TOPICS

お知らせ・トピックス
コラム

脳卒中後に生じる上肢運動障害に関する病態解釈の視点について(2)

UPDATE - 2022.11.23

<抄録>

 脳卒中後に高い割合で上肢の運動障害を生じる.しかしながら,この運動障害に関して,伝統的に『麻痺』という言葉で簡単に片付けられてきた.しかしながら,麻痺とは皮質脊髄路の運動出力および異常な共同運動パターンを伴う現象を指すのみで,それだけでは説明できない多くの症候に臨床において遭遇する事がある.本コラムにおいては,脳卒中後の運動障害の原因となりうる麻痺以外の症候について,検討を行い,論述する.第二回は,痙縮について触れていく.

     

2)痙縮について
 痙縮は,脳卒中や脊髄損傷等の中枢疾患障害において,筋緊張の亢進を主たる症候として生じる上位運動ニューロン症候群の一つである.麻痺に伴って生じることが非常に多く,筋緊張の亢進が運動麻痺症状を就職し,運動のスムーズさを阻害するとともに,安静時においても異常肢位や不随意運動の原因となることもある.
 Lanceら1の定義によると,痙縮は『腱反射の亢進を伴う筋緊張性伸張反射(tonic stretch reflex)の速度依存性亢進を特徴とする運動障害』とされている.すなわち,腱反射が亢進していることに加え,筋を徒手的に伸張する際の抵抗が速度依存性に増大している状態といえる.これらの現象は,運動障害を有する対象者が痙縮を有する筋肉の拮抗筋を用いて,動作をおこなった際に,拮抗筋の収縮に伴い痙縮筋が伸張した際,その速度に依存して,痙縮を有する筋肉が収縮し,動作のスムーズさを阻害してしまうといった形で,運動障害を生じる可能性を有している.したがって,麻痺とまとめてしまうのではなく,生じている運動障害にどのように痙縮が影響を与えているのかを理解し,プログラムを検討する必要がある.
 なお,これらの病態を評価する指標としては電気生理学的な評価(F波,M波)から,臨床的な評価(Modified Ashworth Scale [MAS])まで,様々な指標が用いられているMASは,Bohannonら2が,上肢麻痺に併発する痙縮の評価として,1987年に発表した検査である.この評価は,検査者が対象者の麻痺手を他動的に全可動域動かした際に,検査者が主観的に感じた抵抗の大きさや質によって,0から4までの6件法(0, 1, 1+, 2, 3, 4)で示す評価である.ただし, MDCは1点以上と公表されている3-4.
 上記に記載した電気生理学的な評価は臨床においては,利用できる施設も少ないため,臨床で用いることができる簡便な臨床評価から病態解釈を正確に行う必要がある.ここで,注意一点注意が必要な点としては,痙縮と固縮を混同しないことが重要である.ここについては,留意の上,臨床評価を実施する必要があると思われる.

     

メモ:痙縮の病態について
 痙縮筋の特徴の一つとして,自発性運動単位発火(Spontaneous moto unit discharges)5がある.自発性運動単位発火は,安静時においても上位からの下降性の刺激に影響を受けずに運動単位が発火する現象である.また,自動性運動単位発火の生じる頻度は,中枢神経損傷後の筋力改善とともに増大するとも考えられている.このα運動ニューロンの興奮性増大を説明する機序として、 ①γ錐内運動システム(gammma fusimotor system)の関与,②脊髄運動ニューロン内在的特徴の関与,③Ia求心性入力のシナプス前抑制,相反抑制の減弱を含めた脊髄介在ニューロンの関与,などが存在する.運動障害の原因として痙縮の関与が疑われ,痙縮に対するプログラムを考案する際には,上記のメカニズムを理解し,それらに影響を与えうる介入方法を検討することが必要になると思われる.

     

引用文献
1.Lance, JW, et al. Symposium synopsis, In: Feldman RG, Young RR, Koella WP. (Eds): Spasticity: disordered motor control, 485-494, Year book medical Chicago, 1980
2.Bohannon RW, et al: Interrater reliability of a modified ashworth scale of muscle spasticity. Phys Ther 67: 206-207, 1986
3.Shaw L, et al: BoTULS: a multicenter randomized controlled trial to evaluate the clinical effectiveness and cost-effectiveness of treating upper limb spasticity due to stroke with botulinum toxin type A. Health Technol Assess 14: 1-113, 2010
4.Simpson DM, et al: Botulinum toxin type A in the treatment of upper extremity spasticity: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Neurology 46: 1306-1310, 1996
5.Sanchez GN, et al. In Vivo imaging of human sarcomere twitch dynamics in individual motor units, Neuron 88: 1109-1120, 2015

     

<最後に>
【12月6日他開催:姿勢制御に関係する各要因の臨床応用】
本講習会は前回の「姿勢制御に関係する各要因の基礎知識」の応用編になります。前回の内容を踏まえ、加齢や疾患が各要因へ与える影響や、臨床での評価方法やアプローチ方法などを紹介することで、聴講者が臨床で姿勢制御障害に対峙した時の引き出しを増やすことを目的としています。
https://rehatech-links.com/seminar/12_6/

     

【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
2,失認–総論から評価・介入まで–
3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
 –医療機関における評価と介入-
4,高次脳機能障害における就労支援
 –制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
5,失行
6,半側空間無視
 通常価格22,000円(税込)→8,800円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/

前の記事

脳卒中後に生じる上肢運動障害に関する病態解釈の視点について(1)

次の記事

脳卒中後に生じる上肢運動障害に関する病態解釈の視点について(3)