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脳卒中後に生じる亜脱臼に対するアプローチに関する背景と効果のエビデンスについて

UPDATE - 2022.10.21

<抄録>

 肩関節亜脱臼は,脳卒中患者の80%に見られる脳卒中後の一般的な合併症の一つである.肩関節の亜脱臼においては,管理が非常に難しく,臨床上の課題である.肩関節の亜脱臼に対する管理に問題があった場合,二次性の肩痛などが生じ,対象者のQuality of lifeに著しく影響することがある.この二次性の問題が,脳卒中後に生じる上肢の運動障害の回復を大いに複雑にしているとも言える.本コラムにおいては,脳卒中後に生じる肩関節の亜脱臼について,それらの軽減に役立つアプローチに関する背景と効果のエビデンスについて,解説を行う.

     

1.脳卒中後に生じる肩の亜脱臼について

 肩関節は構造的に,安定性を犠牲にする代わりに,多軸の運動自由度を獲得している.その結果,ヒトが生活行為の中で上肢を使用する上で必要な関節可動域を提供することを可能としている.また,上肢の遠位の機能は,近位の機能に依存しているとも言われており1,手指を含めた上肢全般の機能改善を導くためにも,肩関節は非常に重要な役割を果たしている.
 しかしながら,脳卒中後に上肢麻痺を生じると,肩甲上腕関節のアライメントが不良となり,肩関節の安定性が悪化する.具体的には,上腕骨頭が関節窩から下方へずれることが多いとされている(稀に前方,後方への変異も認められる)2.さて,脳卒中を罹患した対象者において,約2/3以上が亜脱臼を有していると考えられている3.これら亜脱臼を有する対象者の多くは,肩痛を有する.また,脳卒中後に生じる亜脱臼に関する疫学的な検討では,出血性脳卒中患者が発症後全体の50%に肩関節の亜脱臼を生じることに対し,虚血性脳卒中患者では,30%程度と報告されている4.
 亜脱臼の発生には,様々な要因が影響していると考えられている.それらの要因としては,弛緩性麻痺,誤使用,不適切なポジショニング,重力の影響などが挙げられている.また,上腕骨頭が下垂している時期には,棘上筋や三角筋後部線維等の肩関節の固定に働く筋肉の麻痺により,関節窩の中でも浅いポジションを上腕骨頭がとってしまい,正常なポジショニングを維持することが困難となる.これらに加え,大胸筋や後背筋等の痙縮により,肩甲骨が下方回旋し,関節窩の向きが変化し,より下垂が大きくなることもある5.これらとともに,肩関節の過剰な内転や内旋に関する痙縮等による異常な運動の相乗効果により,亜脱臼に対する病的な異常力学が働き,亜脱臼の下垂をより進めることが言われている6.
 脳卒中後に生じる亜脱臼は常に課題とされてきた.また,亜脱臼に併発する肩痛,腱断裂,腱炎,滑液包炎等の軟部組織の病変が,対象者のQuality of lifeに著しく影響を与える7ため,脳卒中後の後遺症の中でも,亜脱臼の軽減は常に課題とされてきた.さて,それらの試みの中で,様々なアプローチが開発されており,肩のポジショニング,装具療法によるサポート,さらには電気刺激療法まで,多岐にわたる.これらの手法の基本的な原則としては,重力を免荷することにより,関節を安定させ,重力による損傷を防ぐことが挙げられる.また,それらに加えて,肩関節の安定性を構築する筋肉の働きを促進するための促通的な側面を有している手法がほとんどである.
 さて,脳卒中リハビリテーション診療ガイドライン8, 9においては,麻痺側上肢のポジショニングと電気刺激療法の双方について推奨されている.従って,基本的には,これら2つの手法を組み合わせ,適切な管理とアプローチを行うことが,脳卒中後に生じる亜脱臼については,有効な手段であると思われた.

     

引用文献
1.Neumann DA. Kinesiology of the Musculoskeletal system. Missouri: Mosby Inc.; 2002.
2.Stolzenberg D, Siu G, Cruz E. Current and future interventions for glenohumeral subluxation in hemiplegia secondary to stroke. Top Stroke Rehabil. 2012; 19: 444–456.
3.Turner-Stokes L, Jackson D. Shoulder pain after stroke: A review of the evidence base to inform the development of an integrated care pathway. Clin Rehabil. 2002; 16: 276–298.
4.Suethanapornkul S, Kuptniratsaikul PS, Kuptniratsaikul V, Uthensut P, Dajpratha P, Wongwisethkarn J. Post stroke shoulder subluxation and shoulder pain: A cohort multicenter study. J Med Assoc Thai. 2008; 91: 1885–1892.
5.Griffin C. Management of the hemiplegic shoulder complex. Top Stroke Rehabil. 2014; 21: 316–318.
6.Reyerson S, Levit K. The Shoulder in Hemiplegia. USA: Churchill Livingstone; 1997:205–227.
7.Pop T. Subluxation of the shoulder joint in stroke patients and the influence of selected factors on the incidence of instability. Ortop Traumatol Rehabil. 2013; 15: 259–267.
8.Zorowitz RD, Idank D, Ikai T, Hughes MB, Johnston MV. Shoulder subluxation after stroke: A comparison of four supports. Arch Phys Med Rehabil. 1995; 76: 763–771.
9.Ada L, Foongchomcheay A, Canning C. Supportive devices for preventing and treating subluxation of the shoulder after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2005: CD003863

     

<最後に>
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