<抄録>
脳損傷後の上肢麻痺は,対象者の日常生活活動およびQuality of lifeに負の影響を与えると考えられている.この上肢麻痺に対して,Constraint-induced movement therapy(CI療法)は,成人の脳損傷患者に対して,効果のエビデンが確立されている.ただし,近年,麻痺手のみ介入を行うCI療法と,両手に同時に介入を実施する両手動作練習の効果を比較する動きがある.脳損傷後の成人の対象者においては,両療法ともに効果があると言われており,2つの療法間に有意な差はないと考えられている.近年,こういった検証が小児期の脳損傷児においても広まっている.本コラムにおいては,小児期の脳損傷によって上肢麻痺を呈した対象者が,CI療法および上肢機能練習から受ける影響について,複数のランダム化比較試験の結果から論述を行う.
1.脳損傷後の成人における麻痺手に対するConstraint-induced movement therapy(CI療法)と両手動作練習について
成人の脳卒中患者は,発症後6ヶ月時点で38 %の対象にある程度の巧緻性の改善が認められるものの,日常生活で利用できる巧緻性の再獲得は,わずか12 %に留まるとされる1.Pollockら2のレビューによると,脳卒中患者における麻痺手の機能はActivities of Daily Living(以下,ADL)や健康関連Quality of Life(以下,QOL)に関係しているとされている.また,近年ではKellyらが,脳卒中後の麻痺手に対するリハビリテーションにおいて,麻痺手の機能よりも実生活における使用頻度の改善の方が,QOLの改善に対し関係性が高いことも示唆している3.
成人の脳損傷患者にとっても,脳損傷後の上肢麻痺は様々な因子に悪影響を与えることがわかる.その上肢麻痺の運動障害について,効果のエビデンが確立された療法の一つにConstraint-induced movement therapy(CI療法).CI療法は,アメリカ心臓/脳卒中学会のガイドラインでもエビデンスレベルAとされており,非常に有望なアプローチとして推奨されている.しかしながら,麻痺手に対して集中的な課題指向型練習を実施することから,「非倫理的である」「非麻痺手の拘束がストレスを与える」「非麻痺手の拘束により転倒等の付帯的なリスクがある」など,一部の医療従事者から批判があがっている.
そういった背景の中で,脳損傷後の麻痺手に対するアプローチ方法として,両手動作練習が10年ほど前から登場している.実際,Brunnerらは,脳卒中後に上肢麻痺を呈した対象者を対象に,CI療法と両手動作練習うをランダム化比較試験を用いて,比較検討した結果,上肢麻痺の改善量に有意な差は認めなかったと報告している4.
2.脳損傷後の小児事例における麻痺手に対するCI療法と両手動作練習について
近年では,成人領域だけでなく,小児領域でもCI療法と両手動作練習に関する効果の比較検討が進んでいる.この理由としては,成人例でもあげた倫理や心理的ストレスの問題に加え,小児例の先天性障害を有する対象者の場合,非麻痺手も厳密にゆうと障害を有している場合が多いことが挙げられている.例えば,Sakzewskiら5は,先天性に片側の上下肢に麻痺を有した対象者において,10日間で60時間のCI療法と両手動作練習の効果を比較検討している.その結果,両群ともに上肢機能は改善したが,麻痺手だけの機能を観察すれば,CI療法群の方が,両手動作群に比べ有意な改善を認めたと報告されている.しかしながら,両上肢の機能を比較した際には,両手動作練習を実施した群に有意な改善が認められており,前述の仮説の確かさを示しているのかもしれない.Bingölら6も,先の研究と同様の結果を報告している.平均年齢10歳の小児片麻痺児を対象に,CI療法および両手動作練習について,ランダム化比較試験を用いて比較している.その結果,介入直後においては,試験中に採取した全てのアウトカムにおいて,両手動作練習群よりもCI療法軍の方が有意な改善を示し,その効果は16週間維持されたと報告している.一方,Gordonら7は,同様に脳性麻痺を呈した片麻痺児童に対して,CI療法と両手動作練習について,ランダム化比較試験を用いて比較検討を行っている.その結果,CI療法と両手動作練習は,麻痺手の機能的な側面においては効果に有意な差は認めなかったと報告している.しかしながら,Goal attainment Scaleによって測定した対象児童の練習による個々の目標達成率については,両手動作練習の方がCI療法よりも有意な進展を遂げたと示している.
これらの結果から,小児期の脳損傷によって上肢麻痺を呈した対象者において,CI療法と両手動作練習はそれぞれの特徴を持つ可能性が示された.これらを理解の上で,対象の病態や行動特性によって,アプローチを使い分ける必要があると思われた.
引用文献
1.Kwakkel G, et al: Probability of regaining dexterity in the flaccid upper limb: impact of severity of paresis and time since onset in acute stroke. Stroke 34:2181-2186,2003.
2.Pollock A, et al: Interventions for improving upper limb function after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Nov 12;2014(11):CD010820.
Kelly KM, et al: Improved quality of life following constraint-induced movement therapy is associated with gains in arm use, but not motor improvement.Top Stroke Rehabil 25:467-474,2018.
3.Brunner IC, et al: Is modified constraint-induced movement therapy more effective than bimanual training in improving arm motor function in the subacute phase post stroke? A randomized controlled trial. Clin Rehabil 26: 1078-1086, 2012
4.Skzewski L, et al: Randomized trial of constraint-induced movement therapy and bimanual training on activity outcomes for children with congenital hemiplegia. Dev Med Child Neurol 53: 313-320, 2011
5.Bingöl H, et al: Comparing the effects of modified constraint-induced movement therapy and bimanual training in children with hemiplegic cerebral palsy mainstreamed in regular school: A randomized controlled study. Arch Pedoatr: S0929-693X(21)00244-X, 2022
6.Gordon AM, et al: Bimanual training and constraint-induced movement therapy in children with hemiplegic cerebral palsy: a randomized trial. Neurorehabil Neural Repair 25: 692-702, 2011
<最後に>
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