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脳卒中後のリハビリテーションにおけるレジスタンストレーニングのエビデンス

UPDATE - 2021.11.19

<抄録>

 脳卒中後のリハビリテーションにおける手法として,様々なものが開発されている.代表的なものとしては,米国心臓学会、脳卒中学会が推奨している課題指向型練習、メンタルプラクティス、Constraint-induced movement therapy、電気刺激療法、ロボット療法などが挙げられる。ただし、一般的なリハビリテーションにおける臨床現場では、療法士によって徒手的に提供される、筋力増強練習であるレジスタンストレーニングがあるが、この手法のエビデンスについては、不明瞭な点が多い。今回はこの手法のエビデンスについて、まとめていくこととする。

     

1.脳卒中後のリハビリテーションにおけるレジスタンストレーニングとは

 脳卒中は、世界においても長期的な障害の原因疾患となる一つであり,これらの障害に対する治療的なアプローチは重要な意味を持つと考えられている.一般的なレジスタンストレーニングとしては,1)フリーウェイと,2)マシンウェイト,3)自重,4)抵抗力のあるバンド等の抵抗を利用した方法,などが挙げられる.また,筋収縮のタイプも1)求心性収縮,2)遠心性収縮,3)等張性収縮,と区別することができ,これらのいずれかを使用しつつ,レジスタンストレーニングを実施することとなる.また,一般的なレジスタンストレーニングにおいて,重要な変数は1)運動強度,2)反復回数とセット数,3)セットと練習の間の休息時間,等が挙げられている.一般的な手法としては,1〜30回を1セットとし,1〜4セット,休憩時間は数十秒から数分とる場合が多い1.
 さて、これら健常人におけるレジスタンストレーニングの効果は,脳卒中後の対象者において,どのような効能をもたらすのであろうか.Veldemaら2が,様々な観点から過去の研究についてシステマティックレビューとメタアナリシスを実施している. まず,慢性期において,レジスタンストレーニングを実施した場合と何も行わなかった場合について,11本の論文,403名の対象者で検討した結果,下肢の筋力,Quality of life,自立度と社会復帰,移動能力,バランスと姿勢制御において,ほとんどの研究が対照群に比べて,有意な改善を示した.一方,歩行能力,痙縮,感情障害については一部の研究でのみ,対照群よりも有意な改善を示したと報告している.
 次に,彼らは,レジスタンストレーニングと他のアプローチについて,脳卒中発症後亜急性期から慢性期における15本の論文,581名の対象者を対象に比較検討を行っている.これらにおいては,対照群のトレーニングとして,1)バランス練習や歩行練習を含む一般的なトレーニング,2)対象者に対する脳卒中教育,3)モビライゼーション,4)有酸素運動,5)ストレッチ,6)上肢に対する課題練習,7)上肢に対する両手動作による課題練習,8)上肢に対するストレッチ,9)神経学的理学療法,などが設定されている.
 これらの結果,レジスタンストレーニングは,特に下肢における筋力・運動機能,Quality of life,自立と社会復帰については,有意な改善の可能性が示唆されている.しかしながら,心肺機能に関してのみ,レジスタンストレーニングは有酸素運動に比べて,効果が劣ると述べられている.さらに,歩行機能単独で見ると,レジスタンストレーニングは,ストレッチよりは有意に優れているものの,モビライゼーション,対象者に対する脳卒中教育を行った際に比べ,効果が劣っていたことも示唆されている.

     

2. 脳卒中後の上肢機能に対するレジスタンストレーニングの効果について

 脳卒中後の上肢機能に対するレジスタンストレーニングの効果については,レジスタンストレーニングと他の介入方法を,6本の研究,385名の対象者によって検証されている.

 この研究における対照群は,1)コンピューターを用いた両手による課題練習,2)多動的なモビライゼーション,3)ストレッチ,4)上肢による課題練習,5)上肢を用いた有酸素運動,が設定されている.

 これらの分析の結果,6本の研究のメタ解析の結果からは,レジスタンストレーニングは,他の両方に比べて有意な改善を得られないということが示されている(劣るわけでもない).ただし,対照群に設定されているアプローチ方法を鑑みると,強度が比較的低いアプローチが多いことから,脳卒中後の上肢麻痺に対するレジスタンストレーニングは,筋力の維持・向上等を援助する補助的なアプローチとして採用することが現実的であるかと思われた.

     

引用文献
1.Campos GE, Luecke TJ, Wendeln HK, et al. Muscular adaptations in response to three different resistance-training regimens: specificity of repetition maximum training zones. Eur J Appl Physiol 2002; 88(1–2): 50–60.
2.Veldema J, et al: Resistance training in stroke rehabilitation: systematic review and meta-analysis. Clinical rehabilitation 34: 1173-1197, 2020

     

<最後に>
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