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臨床における脳卒中後上肢運動障害に対するミラーセラピーに関する効果のエビデンス (1)

UPDATE - 2022.12.2

<抄録>

 ミラーセラピーは脳卒中後の上肢運動障害に対するアプローチの一つであり,効果のエビデンスもメンタルプラクティスと並んで保証されている.また,鏡と簡単に使用できるボックスがあれば,実施可能なアプローチであり,臨床における一般汎化性も高い.多くの研究において効果が検証されているが,一般的にはミラーセラピー単独のアプローチではなく,他の効果が保証されたアプローチに付随する形で実施することが推奨されている.本コラムにおいては,脳卒中後上肢運動障害に対するミラーセラピーの効果について,2回に渡り,解説を行っていく.第一回は,脳卒中後に生じる後遺症に対するミラーセラピーの実際について,解説を行う.

     

1.臨床における脳卒中後上肢運動障害に対するミラーセラピーとは

①脳卒中後に生じる後遺症について
 脳卒中は,世界的にも死因の上位を占める疾患である.また,それに加えて,疾患発症後のQuality of life(QOL)に影響を与えうる疾患の一つとされている.後遺症の中でも,上肢の運動障害は多くの脳卒中後の対象者に影響を与えるとされており,全体の80%程度の対象者が重症度にかかわらず上肢運動障害を有すると考えられている.また,上肢の運動障害の回復度合いとしては,古い研究にはなるもののNakayamaら1が軽度例で80%,重度例では20%と報告しており,運動障害の回復については,リハビリテーション領域においては,解決すべき重要な課題とされている.
 また,上記に加えて,脳卒中後には様々な後遺症が生じる.例えば,脳卒中発症後12カ月間において,約50%の対象者に上肢,特に肩の痛みや複合性局所疼痛症候群(CRPS-type Ⅰ)を有するとされている2.他には,急性期の右半球を損傷した脳卒中後の対象者の約40%程度,左半球を損傷した脳卒中後の対象者の約20%に半側無視が認められる3.また,長期的な視点では,右半球損傷の対象者の約15%,左半球損傷の対象者の約5%に半側無視が認められたとされている3.これらの複合的な後遺症に対して,効果があるアプローチを選択し実施していく必要がある.

     

②ミラーセラピーについて
上記の後遺症に対して,様々なアプローチが開発されているが,その中でもミラーセラピーは効果が保証されたアプローチの一つである4.ミラーセラピーは体性感覚入力を主軸とせず,視覚刺激に基づく介入方法とされている.ミラーセラピーは,対象者の正面矢状面に鏡を設置し,非運動障害側の上肢を鏡に移し,その鏡像を覗き込むことで,あたかも運動障害側の上肢が動いているように錯覚させることを目的としている.ミラーセラピーの利点としては,実施するために特別な機器を必要としないこと,運動障害側の上肢の随意運動が全く不可能な重度な麻痺を有した対象者においても利用できる点である.近年では,バーチャルリアリティやコンピューターグラフィック等を利用し,運動障害側の上肢が動いているような錯覚を導く工学機器を用い,ミラーセラピーと同様の効果を狙った介入等も多数実施されている.

     

③ミラーセラピーのメカニズム
 ミラーセラピーのメカニズムは,過去の多くの研究によって明らかにされてきた.その中でも代表的なメカニズムとして,運動の観察と同様の運動の実行において,皮質運動野の共通した活動が挙げられている5.さらに,最近では,鏡像に対する錯覚が,特異的に皮質の興奮性をさらに高める可能性についても述べられている6.ただし,多くの研究が健常者を対象とした基礎研究であり,脳卒中後に多種の後遺症を有した対象者で同じような現象が生じるかどうかは不明な点が多いとも指摘されている.

     

おわりに

 第一回は,ミラーセラピーの背景や実際の施工方法,メカニズムについて解説した.上記に示したように多くの研究により,効果の基盤となる臨床の手続きやメカニズムが確立されてきたことがわかる.第二回では,これらのアプローチが脳卒中後上肢運動障害をはじめとした多種の後遺症を抱える対象者において,どのような効果のエビデンスを示すのか,後遺症別に解説を行っていく予定である.

     

引用文献

1. Nakayama H, Jorgensen HS, Raaschou HO, Olsen TS. Recovery of upper extremity function in stroke patients: the Copenhagen Stroke Study. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 1994;75(4):394‐8.

2. Sackley C, Brittle N, Patel S, Ellins J, Scott M, Wright C, et al. The prevalence of joint contractures, pressure sores, painful shoulder, other pain, falls, and depression in the year after a severely disabling stroke. Stroke2008;39(12):3329‐34.

3. Ringman JM, Saver JL, Woolson RF, Clarke WR, Adams HP. Frequency, risk factors, anatomy, and course of unilateral neglect in an acute stroke cohort. Neurology 2004;63(3):468‐74.

4. Ramachandran VS. Phantom limbs, neglect syndromes, repressed memory, and Freudian psychology. International Review of Neurobiology 1994;37:291‐333.

5. Grèzes J, Decety J. Functional anatomy of execution, mental simulation, observation, and verb generation of actions: a meta‐analysis. Human Brain Mapping 2001;12(1):1‐19.

6. Kang YJ, Park HK, Kim HJ, Lim T, Ku J, Cho S, et al. Upper extremity rehabilitation of stroke: facilitation of corticospinal excitability using virtual mirror paradigm. Journal of Neuroengineering and Rehabilitation 2012;9:71.

     

<最後に>
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