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ロボット療法における様々な効果の要因を探る

UPDATE - 2022.10.28

<抄録>

 ロボットアシストトレーニングは,脳卒中後の上肢麻痺の回復過程を促進するために,高強度、反復的、課題特異的なアプローチを提供するソリューションの一つとして考えられている.また,1990年代初旬から,多くの疫学的な検証がなされているため,ロボットアシストトレーニングの効果に影響を与える因子を、システマティックレビューやメタアナリシスといったエビデンスレベルの高い研究方法を用いて検証することが可能である.本コラムにおいては,ロボットアシストの動力や形態の違い(エンドエフェクター型ロボット、外骨格型ロボット)が効果に影響を与えるかどうか,脳卒中発症からの期間が効果に影響を与えるかどうか,といった個別因子について,解説を行うことを目的としている.

     

1.ロボットアシストトレーニングの背景について

 世界保健機関(WHO)は,脳卒中について『局所的(または全体的)な脳機能障害の臨床症状が急速に発現し,症状が24時間以上持続するか,死に至るもので,血管性以外の原因となるものがない状態』と定義をしている.現在,脳卒中は世界においても,有数の死亡要因の一つと言われている.ただし,その死亡率以上に近年問題視されているのが,発症後から長期にわたる後遺症である.脳卒中患者の大半が,長期にわたる後遺症を抱えており,社会的、経済的に深刻な影響を及ぼしている.特に脳卒中後の上肢における後遺症は,対象者のQuality of lifeを脅かす上に,脳卒中発症から6ヶ月後においても,脳卒中を発症した患者全体の約50%が慢性的な上肢の麻痺を有していると考えられている1.そして,上肢に対するアプローチにおいては,初期段階の麻痺の重症度が予後を予測するための大切な指標の一つと考えられている一方,能動的,高強度な介入を実施することで,その機能予後は大きく変化するとも考えられている2, 3.代表的なアプローチの中に,ロボットアシストトレーニングがある.このトレーニングは様々な形態のロボットを用いて,高強度、反復的かつ能動的な上肢トレーニングを実現できるものである.1990年ごろから多くの機種を用い,ロボットアシストトレーニングは継続されてきているものの,どういった機種に優位性があるかについては,議論がまだまだなされていないところがある.事項においては,その点について,解説を行う.

     

2.ロボットの動力や制御様式の違いが脳卒中後の上肢運動障害の改善に影響を与えるのか??

 Bertinらは,電子書誌データベースCochrane、MEDLINE、EMBASEで行った。合計17件の研究が含まれた。無作為化比較試験14件、システマティックレビュー2件、メタ分析1件を分析し,システマティックレビューおよびメタアナリシスを実施している.これらの検討の結果,ロボットアシストトレーニングが,対照軍に比べて,良好な結果をfixed effect modelおよびrandom effect modelの双方で残せた因子は,慢性期の対象者に関するロボットアシストトレーニングと,外骨格型のロボットを用いたロボットアシストトレーニングがFugl-Meyer Assessmentにおいて,対照群よりも良好な結果を残せたということが示されていた.しかしながら,外骨格型のロボットに関するメタアナリシスについては,対象の論文が3本と対象が少なすぎることから,筆者らも明確な結果としては,位置付けていない.

     

3.まとめ

 今回は,ロボット療法の効果に関わる因子について,解説を行った.これらの点に関しては,非常に難しい点が多い.例えば,Tersellらのガイドラインにおいては,手指に関しては外骨格型のロボットが有効であるが,上肢に対しては有効性が低いことなどが示されており,さらに部位という部分を細分化すると結果がまた異なる可能性も出てくる.こういった効果に対するエビデンスについても,ロボット療法やConstraint-induced movement therapyといった多くのエビデンスレベルが高い研究がなされている分野については,システマティックレビューやメタアナリシスのレベルで、因子分析が行われる必要性を感じる.

     

引用文献
1.Kwakkel G, Kollen BJ, van der Grond J, Prevo AJ (2003) Probability of regaining dexterity in the flaccid upper limb: impact of severity of paresis and time since onset in acute stroke. Stroke 34(9):2181–2186
2.Van Peppen RP, Kwakkel G, Wood-Dauphinee S, Hendriks HJ, Van der Wees PJ, Dekker J (2004) The impact of physical therapy on functional outcomes after stroke: what’s the evidence? Clin Rehabil 18:833–862
3.Fasoli SE, Krebs HI, Stein J, Frontera WR, Hogan N (2003) Effects of robotic therapy on motor impairment and recovery in chronic stroke. Arch Phys Med Rehabil 84(4):477–482
4.Bertani, R., Melegari, C., De Cola, M. C., Bramanti, A., Bramanti, P., & Calabrò, R. S. (2017). Effects of robot-assisted upper limb rehabilitation in stroke patients: a systematic review with meta-analysis. Neurological Sciences, 38(9), 1561-1569.
5.Bertani, R., Melegari, C., De Cola, M. C., Bramanti, A., Bramanti, P., & Calabrò, R. S. (2017). Effects of robot-assisted upper limb rehabilitation in stroke patients: a systematic review with meta-analysis. Neurological Sciences, 38(9), 1561-1569.
6.Teasell, R., et al. “Stroke rehabilitation clinician handbook.” London, ON: Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation (2020).

     

<最後に>
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