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脳卒中後の上肢麻痺に対するロボット療法の効果は,研究において,どうしてこれほどバラ付きがあるのだろうか(3)

UPDATE - 2022.9.2

<抄録>

 世界中の主要な脳卒中後のリハビリテーションに関するガイドラインにおいて,ロボット療法は,療法士が提供する一般的なリハビリテーションと同等の効果を示すとされている.特に中等度から重度の上肢麻痺を有した対象者においては,対象者が療法士の助けを借りることなく,自主練習によって麻痺手を用いた練習量を確保することができる,と報告されている.これらの背景から,『練習量を確保するための機器』として,ロボット療法は,効果のエビデンスが確立されている.しかしながら,多くの論文を丁寧に読み解くと,研究ごとの結果の差が大きいことに気づく.本コラムにおいては,これらロボット療法に関わる多くの研究において,結果の差が大きくなる原因について,様々な観点から論考を進めていこうと考えている.

     

1.ロボット療法が最も効果を示すことができる脳卒中後の上肢麻痺の重症度について

 前回のコラム『脳卒中後の上肢麻痺に対するロボット療法の効果は,研究において,どうしてこれほどバラ付きがあるのだろうか(2)』にて示した内容で,ロボット療法の結果に影響を与えうる要因の一つとして,脳卒中後の上肢麻痺の重症度に関して取り上げた.本コラムにおいては,特にロボット療法の適応となる麻痺手の重症度について論述を行う.
 さて,脳卒中後上肢麻痺を低下対象者において,ロボット療法から最も恩恵をうける対象者の重症度は,ロボットが外力によるアシストを行えることから,より重度の対象者において,その恩恵はより大きいだろうと,理論的な観点から論じられていた.それに対して,客観的なデータ分析から,ロボットの対象となる重症度を調査したHsiehらの研究がある.彼らは,バイマニュアルトラックという両手にて操作するロボットを用いた研究を実施している.その研究の中で,介入前の麻痺手の麻痺の程度を評価するFugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢項目の値が約35〜42点程度の中等度の麻痺を有する対象者が,両手にて操作するロボット療法において,最も恩恵を受ける対象者であることを示した.この結果は,ロボット療法は,より重症の対象者に良い結果をもたらすと言った理論的仮説とは若干違う結果となった.
 次に,Takahashiら2の研究では,エンドエフェクター型のロボットであるReoGo-Jを用いた研究において,最もロボット療法の恩恵を受ける対象者層を探索している.彼らの報告では,介入前のFMAの上肢項目の値が30点以上であった場合,ロボット療法群と対照群の間で有意な上肢機能の変化量の差は認めなかった.一方,介入前のFMAの上肢項目の値が30点未満であった場合,ロボット療法群は対照群に比べ,有意な上肢機能の改善を認めたと報告している.この結果から,ReoGo-Jについては,中等度から重度の麻痺を有する対象者において,より効果を示すことができる機器である可能性が示唆された.さらに,筆者らは,Takahashiらの研究のサブ解析を行い,恩恵を受ける対象者に関するより詳細な分析を実施した.その結果,介入前のFMAの屈曲共同運動の点数が6点から9点の対象者において,対照群に比べてより良い結果を享受できる可能性が示唆された.これは,ReoGo-Jというロボットを自主練習で用いることにより,麻痺手の麻痺の程度を示すBrunnstrom recovery stageの上肢項目において,StageⅡもしくはⅢからⅣに改善させるための機器である可能性が示唆された.これら上記の2論文の結果を鑑みても,機器の制御様式やコンセプトによっては,最も恩恵を受ける対象者は異なる可能性が考えられた.
 最後に,Everardらのシステマティックレビューとメタアナリシス結果から考えていく.彼らの35本のロボット療法に関する論文からシステマティックレビューとメタアナリシスを行い,重症度によるロボット療法の効果を調べている(この研究はロボットの制御方式や,機種については多種のものを混合して分析している).この研究の結果,ロボット療法を受けた脳卒中後に上肢麻痺を有した対象者の中で,介入前のFMAの上肢項目の値が,15点から34点の対象者のみ,対照群よりも上肢麻痺の改善を認めたと報告している(一方,介入前のFMAの上肢項目の値が34点以上の対象者においては,対照群に比べて有意な変化量の差は認めなかった).これらの結果から,用いられるロボットの制御方式や機器の種別は異なるものの,重度から中等度の対象者がロボット療法による恩恵を受けることができる可能性がある.

     

引用文献
1.Hsieh, Yu-wei, et al. “Dose–response relationship of robot-assisted stroke motor rehabilitation: the impact of initial motor status.” Stroke 43.10 (2012): 2729-2734.
2.Takahashi K, Takebayashi T, et al. Efficacy of upper extremity robotic therapy in subacute post stroke hemiplegia: An exploratory randomized trial. Stroke 47: 1385-1388, 2016
3.Conroy, Susan S., et al. “Robot-assisted arm training in chronic stroke: addition of transition-to-task practice.” Neurorehabilitation and neural repair 33.9 (2019): 751-761.
4.Everard G, et al. New technologies promoting active upper limb rehabilitation after stroke. An overview and network meta-analysis. Our J Phys Rehabil Med 2022, online ahead of print.

     

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