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予後予測で用いられる研究デザインとは(3) −予後予測研究で用いられる統計用語や手法の基礎知識(2)−

UPDATE - 2021.9.20

<抄録>

 リハビリテーション領域において,予後予測は大切なスキルの一つである.リハビリテーション領域における予後予測の研究は年々増加しており,新しい知識を常に更新し続ける事が重要となる.ただし,予後予測関連の論文を参考にする際,結果や結論ありきで,知識を充足するだけでは,いささか不十分と言わざるをえない.最良の学習方法は,予後予測論文にて使用される研究デザインを理解し,論文読者自身が批判的吟味を加えながら,論文の結果や結論を理解する事が求められる.本稿では,リハビリテーションにおける予後予測論文の結果や結論を吟味する際に,最低限知っておかなければならない,統計用語や手法の基礎知識について,特に混乱を招きやすい,多変量解析における用語の解説と、リスク比、オッズ比について簡単に解説を行う.

     

1)独立変数と従属変数

 予後予測研究において,結果(実際の予後)を示す変数を従属変数,その結果を説明する変数(予後予測因子:予後を予測するために使用する臨床の変数)を独立変数と呼ぶ.独立変数は説明変数,従属変数は目的変数などとも呼ばれる.単変量,多変量解析において,利用される用語である.例えば,脳卒中後の上肢麻痺における予後予測において,「発症直後のFugl-Meyer Assessmentの上肢項目や,Diffusion tensor imagingによる内包後脚の残存量を独立変数とし,6ヶ月後のFugl-Meyer Assessmentの上肢項目を従属変数として,それらの関係性を検討する」といったような言い回しで使用されることが多い.

     

2)オッズ比,リスク比

 リスク比とは,相対リスクと呼ばれ,ある要因(高血圧等)を持っている人とそうでない人の間で,結果として,疾患や障害を有するリスクを示す値のことを示す.例えば,図1では,高血圧患者と非高血圧をそれぞれ100名調査した際,脳卒中発生率は高血圧患者で22名,非高血圧で6名が脳卒中を発症したとする.この際,高血圧患者における脳卒中発症率は,21%,非高血圧患者における脳卒中発症率は6%となる.従って,高血圧という要因は,脳卒中の罹患リスクを約3.67倍(22[%]÷6[%]≒ 3.67)高めることが示唆される(リスク比).このように前向き・後ろ向きのコホート研究等では,リスク比による比較が理解しやすい.

     


図1. リスク比の例題

     

 一方,後ろ向き研究の中でも,ケースコントロール研究の場合,図2に示す通り,得られる確率が,「脳卒中患者における高血圧がある確率」と「非脳卒中患者における高血圧がある確率」となり,高血圧によって生じる脳卒中発症のリスク比を計算することができない.従って,研究デザインとしてリスク比が計算できないように操作されたケースコントロール研究では,オッズ比を用いられる.オッズとは,ある要因(高血圧等)を持っている確率を,その要因を持っていない確率で割った値がオッズである.そして,結果が異なる2群間(脳卒中発症例,および脳卒中非発症例) の比をとったものがオッズ比である.例えば,図5の場合,脳卒中群の高血圧患者と非高血圧患者のオッズは3.67(22÷6=3.67),非脳卒中群の高血圧患者と非高血圧患者のオッズは0.83(78÷94≒0.83),従ってオッズ非は,3.67÷0.83 ≒4.42倍となる.この例では,リスク比とオッズ比が近くなり,妥当な推定値として,機能しているように見える.しかしながら,多くの場合で,リスク比よりもオッズ比の方が大きく出る場合があり,単純にリスク比と同様の解釈をするのは問題がある.そういった指標であるということをよく理解し,解釈に利用する必要がある.

     


図2. オッズ比の例題

3)単変量解析と他変量解析

 単変量解析は,単一の独立変数と従属変数の関係を調査するものである.デザインや統計的な手法もシンプルであるものの,交絡因子の影響により直接影響がないものも予後予測因子として有意となってしまうこともあり,慎重な解釈が必要な側面もある.一方,多変量解析は,ある特徴を持った個人の集団における特定のアウトカムの存在確立(診断)や発生リスク(予後)の予測因子に関する数学的な方程式のことを指す1.単変量解析が,単一の独立変数との関係性を分析することに対し,多変量解析は,複数の独立変数との関連性を調査する特性を持ち,当然単変量解析よりも,その予測精度が高い場合が多い.その名称は様々で,予測モデル,リスク予測モデル,予後(予測)指標(ルール),リスクスコアと呼称されることもある.また,予後予測因子は,共変量,リスク指標,予後因子,決定因子,検査結果,独立変数等と呼ばれる.これらの予後予測因子は,人口統計属性(例えば,年齢,性別等)から病歴,身体所見,画像検査所見,生理検査所見,血液および尿検査等の一般検査所見,病理所見,疾患のステージや特徴,リハビリテーション場面における療法士が取得する身体所見・検査の結果,新たに登場しつつある生物学的測定方法(ゲノミクス・プロテオミクス・トランスクリプトミクス・薬理ゲノミクス・メタボロミクス等)まで,多岐に渡ることが多い.

     

引用文献

  1. 1.Royston P, Moons KG, Altman DG, Vergouwe Y. Prognosis and prognostic research: developing a prognostic model. BMJ. 2009; 338:b604.

     

<最後に>
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