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竹林崇先生のコラム

脳卒中後のHemiplegic Shoulder Pain (HSP)の原因の一つである軟部組織の病変について〜肩甲骨と上腕骨によるインピンジメントが引き起こすローテーターカフの損傷および断裂について〜

UPDATE - 2021.10.5

<抄録>

 脳卒中後の肩痛はHemiplegic Shoulder Pain (HSP)と呼ばれている.HSPに関連する病態として,肩におけるローテーターカフの損傷,癒着性被膜炎,肩(肩甲上腕関節)の亜脱臼,肩周辺の筋の痙縮によるもの,さらには肩手症候群等の中枢性の症候が考えられている。これらの症候が単独,複合,さらには他の病態を誘発することもあり,非常にアセスメントが難しいと考えられている.Kailchmanらが提唱しているHSPの原因として,1)軟部組織の障害,2)運動制御の問題(痙縮・弛緩を含む筋緊張の問題),3)末梢神経系および中枢神経系の活動の変化に伴う痛み,が考えられている.本コラムでは,特に1)の軟部組織の障害,の中の一つである,ローテーターカフの損傷および断裂について論述を行う.

     

1. HSPの原因となる軟部組織の障害(ローテーターカフの損傷および断裂)について

 Kailchmanら1が提唱しているHSPの原因として,1)軟部組織の障害,2)運動制御の問題(痙縮・弛緩を含む筋緊張の問題),3)末梢神経系および中枢神経系の活動の変化に伴う痛み,が考えられている.今回のコラムでは,特に1)軟部組織の障害の中でも,ローテーターカフの損傷および断裂が,どのようにHSPに関わるのかについて,論述を行う.

 HSPの原因となる軟部組織の障害には,ローテーターカフ の腱鞘炎と断裂,上腕二頭筋の腱鞘炎,滑液包炎(肩峰下,三角筋下),癒着性皮膜炎,肩・肩甲骨に関わる筋の筋膜炎などが考えられている.

 まず,ローテーターカフおよび上腕二頭筋腱の様々な障害については,Barlakら2は,リハビリセンター内で入院環境にてリハビリテーションを受けているHSPを有する脳卒中患者の61%に肩甲上腕関節のインピンジメントが,33%にローテーターカフの断裂が認められたと報告している.さらに,Najensonら3は,脳卒中後に重度の上肢麻痺を呈した対象者のみを対象者に調査を実施したところ,ローテーターカフの断裂は麻痺側で40%,健側でも16%の対象者で認めら得たと報告した. さらに,同論文の中で,HSPを有する対象者においては,痛み,ローテーターカフの断裂,肩甲上腕関節の亜脱臼の間には関連性が認められたとも報告している.また,Dromerickら4は,リハビリセンター内で入院環境にてリハビリテーションを受けている脳卒中後に上肢麻痺を呈した対象者において,HSPを有する対象者は全対象者の37%が肩の痛みを訴えていたと述べている.しかし,彼らは,同論文の中で,脳卒中発症前から元々痛みを有していた対象者が全体の15%も存在していたことにも触れており,脳卒中の発症に関連しない痛みの存在にも留意する必要性を述べている.加えて,HSPを有する対象者は,HSPがない対象者よりも,棘上筋と上腕二頭筋の圧痛を訴える割合が多かったのと報告されている.

 Leeら5による超音波検査を用いた調査では、HSPを有する対象者においては,肩峰下-剣状突起下滑液包貯留(50.7%)、棘上筋腱症(9.9%)、棘上筋腱部分断裂(8.5%)、棘上筋腱全断裂(2.8%)、上腕二頭筋腱鞘貯留(54.9%)が認められた。Shahら6の磁気共鳴画像研究では、35%の患者が少なくとも1つの腱板、上腕二頭筋、三角筋の断裂を示し、55%の患者が少なくとも1つの腱板、上腕二頭筋、三角筋の腱鞘炎を示したと報告しており,脳卒中後HSPを有する対象者は多くの軟部組織の障害を有していることがわかる.

 さて,これらの軟部組織の損傷だが,どのような動きを実施した際に生じるのであろうか,Najensonら3は,脳卒中後の上肢麻痺を呈した対象者におけるローテーターカフの断裂の原因は,90度以上の受動的な外転外力が加わったり,肩関節内旋肢位で肩関節外転を加えた際に生じる肩甲骨と上腕骨によるインピンジメントであると示している.

     

2. まとめ

 本コラムでは,脳卒中後に上肢麻痺を呈した対象者に生じるHSPの原因の一つとして考えられている軟部組織の障害,その中でもローテーターカフの損傷および断裂が与える影響について論述を行った.上記のまとめからも解るように,多くの脳卒中後の対象者は何らかの外力により,ローテーターカフに損傷を抱えている.また,一部はリハビリテーション中の療法士が加える外力によって起こっている可能性も否定できない.本記事における発生率や,損傷の原因となる動きを明確に理解し,外力から肩を守る懇切丁寧なリハビリテーションの提供が求められる.

     

引用文献

  1. 1.Kalichman L, Ratmansky M: Underling pathology and associated factors of hemiplegic shoulder pain. Am J Phys Med Rehabil 2011;90:768-780
  2. 2.Barlak A, Unsal S, Kaya K, Sahin-Onat S, Ozel S: Poststroke shoulder pain in Turkish stroke patients: Relationship with clinical factors and functional outcomes. Int J Rehabil Res 2009;32:309-15
  3. 3.Najenson T, Yacubovich E, Pikielni SS: Rotator cuff injury in shoulder joints of hemiplegic patients. Scand J Rehabil Med 1971;3:131-7
  4. 4.Dromerick AW, Edwards DF, Kumar A: Hemiplegic shoulder pain syndrome: Frequency and character- istics during inpatient stroke rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil 2008;89:1589-93
  5. 5.Lee IS, Shin YB, Moon TY, Jeong YJ, Song JW, Kim DH: Sonography of patients with hemiplegic shoulder pain after stroke: Correlation with motor recovery stage. AJR Am J Roentgenol 2009;192:W40-4
  6. 6.Shah RR, Haghpanah S, Elovic EP, et al: MRI find- ings in the painful poststroke shoulder. Stroke 2008;39:1808-13

     

<最後に>
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