<抄録>
脳卒中後の後遺症の一つに,非流暢性失語がある.脳卒中後の後遺症としては,周囲とのコミュニケーションを障害する際たる存在であり,社会復帰における大きなバリアとなるとされている.この障害に対するアプローチとしては,言語聴覚士による言語聴覚療法が有用とされており,多くのリハビリテーション場面において,それらのアプローチが提供されている.一方で,近年,非流暢性失語に対するアプローチとして,利き手である麻痺手を用いた介入が,一部の研究者の中で取り上げられている.本コラムにおいては,脳卒中後に生じる非流暢性失語に対するアプローチとしての,麻痺手に対する文脈を用いた集中練習のあり方について解説を行う.
1.非流暢性失語に対するリハビリテーションの現状
脳卒中後の後遺症の一つに非流暢性失語が存在する.非流暢性失語とは,発話量が減少し,失文法や失構音,失名辞(呼称の障害),等のいわゆる運動性失語が潜在性に出現する.発話は努力性で,吃音があり,発話開始が困難となり,会話のリズムやアクセントが障害されるといった現象を引き起こす.一般的なリハビリテーションにおいては,非流暢性失語に対しては,言語聴覚士による言語療法が処方され,治療にあたることが多い.実際に,言語聴覚士による言語療法は,言語機能の障害に対して,軽度から中等度の効果1, 2が見込まれており,現存するアプローチの中でも最も有効な手段とされている.しかしながら,その中でも,Ferroら3は,失語症の予後に関する研究の中で,従来の言語療法は復唱や理解と言ったコンポーネンツに比べて,呼称や流暢性に対する改善が小さい可能性について報告している.
さて,一方で,近年,Pulvermuller4は,失語の練習手段の一つとして,四肢や顔面といった身体部位の行為の練習が,言語能力の向上につながる可能性を述べている.さらに,彼らは,呼称や流暢性において,能力向上を臨む単語を有する文脈に関連した行為を,それらに対応した部位を利用することを勧めている.例えば,食事の際に上肢・手指を用いて使用するコップやナイフ,箸のような物品に関する呼称や流暢性を向上させたければ,上肢・手指を用いてそれらの道具を実際に使用することが,実際の能力の向上につながるとされている.実際に,脳波や機能的能画像を持ちいた研究においても,「身体を用いた動作」を示す単語や文章の読みや聴覚理解においても,その単語や文章の内容に関与するであろう身体部位に関する運動皮質の活性が必要な条件として挙げられている5-8.さらに,複数の研究者は,言語および運動機能の回復システム(損傷側対側による代償や前頭葉・基底核・視床における役割)が類似しているとも報告している9-11.さらに言えば,臨床上で用いる上肢を用いた道具使用のジェスチャー練習12や反復的課題指向型アプローチ13が非流暢性失語を呈した症例の呼称能力を向上したと言った報告もなされており,特に呼称を中心とした言語機能と脳卒中後に生じる上肢麻痺機能の回復の間には何らかの関係が予測されることが考えられている.
2.実際の臨床研究における失語と上肢運動麻痺の回復の関係性
我々の事例報告においても,脳卒中後上肢麻痺を呈した対象者について,生活期に課題指向型アプローチの代表格であるConstraint-induced movement therapyをtranscranial direct stimulation(tDCS)と併用して実施した結果,麻痺手の機能向上と同様に,呼称機能の向上を認めたことを報告している.ただし,この事例報告においては,介入中に療法士との言語コミュニケーションやtDCS と言った課題指向型アプローチ以外のバイアスと考えられる要因も多々含まれており,明確に脳卒中の上肢麻痺と言語機能の回復に関連があるかは不明なところである.
近年の報告では,Hybbinetteらが,手指の運動障害を伴う亜急性期脳卒中患者における失語症と上肢機能の回復を比較した研究において,脳卒中発症から6ヶ月後の失語症の回復と上肢機能の改善はリニアな関係性があり、中等度の相関関係(r=-0.57)が認められたと報告している.これらの結果から,脳卒中後の上肢麻痺に対する介入と,その結果生じる上肢麻痺の改善が,失語に与える影響については,何かしらの関係がある可能性がある.今後,類似の追従する研究をリサーチし,それらの関係性がさらに明らかになることが望まれる.
引用文献
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- 3.Ferro JM. Mariano G. Madureira S : Recovery from aphasia and neglect. Cerebrovasc Dis 9 (Suppl): 6-22, 1999.
- 4.Hauk O. Pulvemuller F : Neuropsychological distinction of action words in the fronto- central cortex. Human Brain Mapp 21: 191-201, 2004
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- 10.Crosson B. Moore AB. Gopinath K. White KD. Wierenga CE. et al:Role of the right and left hemispheres in recovery of func- tion during treatment of intention in apha- sia. J Cogn Neurosci 17: 392-406, 2005.
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<最後に>
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