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脳卒中後に生じる上肢運動障害に関する病態解釈の視点について(1)

UPDATE - 2022.11.21

<抄録>

 脳卒中後に高い割合で上肢の運動障害を生じる.しかしながら,この運動障害に関して,伝統的に『麻痺』という言葉で簡単に片付けられてきた.しかしながら,麻痺とは皮質脊髄路の運動出力および異常な共同運動パターンを伴う現象を指すのみで,それだけでは説明できない多くの症候に臨床において遭遇する事がある.本コラムにおいては,脳卒中後の運動障害の原因となりうる麻痺以外の症候について,検討を行い,論述する.第一回は,運動麻痺について,触れていく.

     

1.脳卒中後に生じる上肢運動障害に関する病態解釈の視点について

 脳卒中後に生じる上肢運動障害は,脳卒中患者の多くが有するものであり,Quality of life(QOL)の低下に大きく関与すると言われている.従って,リハビリテーション において,脳卒中後の運動障害に対するプログラムの開発は急務であると考えられている.したがって,各種プログラムを考える際に,脳卒中患者が有する運動障害の原因(病態)が理解できていなければ,運動障害を改善する適切なプログラムを考案することは難しい.そこで,適切な運動障害に対する評価が必要となる.しかしながら,伝統的に脳卒中後の上肢運動障害に関しては,『運動麻痺』というキーワードによって説明される事が多く,その他の症候によって運動障害が生じている可能性に想いを馳せることすらなされていない.このシリーズでは,脳卒中後の上肢運動障害に対して,運動麻痺以外に影響を与えうる因子を示すとともに,項目によってはそれらの病態を適切に表現できる評価についても紹介していく.

     

1)上肢の運動麻痺
 上肢の運動麻痺は,皮質脊髄路が障害を受けることによって生じる運動障害である.麻痺を生じると異常な共同運動パターンに支配され,意図的に全ての筋を分離して制御する事が困難になる.これらは上位運動ニューロンの障害の一つと言われる.随意運動を意図すると,屈筋共同運動,もしくは伸筋共同運動が生じると考えられている.代表的な屈筋共同運動パターンは,肩甲帯の挙上・伸展,肩関節の屈曲・外転・外旋,肘関節屈曲,前腕回外,手関節の掌屈・尺屈,手指屈曲が挙げられる.一方,伸展共同運動パターンは,肩甲帯の屈曲,肩関節伸展・内転・内旋,肘関節伸展,前腕回内,手関節背屈・橈屈,手指伸展が挙げられる.これらが生じるメカニズムはまだ正確に明らかにされていないが,一部の研究者の間では,皮質内抑制や脊髄前後抑制といった,屈筋と伸筋といった拮抗関係にある筋を制御する神経機構の関与が一因でないかといった考えも認められる1.
 さて,これらの評価を測定する評価尺度としては,ゴールドスタンダードとして,Fugl-Meyer Assessmentの上肢機能評価2がある.この評価尺度は,麻痺の回復段階に関する簡易評価尺度であるBrunnstrome recovery stageの概念を踏襲しており,66点満点,33項目の評価項目で成り立っている.評価項目は,単関節運動の組み合わせであり,麻痺に影響を受けた運動出力(抵抗運動を含まない)と,麻痺の回復段階に対して,評価している.測定誤差以上の変化を示す最小可変変化量(Minimal detected change: MCD)は5.2点,臨床上意味のある最小変化量(⑤Minimal Clinical Important Difference:MCID)は4.25点から10点と様々な研究がなされている3-8.

     

引用文献
1.Harris-Love, et al. Mechanisms of short-term training-induced reaching improvement in severely hemiparetic stroke patients: a TMS study. Neurorehabil Neural Repair 25: 398-411, 2011
2.Fugl-Meyer AR, et al: The post-stroke hemiparetic patient. 1. A method for evaluation of physical performance. Scand J rehabil Med 7: 13-31, 1975
3.Wagner JM et al: Reproducibility and minimal detectable change of three-dimensional kinematic analysis of reaching tasks in people with hemiparesis after stroke. Phys Ther 88: 652-663, 2008
4.Shelton FD, et al: Motor impairment as a predictor of functional recovery and guide to rehabilitation treatment after stroke. Neurorehabil Neural Repair 15: 229-237, 2001
5.Ayata KN, et al: Estimating the minimal clinically important difference of an upper extremity recovery measure in subacute stroke patients. Top Stroke Rehabil 18: 599-610, 2011
6.Jørgensen HS, Nakayama H, Raaschou HO, Vive-Larsen J, Støier M, Olsen TS. Outcome time course of recovery in stroke. II. Time course of recovery: the Copenhagen Stroke Study. Arch Phys Med Rehabil 76:406–12, 1995
7.Feys HM, De Weerdt WJ, Selz BE, et al. Effect of a therapeutic intervention for the hemiplegic upper limb in the acute phase after stroke: a single-blind, randomized, controlled multicenter trial. Stroke 29:785–92, 1998
8.Page SJ, et al: Clinically important differences for the upper-extremity Fugl-Meyer Scacle in people with minimal to moderate impairment due to chronic stroke. Physical therapy 92: 791-798, 2012

     

<最後に>
【12月6日他開催:姿勢制御に関係する各要因の臨床応用】
本講習会は前回の「姿勢制御に関係する各要因の基礎知識」の応用編になります。前回の内容を踏まえ、加齢や疾患が各要因へ与える影響や、臨床での評価方法やアプローチ方法などを紹介することで、聴講者が臨床で姿勢制御障害に対峙した時の引き出しを増やすことを目的としています。
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