキンソン病患者においても軽度認知症や認知症と類似した認知障害が見られると言われている.本コラムにおいては,パーキンソン病の認知障害の特に予後予測に利用できる情報について,簡単に紹介,解説を行っていく.

     

1.パーキンソン病における認知障害の予後予測に関わる知見について

 Fereshteheiadらによりパーキンソン病患者の臨床、遺伝子、神経画像、血液/脳脊髄液バイオマーカーからなる他施設共同縦断型データベースであるThe Pakinson’s Progression Makers Intiative(PPMI)のデータを用い、パーキンソン病の階層的クラスター分析を行なわれた。クラスター分析における主要な因子は運動機能の要約スコア、3つの非運動機能である認知機能障害、レム睡眠行動障害、自立神経失調であった。そこからパーキンソン病患者の3つの異なるサブタイプを定義した。運動機能の要約スコアと全ての非運動機能の両方が75%未満の『軽度運動優位型』、運動機能の要約スコアが75%以上及び非運動機能のうち一つ以上が75%以上、もしくは3つの非運動機能の全てが75%以上のどちらかを有する『びまん性悪性型』と定義された.さらに,『びまん性悪性型』の基準を満たさない『混合型』と定義がなされた.Montreal Cognitive Assessment (MoCA)で示された認知機能の経過については,ベースライン,フォローアップともに,びまん性悪性型,混合型,軽度運動型の順に予後が悪かった.
 またDe Pabloら2)はそのサブタイプを使用しパーキンソン病の予後予測をおこなった。病気の進行を評価するために診断から発生したイベントとして『定期定期な転倒』、『車椅子の使用』、『日常生活に重大な影響を与えるほどの認知症』、『介護施設への入所』を記録した。また診断から死亡までの期間(生存期間)も記録された。それらの記録を使用しCoxハザード回帰モデルを使用しそれらのリスクの推定を行なった。この研究においても,びまん性悪性型,混合型,軽度運動優位型の順で予後が悪いと報告されている.
 Freddyら4)の研究では,PD患者全体でベースラインにおいて,MCIを患っていた患者の方が有意に多かったとしている.ただし,ベースラインでMCIがあった患者の21.6%が,フォローアップ中に正常な認知機能に戻った.一方,1年後のフォローアップの時点で,27.8%のMCIを有した患者が,認知症に移行したとも報告している.最後に,ベースラインとフォローアップの1年後にMCIを有していた患者は,3年後には45.5%が認知症に移行し,正常な認知機能に戻った対象者は約9%であったと示唆している.
 Pedersenらの研究では,PD患者全体でベースラインにおいて,MCIを患っていた患者の方が有意に多かったとしている.ただし,ベースラインでMCIがあった患者の21.6%が,フォローアップ中に正常な認知機能に戻った.一方,1年後のフォローアップの時点で,27.8%のMCIを有した患者が,認知症に移行したとも報告している.最後に,ベースラインとフォローアップの1年後にMCIを有していた患者は,3年後には45.5%が認知症に移行し,正常な認知機能に戻った対象者は約9%であったと示唆している.
 なお,PDの軽度および重度の神経認知障害(NDC: Neurocognitive disorder)において,診断統計マニュアル第5版(Diagnostic and statistical manual of mentarl disorders 5th edition: DSM-5)の新しい診断基準が設定されている.この基準のスクリーニングに最も適した検査をLuczaら4)が調査している.その結果,MoCAとAddenbrooke’s cognitive examination(ACE)において, PDのDSM-5において検出される認知障害のカットオフが,それぞれ23.5点,83.5点であると示した.
 Czerneckiら5)は,PD患者と対照群におけるMCIと社会認知障害の有無に関するサブグループの比較において,一般の健常人において社会的認知障害を有する対象者が2.6%に対して,初期のPD患者の約30%に、社会的認知障害が存在したと報告している.さらに,MCIを伴わない社会認知障害を有する割合については,PD患者の方が対照群に比べ,約3.5倍(それぞれ20.2% vs 5.5%)であったと報告している.

     

引用文献
1.Fereshtehnejad, S. M., Zeighami, Y., Dagher, A., & Postuma, R. B. (2017). Clinical criteria for subtyping Parkinson’s disease: biomarkers and longitudinal progression. Brain, 140(7), 1959-1976.
2.De Pablo-Fernández, E., Lees, A. J., Holton, J. L., & Warner, T. T. (2019). Prognosis and neuropathologic correlation of clinical subtypes of Parkinson disease. JAMA neurology, 76(4), 470-479.
3.Pedersen, K. F., Larsen, J. P., Tysnes, O. B., & Alves, G. (2013). Prognosis of mild cognitive impairment in early Parkinson disease: the Norwegian ParkWest study. JAMA neurology, 70(5), 580-586.
4.Lucza T, et al. Screening mild and major neurocognitive disorders in parkinson’s disease. Behav Neurol 2015; 983606
5.Czernecki V, et al. Social cognitive impairment in early parkinson’s disease: A novel “mild impairment”? Parikinsonism and related disorders 85 (2021): 117-121

     

<最後に>
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