<抄録>
近年,世界の主要学会から,定期的にガイドラインやエビデンス集が発表されている.例にももれず,本邦においても,脳卒中ガイドラインが存在する.脳卒中ガイドラインは,2015年の発行を最後に,更新がなされていなかったが,この度2021が発刊されている.本、コラムにおいては,脳卒中ガイドライン2021 上肢機能障害に関する項目について,雑感を述べたいと思う.
1.上肢機能障害における脳卒中ガイドラインとアメリカ心臓学会,アメリカ脳卒中学会のガイドライン2016との違い
上肢機能障害に対するリハビリテーションにおいて,脳卒中ガイドライン2015では表1のようにまとめられている.次に,2021では表2のように変更がなされた.
今回の更新において,世界で最も使用されているガイドラインの一つであるアメリカ心臓学会,アメリカ脳卒中学会が2016年に合同で発行しているガイドライン1の内容に非常に近いものとなった.一方,解説においては,本邦の脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションの現状についても触れられたものとなっている.
前回からの大きな変更点としては,ロボット療法に関する言及がなされたことである.ロボット療法に関しては,「(脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションにおいて)ロボット療法は,中等度から重度の上肢麻痺を呈した対象者に対して練習量を確保するための有用な機器である」と言った運用面におけるエビデンスについて,2016年に発刊されたアメリカ心臓学会、アメリカ脳卒中学会が発行したガイドライン1においては既に,エビデンスレベルA,ClassⅡa(効果的もしくは役に立つ,好意的なアプローチとして推奨する,ただし,いくつかのランダム化比較試験およびメタアナリシスでは,効果のエビデンスにおいて矛盾も認められる)が示されていた.これを鑑みると世界のガイドラインよりもかなり遅れて,記載がなされたということになる.しかし,2020年4月から施行された,運動器増加機器加算の影響もあり,本邦においてもロボットを使用できる環境や資源がそれなりに整ってきたことが反映されたのかもしれない.ただし,それを鑑みた上でも,療法士が提供できる一般的なアプローチに比べると実現可能性,汎用性が低いことを鑑み推奨度がBとなされた可能性も推測できる.
また,2015年の脳卒中ガイドラインから記載されている電気刺激療法についても,微細な変更がなされている.前回は手関節背屈筋群,手指伸筋群という限定がなされている.しかし,今回のガイドラインでは,刺激部位に関わらない旨と,特に亜脱臼に関する部分が強調されている.これも前出のアメリカ心臓学会、アメリカ脳卒中学会のガイドライン1(エビデンスレベルA,ClassⅡa[効果的もしくは役に立つ,好意的なアプローチとして推奨する,ただし,いくつかのランダム化比較試験およびメタアナリシスでは,効果のエビデンスにおいて矛盾も認められる])と同様の記載となされている.世界では,かなり前から手指・手関節以外の部分にも電気刺激療法は使用され,ランダム化比較試験およびメタアナリシスやシステマティックレビューにより,効果のエビデンスが重ねられていた.これを鑑みると,今回のガイドラインの変更において,世界水準のより広い使用用途が推奨されたことが考えられている.
加えて,運動イメージに対する言及についても2000年初頭から多くの,世界における他の多くのガイドライン,エビデンス集においても早くから,ランダム化比較試験およびメタアナリシスやシステマティックレビューが実施され,効果のエビデンスが示されていたことからも,記載は妥当であると考えられる.ちなみに,前出のアメリカ心臓学会、アメリカ脳卒中学会のガイドライン1では,エビデンスレベルA,ClassⅡa[効果的もしくは役に立つ,好意的なアプローチとして推奨する,ただし,いくつかのランダム化比較試験およびメタアナリシスでは,効果のエビデンスにおいて矛盾も認められる]とされている.
最後に,推奨文の最後に促通手技を反復する練習,振動刺激,感覚刺激,迷走神経電気刺激,についても,一部触れられている.これらについては,本邦の研究者における数本のランダム化比較試験によって,効果を認めた事実はあるものの,メタアナリシス,システマティックレビューの不足(おそらく,多施設(多くの国家も含む)における多角的な立場の研究者によるランダム化比較試験も含むと予測される)ということで推奨文には含められていない.これらについても,世界のガイドラインと比較する中でも,妥当な記載であると思われた.
引用文献
- Winstein, Carolee J., et al. “Guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery: a guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association.” Stroke 47.6 (2016): e98-e169.
<最後に>
【11月26日他開催:脳卒中後の痙縮の病態理解と介入戦略】
痙縮や痙性麻痺の病態、評価、治療、管理に関して、臨床での意思決定に繋がる内容を全6回にわたり概説する。
hhttps://rehatech-links.com/seminar/21_10_08/
【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
2,失認–総論から評価・介入まで–
3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
–医療機関における評価と介入-
4,高次脳機能障害における就労支援
–制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
5,失行
6,半側空間無視
通常価格22,000円(税込)→16,500円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/