■抄録
脳卒中後において,上肢麻痺と同様に,肩の痛みは重要な因子の一つである.肩の痛みそのものも生活を阻害し,Quality of lifeを下げる要素であるが,加えて上肢麻痺の不使用および無視等にも二次的に影響を及ぼし,機能予後を押し下げる可能性がある.本コラムでは,脳卒中後に生じる肩の痛みに対する電気刺激療法のエビデンスについて,解説を行う.
■目次
1.脳卒中後の肩の痛み
2. 脳卒中後肩関節の痛みに対する電気刺激療法のエビデンス
3. まとめ
1.脳卒中後の肩の痛み
脳卒中後の肩の痛みは一般的な物として臨床では受け止められている.肩の痛みに対する長期的な研究では,脳卒中後に片麻痺を生じた対象者の3/4近くが,発症後12ヶ月間に肩の痛みに悩まされている事が先行研究にて言われている.特に肩の痛みは,脳卒中後の片麻痺の重症度に依存して生じる物ではなく,痛みが生じることにより,麻痺手に対する逃避および無視が生じ,麻痺手の使用頻度の低下に起因する機能予後の低下につながるのかもしれない1).肩の痛みについては、様々な要因が寄与していると考えられている.それらの要因として代表的なものは,片麻痺に由来する肩関節痛,麻痺手の機能低下,肩甲挙筋の筋力低下,異常筋緊張,上腕肩甲関節の亜脱臼,感覚障害,注意障害と関連があると言われている2)-7).
さて,これらの痛みに対するアプローチの一つとして,末梢電気刺激療法が挙げられる.これらのアプローチは50年以上前から実施されており,末梢の筋萎縮の改善,収縮力の向上,痙縮の減少や感覚野の興奮性の増大等が期待されている.なお,これらの期待される効果の中で,痙縮の減少および感覚野の興奮性の増大は,求心性の電気刺激(随意的な関節運動を含む電気刺激に付随する体性感覚や視覚によって提供される追加情報)によって引き起こされる.これまでの臨床報告によると,電気刺激療法は筋力増強,関節のアライメント調整,筋緊張の抑制,感覚障害の改善,多動運動にて痛みなく外旋できる角度(Pain-free range of passive humeral lateral rotation [PHLR]),自己申告式の痛みが改善すると報告されている8)-10).
2. 脳卒中後肩関節の痛みに対する電気刺激療法のエビデンス
最近のメタアナリシスでは,脳卒中発症後早期(6ヶ月以内)に生じる肩の痛みと脳卒中発症後後期(6ヶ月以降)の両方の病期において,脳卒中後に生じる肩関節亜脱臼と疼痛に対する電気刺激療法の効果を調べるために,10報のランダム化比較試験が検討された11).その結果,脳卒中発症後後期においては有意な効果を認めなかったが,早期において,特に肩亜脱臼の予防/軽減において,末梢神経筋肉電気刺激を併用した従来のアプローチは,介入は従来のアプローチを単独で行うよりも,有意に効果が高いことが証明された.
Stroke rehabilitation clinician handbook 2020において,現在の結論としては,肩関節に対する電気刺激療法は,脳卒中後片麻痺を呈した対象者の亜脱臼の軽減と可動域の改善において,有効な可能性がエビデンスとして示唆されている.また,電気刺激療法は,脳卒中後に生じる片麻痺に由来する肩関節痛についても有効な可能性が示唆されている.ただし,亜脱臼の軽減および片麻痺に由来する肩関節痛に対する電気刺激療法は,脳卒中発症からの時間経過が経てば経つほど,その効果は減退すると示されている.
まとめ
脳卒中後に生じるかたの痛みに対して,電気刺激療法は亜脱臼の軽減と可動域の改善と並び効果がある可能性が示唆されている.昨今,上肢麻痺や感覚障害の改善においても電気刺激療法の可能性が大きく取り沙汰されている.脳卒中に関しては,病期を問わず,アプローチとして可能性のある手法の一つとされている.標準治療の一つとして取り入れる施設が一つでも増える事が望まれる.
■引用文献
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