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竹林崇先生のコラム

脳卒中後のHemiplegic Shoulder Pain (HSP)の原因の一つである痙縮や弛緩といった筋緊張が与える影響について

UPDATE - 2021.10.3

抄録>

 脳卒中後の肩痛はHemiplegic Shoulder Pain (HSP)と呼ばれている.HSPに関連する病態として,肩におけるローテーターカフの損傷,癒着性被膜炎,肩(肩甲上腕関節)の亜脱臼,肩周辺の筋の痙縮によるもの,さらには肩手症候群等の中枢性の症候が考えられている。これらの症候が単独,複合,さらには他の病態を誘発することもあり,非常にアセスメントが難しいと考えられている.Kailchmanらが提唱しているHSPの原因として,1)軟部組織の障害,2)運動制御の問題(痙縮・弛緩を含む筋緊張の問題),3)末梢神経系および中枢神経系の活動の変化に伴う痛み,が考えられている.本コラムでは,特に2)にあたる運動制御の問題(痙縮・弛緩を含む筋緊張の問題)について解説を行う.

     

1. HSPの原因となる運動制御の問題(痙縮・弛緩を含む筋緊張の問題)について 〜肩甲下筋の痙縮の影響〜

 Kailchmanら1が提唱しているHSPの原因として,1)軟部組織の障害,2)運動制御の問題(痙縮・弛緩を含む筋緊張の問題),3)末梢神経系および中枢神経系の活動の変化に伴う痛み,が考えられている.今回のコラムでは,特に2)にあたる運動制御の問題(痙縮・弛緩を含む筋緊張の問題)について解説を行う.

 中枢神経の障害は,弛緩や痙縮といった筋緊張に影響を及ぼし,それらによって付着する骨が関与する関節運動に影響を与える.痙縮とHSPの因果関係については,臨床家や研究者によって,意見が分かれている.Van Ouwenallerら2は,痙性麻痺を有した患者の85%が肩の痛みを経験したことがあることに対して,弛緩性麻痺を有した患者では18%程度であったことを述べている.

 さらに,痙性麻痺によって肩の亜脱臼を引き起こし,それによって肩甲上腕関節のアライメントが崩れることにより,肩甲骨と上腕骨の間で末梢神経の巻き込みや軟部組織の損傷を引き起こす可能性も考えられている.痙縮によるHSPにおいては,肩甲下筋の影響が言われている. Braunら3は,肩を内旋させる筋肉である肩甲下筋が,筋骨付着部の骨膜を下方向に牽引することで,疼痛を引き起こす可能性を示唆している.例えば,HSPを有する脳卒中後の対象者において,プラセボ群と比較して,A型ボツリヌス毒素を肩甲下筋にボツリヌス毒素A型毒素を施注した場合,対照群に対して,疼痛の重症度,肩の機能と関節可動域を優位に改善することが示された.この結果は,コクランのシステマティックレビューにおいても,脳卒中後にHSPを有する対象者において,対照群であるプラセボに対して,疼痛の重症度をさげ,肩の機能と関節可動域を優位に改善することが示されている5.ただし,同論文では,疼痛の軽減効果は,ボツリヌス毒素A型による肩甲下筋の痙縮が抑制されたことなのか,それとも薬剤そのものが有する鎮痛効果によるものなのかは,明らかではないとされている.

     

2. 肩甲骨・肩関節に関与する筋の痙縮がアライメントと軟部組織損傷に与える影響

 O’Sullivanら6は,肩甲骨及び肩関節周へんの筋の筋緊張異常が肩甲上腕リズムの異常をもたらす.その結果,肩峰下腔でのローテーターカフや他の軟部組織が,肩甲骨と上腕骨によるインピンジメントから影響を受けると示唆している.

 また,脳卒中後の患者を対象に,エコーを用いた研究では、34名の急性脳卒中患者を運動機能の低下に応じて2つのグループに分けた.運動機能の高い患者(Brunnstrom stage 4-6)の31%が入院時とリハビリテーション2週間後に軟部組織損傷を有していたのに対し,運動機能の低い患者(Brunnstrom stage 1-3)の33%が入院時に軟部組織損傷を有していたが、リハビリテーション2週間後には71%に増加したと報告した.これらの結果から,脳卒中後に上肢の運動障害を呈した対象者においては,リハビリテーションを含む,何らかの要因により肩関節周囲の軟部組織が損傷する可能性を示唆している.また,脳卒中後の上肢の重度の運動障害は,肩甲上腕リズムも阻害することにより,これら軟部組織の損傷のリスクはさらに高まるはずである.

     

3. まとめ

 本コラムでは,脳卒中後に生じる肩甲骨および肩関節周囲の筋の弛緩や痙縮がHSPに与える影響について示した.これら多彩な要因を考えると,HSPの予防のために多くの配慮が必要となることがわかる.これらの知識を活かし,臨床におけるより良い介入を心がけたい.

     

引用文献

  1. 1.Kalichman L, Ratmansky M: Underling pathology and associated factors of hemiplegic shoulder pain. Am J Phys Med Rehabil 2011;90:768-780
  2. 2.van Ouwenaller C, Laplace PM, Chantraine A: Pain- ful shoulder in hemiplegia. Arch Phys Med Rehabil 1986;67:23-6
  3. 3.Braun RM, West F, Mooney V, Nickel VL, Roper B, Caldwell C: Surgical treatment of the painful shoulder contracture in the stroke patient. J Bone Joint Surg Am 1971;53:1307-12
  4. 4.Yelnik AP, Colle FM, Bonan IV: Treatment of pain and limited movement of the shoulder in hemiplegic patients with botulinum toxin a in the subscapular muscle. Eur Neurol 2003;50:91-3
  5. 5.Singh JA, Fitzgerald PM: Botulinum toxin for shoulder pain. Cochrane Database Syst Rev 2010; 9:CD008271
  6. 6.O’Sullivan SB, Schmitz TJ: Physical Rehabilitation: Assessment and Treatment. ed 3. Philadelphia, PA: FA Davis; 1995
  7. 7.Pong YP, Wang LY, Wang LLeong CP, Huang YC, Chen YK: Sonography of the shoulder in hemiplegic patients undergoing rehabilitation after a recent stroke. J Clin Ultrasound 2009;37:199Y205

     

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