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脊髄損傷によって生じた上肢機能の障害に対して,有酸素運動による機能練習は有効であるか?

UPDATE - 2022.10.24

<抄録>

 脊髄損傷患者においては,不動による廃用症候群や心肺疾患,褥瘡や痛みといった二次的な合併症が発生すると言われている.これらの対象者は脊髄損傷によって生じた機能障害に加え,二次的合併症によって,さらに日常生活活動が困難になる.従って,比較的機能残存が認められることが多い上肢を用いた有酸素運動を継続的に行い,不動の予防と,二次的な合併症の発生を予防する必要がある.本コラムでは,脊髄損傷患者に対して,残存した上肢機能を用いた有酸素運動が,最大摂取酸素量を始めとした全身対応能や,肺機能,さらには,日常生活活動等にどのような影響を与えるかについて,解説を行う.

     

1.脊髄損傷患者に対して有酸素運動が必要な背景

 脊髄損傷に伴う身体的な障害を有する疾患であるが,障害によって生じた不動により,廃用症候群や心肺疾患の併発,褥瘡や痛みといった二次的な合併症によって,死亡率が変化するといわれている.さらに,脊髄損傷患者の場合,外傷等によって受傷することも多く,他の臓器や解剖的構造にも影響を受けていることがあるため,心肺,膀胱,消化器,性機能障害等,様々な合併症が生じる可能性が指摘されている1.
 さて,脊髄損傷患者に対するリハビリテーションはさまざまな手法が存在するが,その中でも有酸素運動に関して,近年注目を集めている.有酸素運動については,上記に示した二次的な合併症である内部疾患を予防することも重要であるが,それ以上に日常生活活動のさまざまな場面において,車椅子操作をはじめとした上肢を中心に使用する生活様式に,適応する必要性が挙げられている.
 さて,これら脊髄損傷患者の日常生活活動の遂行において,重要な要素の一つである上肢機能であるが,多くの研究によって,なんらかの上肢機能練習を実施した際には,上肢機能の向上は認められると報告してされている.しかしながら,こと有酸素運動に関して,上肢機能を含めた合併症に対する影響について触れた研究は非常に少ないと考えられている.

     

2.脊髄損傷患者の上肢機能障害に対する有酸素運動の効果について

 Akkurtらは,脊髄損傷を呈した対象者に対して,残存している上肢を用いた有酸素プログラムを用いたアプローチの効果について,ランダム化比較試験を用いて検討している.彼らは,介入群については,アームエルゴメーターを用いて,週に3日,トータルで1.5時間,最大酸素摂取量の50%から70%程度の負荷を用いた有酸素運動を実施した.加えて,対照群には,一般的な運動を一日2セッション,週に5日間提供した.その結果,有酸素運動を実施した群については,最大酸素摂取量が有意ではないものの,臨床上の意味のある最小変化量を超える改善を認めた.一方,対照群においては,全てのアウトカムにおいて,介入前後で有意な改善を認めず,さらに臨床上意味のある最小変化量を超える変化も認めることがなかったと報告している.この結果から,脊髄損傷患者の残存機能である上肢を用いた有酸素運動は,最大酸素摂取量といった運動対応能に良好な一定の影響を与えるかもしれないが,その変化は小さいものであり,今後も多くの研究によって,検証の必要があると考えられている.

     

3.まとめ

 今回,脊髄損傷患者の上肢に対する有酸素運動の効果についてまとめた.この分野は,新興分野であり,そもそもの研究自体が非常に少ない.また,上記で取り上げた論文についても,ランダム化比較試験であるものの,両軍の時系列における統計的有意差を比較しているものの,直接群間の変化量の比較については行っておらず,研究デザイン的にも問題が多い.今後もこの分野の研究については,中止しつつ,情報のアップデートを行う必要があると思われた.

     

引用文献
1.Knechtle b, Müller G, Willmann f, Eser p, Knecht h. comparison of fat oxidation in arm cranking in spinal cord-injured people versus ergometry in cyclists. Eur J appl physiol 2003;90:614-9.
2.Kloosterman MG, Snoek GJ, Jannink MJ. Systematic review of the effects of exercise therapy on the upper extremity of patients with spinal-cord injury. spinal cord 2009;47:196-203.
3.Spooren AI, Janssen-Potten YJ, Kerckhofs E, Seelen HA. Outcome of motor training programmes on arm and hand functioning in patients with cervical spinal cord injury according to different levels of the icf: a systematic review. J rehabil Med 2009;41:497-505.
4.Akkurt, Halil, et al. “The effects of upper extremity aerobic exercise in patients with spinal cord injury: a randomized controlled study.” Eur J Phys Rehabil Med 53.2 (2017): 219-227.

     

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