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脳卒中後の上肢麻痺に併発する痙縮に対する評価『Modified Ashworth Scale』について

UPDATE - 2021.11.5

<抄録>

 脳卒中後に生じる上肢麻痺に併発する痙縮は,リハビリテーションを実施する上において,問題にのぼることが多々ある.痙縮とは,上位運動ニューロンにおける症候群の構成要素の一つである,筋緊張の増加に伴う筋肉の伸張反射の速度依存性の亢進と定義づけられている。本項では,痙縮を測定するための世界におけるゴールドスタンダードである『Modified Ashworth Scale』について、簡単に説明する.

     

1. 脳卒中後に生じる痙縮とは?

 痙縮の定義は,1980年にLanceらによって,『上位運動ニューロンにおける症候群の構成要素の一つである,筋緊張の増加に伴う筋肉の伸張反射の速度依存性の亢進』と定義づけられている.痙縮は,中枢神経の損傷を伴う疾患である脳挫傷,脳性麻痺,脳梗塞,脳出血,多発性硬化症等の神経難病や脊髄損傷など,多くの中枢疾患に損傷をきたす疾患において認められる症候である.例えば,脳卒中後に生じる痙縮の頻度としては,脳卒中患者の42.6%が痙縮を発症し,全体の15.6%の対象者が特に重度な痙縮を有していたと報告されており,脳卒中という疾患を切り取っても非常に多くの対象者が有する一般的な症候と言える.加えて,脳性麻痺等の先天性の疾患では,その割合はさらに高く90%を超えると言った研究も散見される.

     

2. 痙縮の病態

 痙縮をもたらす主な原因としては,入力側では,γ運動ニューロンの亢進,筋の形態学的変化による筋紡錘の感受性の上昇,Ia群線維のシナプス前抑制の低下,により速度に依存する伸張反射を司るⅠa線維の脱抑制が生じることが示されている.加えて,出力側ではα運動ニューロンへの興奮性入力の増大, α運動ニューロンへの抑制性入力減少,シナプス後膜感受性過敏化,発芽現象などにより,伸張反射活動の亢進をもたらす可能性が示唆されている.

 痙縮(特に重症度の高いもの)は,対象者の日常生活活動の阻害となるにとどまらず,精神面,就労における収入面にも大きな影響を及ぼすと考えられている.中枢神経障害によって生じるこれらの現象に対しては,正確な評価を実施した上で,アプローチおよびマネジメントの必要性が挙げられており,ゴールドスタンダードな検査によって妥当性・信頼性の高い評価が必要になる.

     

3. 脳卒中後に生じる痙縮を測るアウトカムであるModified Ashworth Scaleについて

Modified Ashworth Scaleは,世界で最も利用されている脳卒中後の筋緊張の変化の一つである痙縮を示すアウトカムの一つである1 1964年にAshworthらは,多発性硬化症の治療に関わる中で,痙縮を評価する方法として,Ashworth scaleを発表した.その後に, Bohanonら(1987)は,Ashworth scaleの肘関節における評価間信頼性を調べる研究を行った結果から,元々0から4までの5段階だったAshworth scale(0は弛緩,4は患部が屈曲・伸展時に硬直して動かない)(Ashworth, 1964)の感度を向上させるために,1+を加えて,6段階のModified Ashworth Scaleを作成した(Bohannon, 1987).それ以来,Ashworth scaleに対し,Modified Ashworth Scaleが臨床や研究において,主に使用されている.なお,Modified Ashworth Scaleの順序尺度は以下の通りである(Ansari NN, 2008).

0: 筋緊張の増加なし

1: 筋緊張がわずかに増加し、患部を屈曲または伸展させたときに可動域の末端で最小限の抵抗を伴う。

1+: 初動時に筋緊張のわずかな増加を認め、その後、可動域の残り(半分以下)で最小限の抵抗がある。

2: 可動域の大部分で筋緊張が著しく増加するが、患部はまだ容易に動かすことができる。

3: かなり筋緊張が増加し、受動的な動作は困難

4: 患部が屈曲・伸展時に硬直し、動かない

 ただし,ゴールドスタンダードであり,世の中で多くの人に使用されてはいるものの,徒手的な検査特有の評価者内および評価者間信頼性が低いことに対して,批判は少なからず報告されている(Zurawski, 2019).これらの批判をもとに,痙縮に対する検査として,Modified Tardieu Scale, Wartenberg Pendulum Test、Clinical Gait Analysis、Penn Spasm Frequency Scale、Visual Analog Scale、Spinal Cord Assessment Tool for Spasticityなどの方法が開発され,部分的に使用されているものの,Modified Ashworth Scaleを超える存在感はなく,いずれの評価も限界が示されている.ただし,一部の研究(Numanoglu, 2012)の研究では,評価者内信頼性において,Modified Ashworth Scaleげ平均以下を示していたことに対し,Modified Tardieu Scaleは平均以上を示したと言った研究も存在し,痙縮に対する検査への世界の評価も変わりつつあるのかもしれない.

     

引用文献

  1. 1.Inter- and intra-rater reliability of the modified ashworth acale: a systematic review and meta-analysis. Eur J Phys Rehabil Med 54: 576-590, 2018
  2. 2.Ashworth B: Preliminary trial of carisoprodol in multiple sclerpsis. Practitioner 192: 540-542, 1964
  3. 3.Bohannon RW, et al. Interrater reliability of a modified ashworth scale of muscle spasticity. Phys Ther 67: 206-207, 1987
  4. 4.Ansari NN, et al: The interrater and intrarater reliability of the modified ashworths scale in the assessment of muscle spasticity: limb and muscle group effect. NeuroRehabilitaiton 23: 231-237, 2008
  5. 5.Zurawski E, et al: Interrater reliability of the modified ashworth scale with standardized movement sppeds: a pilot study. Physiother can 71: 348-354, 2019
  6. 6.Akpinar P, et al: Reliability of the modified ashworth scale and modified Tardieu Scale in patients with spinal cord injuries. Spinal Cord 55: 944-949, 2017

     

<最後に>
【11月26日他開催:脳卒中後の痙縮の病態理解と介入戦略】
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