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脳卒中後の上肢麻痺に対して,自主練習におけるConstraint-induced movement therapyはどのような効果をもたらすのか?

UPDATE - 2021.10.20

<抄録>

 脳卒中後の上肢麻痺において,効果のエビデンスが確立されているアプローチ方法にConstraint-induced movement therapy(CI療法)がある.ただし,CI療法は多くの練習量が必要になるため,本邦の皆保険制度の中では,コストが見合わないと考える療法士も一部に存在する.しかしながら,近年の動向としては,病棟実施型や家族実施型CI療法のように,療法士はCI療法で実施する課題指向型練習における目標設定や難易度調整,さらには,生活における使用を促すTransfer packageのマネジメントに従事し,それ以外の量的練習は,療法士からはなれ自主練習で実施する形態が注目されている.これらのアプローチは,CI療法に必要な「量的練習」の部分を補うために,手続き上の工夫として実施されている.しかしながら,一部の研究では,従来の療法士が密に携わるCI療法よりも,自主練習型のCI療法の方が成果を出していると言った研究も認められる.本コラムでは,自主練習型のCI療法についての現状とその効果について言及する.

     

1.Constraint-induced movement therapy(CI療法)に必要な要素とは?

 脳卒中後の上肢麻痺において,効果のエビデンスが確立されているアプローチ方法にCI療法がある.CI療法は,非麻痺手をミトンなどで拘束し,麻痺手を用いて練習を行うアプローチ方法である.しかしながら,最近では,非麻痺手の拘束よりも,麻痺手における適切な難易度を施した量的課題指向型アプローチが麻痺手の回復のためには重要な要素とも言われている.ただし,従来のリハビリテーションの枠組みの中で,量的な練習を実施しようとすると,療法士によるワークフォースが非常に多くなるため,ランニングコストの面に課題が残る.それに加えて,本邦の医療保険では,発症から180日に以内であっても,1名の対象者に1日最大3時間(この中で,対象者に必要な理学療法,作業療法,言語療法を提供しなければならない)に制限されており,制度的にも困難が考えられる.

 こう言った背景の元,本邦の脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションにおいては, 家族実施型2や病棟実施型3のCI療法と言った従来のリハビリテーションの枠から量的な課題指向型練習を取り出し,療法士はCI療法で実施する課題指向型練習における目標設定や難易度調整,さらには,生活における使用を促すTransfer packageのマネジメントに焦点的に従事すると言った形態のアプローチ方法も注目されている.つまり,制度的な制限や,療法士のワークフォースを軽減するための手続きとしてこれらの運用方式が用いられている.

 しかしながら,一方で,療法士の逐一伴奏し,実施する一般的なリハビリテーションの枠組みに対し,家族実施型や病棟実施型のような『自己統制(Self-regulation)』的要素を含む練習(自主練習)そのものについても,意味を見出す部分も存在する.Dinsmoreら4は,自主統制そのものが,社会的認知理論(Social cognitive theory)に由来するものであり,対象者自身の問題解決技能を意識的なレベルに引き上げる事で,反省的な学習と問題解決技能の向上をもたらすものと報告している.実際に,CI療法においてもLiuらやHosomiらのグループが,自己統制理論を織り込んだプロトコルを以前に報告している.これらの自己統制理論を織り込んだCI療法のプロトコルは,対象者が自ら自身のリハビリテーションに対し,責任を持てるようにすることを目的としており,自己認識を高め,対象者個人の麻痺手に関する機能的問題を認識し易くすることで,アプローチにおける学習と日常生活における転移を促進することを目的としている.

     

2.自己統制理論を含んだCI療法と通常のCI療法ではどちらが効果的か?

 自己統制理論を含んだCI療法と通常のCI療法を比較した研究はほとんど見当たらない.ここでは,Liuらの 2つの論文について,解説する.まず,2014年に,脳卒中患者に対し,機能的リハビリテーションを実施する群と,自己統制理論を含むCI療法を実施する群についてランダム化比較試験を行った結果,自己統制理論を含むCI療法を実施する群のみ,Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目に有意な改善を認めたと報告した5.さらに, 2016年には,脳卒中患者に対し,自己統制理論を含むCI療法を実施した群,通常のCI療法を実施した群,機能指向型練習を実施した群の3群間でランダム化比較試験を実施した結果,他の2群に比べて,自己統制理論を含むCI療法がAction research arm test、FMAの上肢項目、Motor activity log, に有意な改善を認めた.また,キャリーオーバー効果についても,自己統制理論を含むCI療法を実施した群が他の2群に比べ,複数のアウトカムにおいて有意な改善を認めたと報告している7.これらから,単純に自主練習は,量的練習を担保する物理的な手続きというだけでなく,対象者の行動に何らかの影響を与える因子となる可能性が示唆された.

     

引用文献

  1. 1.Corbetta D, Sirtori V, Castellini G, Moja L, Gatti R. Constraint-induced movement therapy for upper extrem- ities in people with stroke. Cochrane Database Syst Rev 2015; 10: Art. No.: CD004433.
  2. 2.堀翔平,竹林崇. 家族参加型の自主練習とTransfer packageを実施し,麻痺手の使用行動に変化を認めた一例.作業療法38: 593-600, 2019
  3. 3.山本勝仁,竹林崇,高井京子,徳田和宏,細見雅史. 脳卒中急性期上肢麻痺患者に対する病棟実施型のCI療法の効果.作業療法39: 478-485, 2020
  4. 4.Liu KPY, Chan CCH, Lee TMC, Li LSW, Hui-Chan CWY. Case reports on self-regulatory learning and gen- eralization for people with brain injury. Brain Inj 2002; 16: 817–824.
  5. 5.Liu KPY, Chan CCH. A pilot randomized controlled trial of self-regulation in promoting function in acute post-stroke patients. Arch Phys Med Rehabil 2014; 95: 1262–1267.
  6. 6.Hosomi M, Koyama T, Takebayashi T, Terayama S, Ko- dama N, Matsumoto K, Domen K : A modified method for constraint-induced movement therapy : a supervised self-training protocol. J stroke Cerebrovasc Dis 21: 767-778, 2012
  7. 7.Liu KPY,Balderi K, Leung L., Yue A. SY, Lam NCW, Cheung T, Mok VT. A randomized controlled trial of self-regulated modified constraint-induced movement therapy in sub-acute stroke patients. European Journal of Neurology, 23(8), 1351–1360, 2016

     

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