TOPICS

お知らせ・トピックス
コラム

脳卒中後の上肢運動障害に対する効果のエビデンスについて(1)

UPDATE - 2022.11.30

<抄録>

 上肢運動障害に対する機能回復のためのリハビリテーションは,対象者の予後や転機を最大化し,幸福やQuality of lifeの改善において,中核となるべき1つの分野である.個々のリハビリテーションプログラムの効果に関するエビデンスは,広いリハビリテーション領域の中でも随一であり,ランダム化比較試験等比較的正確性の確保された研究デザインを用いた研究が多くなされている.実際に,臨床においても,眼前の対象者に対して,効果的なリハビリテーションプログラムを選択し,アプローチを完遂するためには,それぞれのリハビリテーションプログラムの相対的な有効性を知る必要がある.本コラムにおいては,現状様々なアプローチの効果について,どのような認識がなされているかについて,それぞれのアプローチ別に解説を行う.

     

1.脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションプログラムの現状

 脳卒中後に上肢運動障害を有する対象者は多く存在する.ヒトの日常生活活動の多くは,両手を用いるものが多く,脳卒中後片側の上肢運動障害を有するだけで,多くの日常生活活動において不便を感じることが多い.また,上肢運動障害は,脳卒中発症後数ヶ月から数年を経てもなお,継続的にその問題を抱えたまま生活している対象者は多く2,これらの問題点を解決することが,脳卒中後のリハビリテーションプログラムの開発においても中核の1つと考えられている.
 ただし,脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションプログラムは,1980年以降多く開発されている.さらに,個々のリハビリテーションプログラムは,比較的正確性の高いランダム化比較試験を用いた多くの研究によって検証がなされている.従って,それぞれのリハビリテーションプログラムにおいて,ランダム化比較試験を集合し,多くの試験の傾向を調査する,システマティックレビューやメタアナリシス等も他のリハビリテーション分野に比べると多くなされている現状がある.これだけ多くのシステマティックレビューやメタアナリシスが存在すれば,さらにそれらを統合し,検証を行う必要も考えられている.それらをまとめた結果がどのように示されているか,それらについて下記の項で解説を実施する.

     

2.システマティックレビューの統合について

 Pollockらは,2014年に1840件のシステマティックレビューとメタアナリシスから,脳卒中後上肢運動障害に対する18種類のリハビリテーションプログラムに関連する40件のシステマティックレビューとメタアナリシス(Cochrane19件,Cochrane以外21件)を選択した.40件のシステマティックレビューとメタアナリシスには,503本の論文,18078名の対象者が含まれていた.また,これの中から127件の比較検証を抽出し,分析を行った結果,経頭蓋時期刺激を用いたリハビリテーションプログラムに関わる1件の比較検証において,日常生活に対して影響を与えない(有益性がない)という強いエビデンスを取得した.その他,47件の比較検証(7種類のリハビリテーションプログラムが含まれる)が中等度のエビデンス,残り77件の比較検証が弱いエビデンスであることが示唆されている.
 次に上肢の運動障害や日常生活活動に対して、中等度の有益性を示した7つのリハビリテーションプログラムについて,1)Constraint-induced movement therapy(CI療法), 2)メンタルプラクティス,3)ミラーセラピー、4)上肢感覚障害に対するリハビリテーションプログラム,5)バーチャルリアリティを用いたリハビリテーションプログラム,6)比較的高強度の反復課題指向型アプローチ,が挙げられた.また,上肢運動障害に対するリハビリテーションプログラム全体において,両手動作を用いた練習よりも,運動障害を有する片側を用いた練習を実施する方が,効果が高い可能性が示唆された.

     

3.まとめ

 個々のリハビリテーションプログラムの効果に言及したシステマティックレビューやメタアナリシスは,広く散見することができる.しかしながら,このように多くのシステマティックレビューやメタアナリシスを統合して,手法ごとに検証した研究は非常に少なく,臨書において,リハビリテーションプログラムを選択する際に意思決定には非常に役に立つ.しかしながら,多くの正確性の高い研究が必要なため,こういった研究自体が少ないのも事実である.Pollockらの研究も2014年のものであり,今から8年も前の知見となる.これらを鑑み,上記の結果については理解し,臨床で使用する必要がある.加えて,個々のリハビリテーションプログラムに関する最新のランダム化比較試験やシステマティックレビューやメタアナリシスを常に参考にし,検索する必要もある.

     

引用文献

1. Kwakkel G, Kollen BJ, Grond J, Prevo AJ. Probability of regaining dexterity in the flaccid upper limb: impact of severity of paresis and time since onset in acute stroke. Stroke 2003;34(9):2181‐6

2. Broeks J, Lankhorst G, Rumping K, Prevo A. The long term outcome of arm function after stroke: results of a follow‐up study. Disability and Rehabilitation 1999;21:357‐64

3. Pollock A, Farmer SE, Brady MC, Langhorne P, Mead GE, Mehrholz J, van Wijck F.  Interventions for improving upper limb function after stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews, 2014, 11.

     

<最後に>
【12月6日他開催:姿勢制御に関係する各要因の臨床応用】
本講習会は前回の「姿勢制御に関係する各要因の基礎知識」の応用編になります。前回の内容を踏まえ、加齢や疾患が各要因へ与える影響や、臨床での評価方法やアプローチ方法などを紹介することで、聴講者が臨床で姿勢制御障害に対峙した時の引き出しを増やすことを目的としています。
https://rehatech-links.com/seminar/12_6/

     

【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
2,失認–総論から評価・介入まで–
3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
 –医療機関における評価と介入-
4,高次脳機能障害における就労支援
 –制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
5,失行
6,半側空間無視
 通常価格22,000円(税込)→8,800円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/

前の記事

脳卒中後に生じる上肢運動障害に関する病態解釈の視点について(4)

次の記事

臨床における脳卒中後上肢運動障害に対するミラーセラピーに関する効果のエビデンス (1)