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脳卒中後のHemiplegic Shoulder Pain(HSP)に対して,亜脱臼と脳卒中発症からの期間が与える影響

UPDATE - 2021.10.9

<抄録>

 脳卒中後に生じる痛み(Hemiplegic Shoulder Pain: HSP)について,様々な因子が関与していると考えられている.その中でも,一般的な臨床においても,大きな問題の一つとなる肩関節の亜脱臼は,HSPにおける大きな要因の一つと考えられている.また,HSPは急性期における病態もあれば,生活期に発生する病態も存在する.従って,脳卒中発症からの時間がどういった寄与を果たすのかも理解が必要な部分である.本コラムでは,それらの病態について,一般的に明らかになっている範疇をまとめ,述べることとする.

     

1. Hemiplegic Shoulder Pain(HSP)における肩関節亜脱臼の影響

 脳卒中後に生じる亜脱臼は,脳卒中リハビリテーションにおける臨床においても,最も重要な懸案事項の一つと考えられている.肩関節の亜脱臼とは,基本的に肩甲上腕関節の亜脱臼を指しており,その多くは脳卒中発症後,最初の数週間以内に生じるものが多い1.複数の研究者が,HSPと肩甲上腕関節の亜脱臼が,HSPの直接な原因になりうり,特に上腕骨頭の前方への亜脱臼がHSPの起源となる可能性があると主張されている.しかしながら,一方では,HSPと肩甲上腕関節の亜脱臼の関連性を否定する研究なども散見される.例えば,Suethanapornkulら4は,肩甲上腕関節の亜脱臼がある対象者は,亜脱臼を有しない対象者に比べて,有意に痛みの質が高かったと報告している.しかしながら,肩甲上腕関節の亜脱臼患者の約50%は,HSPを発症しておらず,HSP発症の直接的な要因として,肩甲上腕関節の亜脱臼そのものの関与は否定的であると報告した(一方,多くの研究では,亜脱臼によって生じたインピンジメントによる軟部組織の障害は,HSPの直接的な要因となると考えられている).また,HSPと肩甲上腕関節の亜脱臼における肩峰と上腕骨の距離に統計的な有意さがないことを示している.これらの結果は,過去にPeszczynski2やKumarら3も,大規模な臨床研究を通して示した結果と非常に類似している.

 上記にも少し示したが,肩甲上腕関節の亜脱臼量が,HSPの直接的な原因となり得ないとする仮説の一つに,肩甲上腕関節の亜脱臼の障害度が高くとも,肩関節周囲のインピンジメントによる軟部組織障害が見当たらないという可能性が述べられている.つまり,肩甲上腕関節の亜脱臼が仮にあったとしても,肩関節周囲に対する組織の他動的な外力による過進展により生じた軟部組織の損傷自体がHSPにおける大きな要因となると考えられている.

 これらの仮説を支持する研究としては,van Langenbergheら4の研究が非常に参考になる.彼らの研究では,脳卒中後に生じる肩甲上腕関節の重症度そのものよりも,腕の重さを免荷されずに(スリングや三角巾などで支えることがなされずに),下垂位にした頻度や時間の長さの方の関連性が大きいと報告している. 軟部組織の障害とHSPの関連性に言及する研究としては,Hakunoら5は,肩甲上腕関節における亜脱臼と関節のレントゲン写真による検討にて,上腕二頭筋腱の癒着性変化の重症度との間に有意な相関関係が見られたと報告している.また,Ringらは,肩甲上腕関節の亜脱臼自体が対象者の腋窩神経を圧迫し,その結果筋電図上で機能障害を生じている可能性を示している.

 結局のところ,これら肩甲上腕関節周囲の軟部組織の障害を抑えるためには,麻痺手に対する丁寧な管理を遂行することに尽きると考えられている.ベッドでの不適切な体位の是正や,立位の際の麻痺手の免荷を目的としたスリングなどのサポーターの使用,対象者を体位変換時に麻痺手を牽引しない等が,引き続き重要とされている.

     

2. HSPと脳卒中発症からの時間の関係

 いくつかの研究では,脳卒中発症後の患者の16-20%が脳卒中発症直後に肩の痛みを訴えていたと示されている6, 7.さらに彼らの大半が,数週間から数ヶ月の間に,それらの痛みを起源として,HSPを発症したと報告されている.Royら8は,76人の脳卒中患者を対象に、急性脳卒中後12週目のHSPの頻度を評価し,脳卒中後の経過時間がHSPと強く関連していることを明らかにした.Ratnasabapathyら9は,1761名の患者を対象とした集団研究で自己申告によるHSPは,脳卒中後1週間で17%,1ヶ月で20%,6ヶ月で23%と増加していることを明らかにした。これらの結果からわかるように,脳卒中後に生じたなんかかの中枢因子によるHSPと発症から時間が経ってから発症するHSPでは,おそらく病態が異なるとも考えられている.特に,発症から時間を経て生じるHSPは,肩甲上腕関節に対して,異常な肢位がとられることにより,肩周辺の軟部組織になんらかの障害が起こったことが原因となる可能性が示唆されている.

     

引用文献

  1. 1.Faghri PD, Rodgers MM, Glaser RM, Bors JG, Ho C, Akuthota P: The effects of functional electrical stimulation on shoulder subluxation, arm function recovery, and shoulder pain in hemiplegic stroke patients. Arch Phys Med Rehabil 1994;75:73-9
  2. 2.Peszczynski M, Rardin TE Jr: The incidence of painful shoulder in hemiplegia. Pol Med Sci Hist Bull 1965;8:21-3
  3. 3.Kumar R, Metter EJ, Mehta AJ, Chew T: Shoulder pain in hemiplegia. The role of  exercise. Am J Phys Med Rehabil 1990;69:205-8
  4. 4.van Langenberghe HV, Hogan BM: Degree of pain and grade of subluxation in the painful hemiplegic shoulder. Scand J Rehabil Med 1988;20:161-6
  5. 5.Hakuno A, Sashika H, Ohkawa T, Itoh R: Arthrographic findings in hemiplegic shoulders. Arch Phys Med Rehabil 1984;65:706-11
  6. 6.Wanklyn P, Forster A, Young J: Hemiplegic shoulder pain (HSP): Natural history and investigation of associated features. Disabil Rehabil 1996;18: 497-501
  7. 7.Dromerick AW, Edwards DF, Kumar A: Hemiplegic shoulder pain syndrome: Frequency and characteristics during inpatient stroke rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil 2008;89:1589Y93
  8. 8.Roy CW, Sands MR, Hill LD: Shoulder pain in acutely admitted hemiplegics. Clin Rehabil 1994;8:334-40
  9. 9.Ratnasabapathy Y, Broad J, Baskett J, Pledger M, Marshall J, Bonita R: Shoulder pain in people with a stroke: A population-based study. Clin Rehabil 2003; 17:304-11

     

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