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脳卒中後に生じる上肢運動障害に関する病態解釈の視点について(3)

UPDATE - 2022.11.25

<抄録>

 脳卒中後に高い割合で上肢の運動障害を生じる.しかしながら,この運動障害に関して,伝統的に『麻痺』という言葉で簡単に片付けられてきた.しかしながら,麻痺とは皮質脊髄路の運動出力および異常な共同運動パターンを伴う現象を指すのみで,それだけでは説明できない多くの症候に臨床において遭遇する事がある.本コラムにおいては,脳卒中後の運動障害の原因となりうる麻痺以外の症候について,検討を行い,論述する.第三回は,運動失調について触れていく.

     

3)運動失調について
 協調運動とは,『中枢神経が様々なレベルで関与し,上位の複雑な神経機能によって成立している.運動には目的があり,その目的を達成するためには運動を時間的・空間的に調整する必要がある』と一般的には定義がなされている.また,一方,協調運動障害とは,「運動を介して目的を達成するために必要な身体を校正する諸要素(関節や筋等)の調整能力の障害」とされている.
 ヒトは,多くの神経筋の機構を用いて,非常にスムーズな動き『協調運動』を無意識下で常に実現している.しかしながら,中枢神経系の障害に伴う身体の変化によって,協調運動が大きく阻害されることがある.特に脳卒中のように,中枢神経の障害により上位運動ニューロンの破綻を生じる疾患では,協調運動障害を生じることも多々ある.一般的にこれらの協調運動障害について,失調症という名で説明がなされることが多い.
 脳卒中後の失調症とは,損傷部位によって,大脳性,小脳性(Cerebellar ataxia),脊髄性(spinal ataxia),前庭性(迷路性)(Vestibular/labyrinthine ataxia)に分類されている.また,現象由来の症候としては,感覚性(Sensorics ataxia)のものや,インナーマッスルであるローテーターカフの不全により生じる物理的な失調などもあり,その種類は様々である.
 運動失調のメカニズムは上記の分類と同様に,不明な点も多々ある.しかしながら,できるだけ,運動失調の種類や病態を把握し,その原因に沿ったアプローチを考案する必要がある.以下に運動失調の評価に使われる評価尺度をいくつか紹介する.

     

1.International Cooperative Ataxia Rating Scale [ICARS]

 小脳障がいや脊髄小脳変性症,多系統萎縮症による運動失調の評価に用いられることが多い.しかしながら,障がい域等に関する明確な基準値などは示されておらず,運動失調に関わる症状の全てが正常であると判断されれば0点となる.ICARS1は,歩行を含む姿勢障がい,四肢失調,言語障害,眼球運動障害の大項目に,小項目が19項目と多く,評価に時間を要する点が問題点として挙げられている.また,現象から運動失調を評価する評価尺度であるため,運動失調の種別(振戦,運動分解,測定異常等)などを評価することには適しているが,運動失調のメカニズムまで検討することは困難である.従って,運動失調の現状や介入による効果判定等に使用されることが多いと思われる.

     

2.Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(SARA)

 SARAは脊髄小脳変性症における運動失調の評価を目的とした評価として作成された.SARAは開発当初は眼球運動障害を含む9項目で構成を予定していたが,眼球運動障害における検査の信頼性が低いため,最終的には除外され,8項目の評価である2.SARAは項目数も限られることからICARSの約1/3の検査所要時間で実施可能である.また,SARAの総合点はICARSとの間に高い相関が認められているともされており,近年では一般的な評価としてSARAが用いられている印象がある2, 3.ただし,利便性は良いものの,SARAに関しても現象を定量化するための評価であり,この評価から失調の原因等のメカニズムなどを考察することは困難である.したがって,原因となる症候は,ICFにおける身体機能・構造の評価からリーズニングする必要があると思われる.

     

引用文献
1.Trouillas P, Takayanagi T, Hallett M, et al: International Cooperative Ataxia Rating Scale for pharmacological assessment of the cerebellar syndrome. The Ataxia Neu- ropharmacology Committee of the World Federation of Neurology. J Neurol Sci 145: 205–211, 1997
2.Schmitz-Hübsch T, du Montcel ST, Baliko L, et al: Scale for the assessment and rating of ataxia: develop- ment of a new clinical scale. Neurology 66: 1717–1720, 2006
3.Weyer A, Abele M, Schmitz-Hübsch T, et al: Reliability and validity of the scale for the assessment and rating of ataxia: a study in 64 ataxia patients. Mov Disord 22: 1633–1637, 2007

     

<最後に>
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本講習会は前回の「姿勢制御に関係する各要因の基礎知識」の応用編になります。前回の内容を踏まえ、加齢や疾患が各要因へ与える影響や、臨床での評価方法やアプローチ方法などを紹介することで、聴講者が臨床で姿勢制御障害に対峙した時の引き出しを増やすことを目的としています。
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