<抄録>
1990年代後半から,脳卒中後に生じた上肢麻痺に対して,様々な治療的リハビリテーションプログラムが開発されてきた.また,その開発に際して,公衆衛生学や疫学の作法に則り,正確な研究デザインによる研究を通した効果検証も併せて実施されてきた.それらが進む中で,リハビリテーションプログラムの効果判定に関わるアウトカムについても少しずつ変化が見られている.当初はFugl-Meyer Assessmentで測ることができる麻痺の改善について焦点が当てられていたが,徐々にAction Research Arm TestやWolf Motor Function Testで測ることができるパフォーマンスレベルの改善に移り変わり,現在となっては,Motor Activity Logや活動量計と言ったセンサー系アウトカムが重要視されている.本コラムにおいては,現在重要視されつつある,センサー系アウトカムについての現状と,今後の開発における課題等について,3回にわたりまとめていく.第二回は,センサー系アウトカムの限界や課題について記載します。
1.脳卒中後に生じた麻痺側上肢の実生活における使用行動を測るアウトカムの限界と課題について
第一回の脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するセンサー類を用いたモニタリングシステムに必要とされている機能について(1)において,脳卒中後上肢麻痺に関する治療的リハビリテーションプログラムの開発とアウトカムの歴史について記載した.第二回は,発展を遂げてきたセンサー系アウトカムの限界や課題について解説する.
加速度計と言ったセンサーを用いたウェアラブルデバイスは,客観的なデータ測定を可能とし,大量のデータを収集することが可能である.しかしながら,今まで臨床において,療法士が測定するスペシャルテストを中心に実施してきた療法士に,これらの新しい工学的なアウトカムがすんなり受け入れられるかどうかは別の問題だと考えられている1.
これらの新しい工学的なデバイスは,何も加速度計だけに限らず,従来からの手法を用いる療法士の実践するリハビリテーションの現場にうまく採用され,使用される前に,多くの心理的,物理的な障壁を克服する必要があると,複数の研究者が報告している2, 3.さらに,療法士以上に大きな問題となるのが,対象者自身が,ウェアラブルセンサーの着脱を煩わしく思ったり,継続的に最新のデバイスの内容を理解した上で,装着・操作する能力を有さない場合が多い可能性についても報告がなされている2.実際,多くのデバイスが開発されてきたが,数十年に渡って,概念実証研究のレベルにとどまっており,多くの医学分野において,主流のプログラムとなってはいない.
概念実証研究においては,多くの研究が実施されている.上記のような対象者がデバイスを装着し,活動量計や加速度計によって生成された健康データ(工学的な技術を利用して背性されたデータや対象者の事故報告によるデータを含む)の出現は,対象者の医療に対する関わり方(対象者自身の疾患や医療に対する知識の向上やアドヒアランスの向上)や臨床に従事する医師や療法士のケアの提供方法(リモートによる行動変容を目的とした指導等)を変えてきていることは事実である4, 5.
ただし,ここ数十年の間に,工学的な技術は飛躍的に変化しており,デバイスの小型化,操作方法の勘弁化,Internet of things(IOT)やInformation Communication Technology(ICT)の改善により,データ管理に関するシステムの簡易化により,これらのデバイスを導入するためのリソースに関するバリアは大きく低下している印象がある.従って,物理的なバリアの多くは数十年前に比べると大きく変化している可能性がある.今後,医療者や対象者の心理的なバリアに対する介入が進むことによって,上記した有用なアプローチが実装できる可能性があると思われた.
まとめ
本コラムにおいて,センサーを用いた工学的なウェアラブルデバイスが臨床において数十年にわたり,一般化できなかった問題点と課題について解説した.その大きな要因としては,療法士と対象者における心理的なバリアが関連している可能性があることを示唆した.最終回となる第三回は,これらの心理的なバリアがどのように形成されたのか,これらについて理解することで,限界や課題を克服する鍵を探索したいと思う.
引用文献
- 1.Bauer MS, Kirchner J. Implementation science: what is it and why should I care? Psychiatry research. 2020;283:112376. pmid:31036287
- 2.Feldner HA, Papazian C, Peters K, Steele KM. “It’s All Sort of Cool and Interesting… but What Do I Do With It?” A Qualitative Study of Stroke Survivors’ Perceptions of Surface Electromyography. Frontiers in Neurology. 2020;11:1037. pmid:33041981
- 3.Ploderer B, Fong J, Klaic M, Nair S, Vetere F, Lizama LEC, et al. How therapists use visualizations of upper limb movement information from stroke patients: a qualitative study with simulated information. JMIR rehabilitation and assistive technologies. 2016;3(2):e9. pmid:28582257
- 4.Cortez A, Hsii P, Mitchell E, Riehl V, Smith P. Conceptualizing a data infrastructure for the capture, use, and sharing of patient-generated health data in care delivery and research through 2024. Office of the National Coordinator for Health Information. 2018;
- 5.Figueiredo MC, Chen Y, et al. Patient-Generated Health Data: Dimensions, Challenges, and Open Questions. Foundations and Trends® in Human-Computer Interaction. 2020;13(3):165–297.
<最後に>
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