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3Dプリンタで作る作業療法の新しい可能性(1)-片手で使えるプロダクト(自助具)について-

UPDATE - 2022.11.14

<抄録>

 作業療法において,歴史的に対象者の意味のある作業を達成するために,環境調整によるアプローチは主柱の一つと考えられている.自助具とは,一時的あるいは永久的に、身体に障がいをおった方が,その失われた機能を補って,様々な活動を可能にするよう考え,工夫がなされた道具のことを指す.また,昨今では3Dプリンタを用いた自助具の作成に注目が集まっている.本コラムにおいては,Social Network Service(SNS)上で話題になっている自助具について,3回に渡り紹介を行っている.第1回は,作業療法における自助具の立ち位置についてまず解説を行う.

     

1.自助具の概要

 自助具とは,一時的あるいは永続的に,身体に障害をおった方が,その失われた機能を補って,様々な動作ができるように考え,工夫された道具を指す.また,英語では「Self-heip device」や「Associative device」といった言葉で表現されている.自助具は福祉用具に含まれ,福祉用具の中には,日常生活用具や舗装具,介護用品,自助具等があり,その中でも比較的小さな構造のもので,対象者の身近な日常生活活動の遂行を援助するために開発された道具を指す.

     

メモ 福祉用具とは
 「心身の機能が低下し,日常生活を営むのに支障のある老人および心身障害者の日常生活上の便宜を図るための用具及びこれらの者の機能訓練のための用具並び補装具をいう」と定義されている.この定義は『福祉用具の研究開発および普及の促進に関する法律』(平成23年6月24日法律第74号)に記載されている.

     

2.自助具に必要な条件

 自助具は対象者の日常生活活動を支援する道具であり,生活を便利にする道具である.しかしながら,それらの道具を利用することで,心身にストレスが加わったり,危険にさらされたりしては決してならない.そういったリスクを回避するために,自助具に求められる要件が設定されている.以下に自助具に必要な要件について,10項目を記載する.

(1)安全性が高い
(2)軽くて丈夫
(3)入手が簡単(市販されているもの)
(4)肌触りが良い(直接肌に触れる部分は、滑らかに加工する)
(5)構成が単純で簡単
(6)作製・操作が容易
(7)破損しにくく修繕が可能
(8)目立たず外見上受け入れやすい(感覚・色彩・形など)
(9)装着が容易(サイズ・適合性)
(10)適切な価格など

 従来の自助具作成では,介護用品販売業者等が販売している市販されているものから,対象者の身体機能や生活に合わせた業者または作業療法士が作成したオーダー品まで様々な道具が存在する.その中でも,作業療法士が手作りした場合は,作業療法士本人のものづくりの能力にも左右されることが多く,担当作業療法士が何らかの理由でいなくなった場合,作成した自助具に対するメンテナンスが不可能になり,いくら便利な自助具であっても永続的な使用が困難になることがしばしばあった.

     

3.作業療法士の自助具作成におけう3Dプリンタの出現

 3Dプリンタとは,3DCADデータを用いて,樹脂素材による立体造形を実現する機器を指す.その歴史は意外に古く,初期の機器は1980年代に開発され,一部の愛好家の中で,実用化されてきた.しかしながら,2000年代の後半より,中国企業の資本投入により,低価格なものが導入され,個人でも利用が可能になりつつある.現在では安いものであれば3万円以下から販売されており,個人が安易に手に入れやすいものとなっている.
 造形に関して,従来ならば金型を製造し,樹脂を流し込む等の手法が取られており,大量生産性がなければ,製作コストが非常に高騰し,少数のプロダクト作成が困難であった.3Dプリンタも,最初の利用としては,企業等で金型作成の前段階のブレインストーミング等で利用されていた.しかしながら,近年では3Dプリンタの精度も上がってきたことから,少数ロットの造形政策において,主力として用いられるようになってきた.
 近年では,上記のような特徴を持つ3Dプリンタを利用した障がい等を有する対象者の方へのオーダーメイドな自助具作成が,作業療法の分野においても盛んになってきている.例えば,公の機関では,国立障害者リハビリテーションセンター研究室では,硯川らが,ワークショップ等を通して,障がいを有する当事者とともに3Dプリンタをどのように活用していけるかについて議論を重ねている1.その中で,対象者からのニーズを聴取した上で,様々な自助具を作成している.さらに,川崎市(社会福祉法人川崎市社会福祉事業団)と共同研究等を通して,当事者,エンジニア,そして,作業療法士とともに,障がいを有する対象者を支援する試み等が実施されている2.
 これらからもわかるように,作業療法における自助具作成と3Dプリンタの親和性は非常に高いことが窺える.次回は,実際に3Dプリンタを用いて作成された自助具について,紹する.

     

引用文献

  1. 1.国立障害者リハビリテーションセンター研究所 福祉機器開発部福祉機器開発室:自助具ワーク ショップ>3D フプリンタで作る自助具のデザイン.URL:http://www.rehab.go.jp/ri/ kaihatsu/suzurikawa/res03_jijogu.html( 参 照 日:2022 年9月1日)
  2. 2.川崎市:3D フプリンタを使った自助具作成のデザイン (2019年 6 月 6 日 ),URL:http:// www.city.kawasaki.jp/280/page/0000096370. html(参照日:2022 年9月1日)

     

<最後に>
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