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リアルタイムに提供されるウェアラブル端末からのフィードバックは,脳卒中後の麻痺手の使用頻度に影響を与えるのか?(2)

UPDATE - 2022.12.23

<抄録>

 脳卒中後,対象者のQuality of life(QOL)の低下につながる症候の一つとして,麻痺手の使用行動の減退がある.QOLの向上を考えた際に,一部の研究者は,国際生活分類における麻痺手に関わる身体機能・構造のアウトカムよりも,活動・参加のアウトカムの向上の方が,寄与率が高いと述べている.しかしながら,脳卒中後手の機能が中程度に保たれていたとしても,多くの対象者は日常生活において麻痺手の使用を大幅に減らすと考えられている.そこで,近年ウェアラブル端末からリアルタイムに提供されるフィードバックの効果が様々なシチュエーションで検討されている.本コラムにおいては,2回に渡り,ウェアラブル端末によるリアルタイムのフィードバックが脳卒中後の麻痺手の使用行動にどのような影響を与えるかについてまとめ,解説を行う.

     

1.上肢麻痺を呈した対象者に対するウェアラブルセンサによるリアルタイムフィードバックに関する研究について(続)

 さて,『リアルタイムに提供されるウェアラブル端末からのフィードバックは,脳卒中後の麻痺手の使用頻度に影響を与えるのか?(1)』で示した,いくつかのウェアラブル端末から提供されるリアルタイムフィードバックに関する研究の結果から,これらのフィードバックが麻痺手の行動変容に一定の役割を果たす可能性を感じることができたと思う.それでは,ここからはランダム化比較試験を用いて,それらの効果検証を行った研究をいくつか紹介していく.
 まず,Dongら1の研究を紹介する.この研究では,脳性麻痺を有した児童73名を対象に,麻痺手の使用行動の改善に関してエビデンスが確立されているConstraint-induced movement therapy(CI療法)を単独で実施する群と,CI療法に加えて『センサリー・キュー・リストウォッチ(PloyU Technology &Consultancy CO. Ltd,Hong Kong)を装着した群(センサリー・キュー・リストウォッチは,サンプリング周波数は5Hz,記録時間は2秒間で遂行する機器である.また,ある一定の閾値以下の使用頻度になった際には,活動量計からアラームが提供される仕組み-),さらに,従来のリハビリテーションを提供した群の間でランダム化比較試験を用いた検討がなされた.これらの結果,CI療法単独で実施した群,CI療法にセンサリー・キュー・リストウォッチを装着した群は,それぞれに対照群である従来のリハビリテーションを実施した群と比較し,有意な麻痺手の使用行動の改善を認めたものの,CI療法単独で実施した群,CI療法にセンサリー・キュー・リストウォッチを装着した群の間には有意な機能改善の差は認められなかったと報告している.ただし,実生活における麻痺手の使用行動については,CI療法にセンサリー・キュー・リストウォッチを装着した群の方が,CI療法単独で実施した群に比べ有意な改善を示したと報告している.
 最後に,Lucenaの研究を紹介する.この研究では,麻痺手に対してManumeterという磁気にて麻痺手の動きをカウントし,その数値データをフィードバックする機器を利用している(Dongらの研究とは異なり,振動やアラームと言ったリアルフィードバック機能は搭載されていない).この研究では,通常の生活において,活動量計を麻痺手に装着し,1日の使用の目標を設定する群と,活動量計の装着のみで目標設定を実施しない群にランダムに割り付けた後,比較検討を実施している.その結果,目標設定を実施した群では,介入の前後において有意な使用行動の改善を認めた.一方,目標設定を実施しなかった群においては,介入前後の改善を認めなかったと報告している.しかしながら,二群間の手指機能の有意な改善差は認めなかったと報告している.この結果から,筆者らは,ウェアラブル端末による数値によるフィードバックは,短期的な麻痺手の使用行動の修正にはある程度効力を発揮する可能性を示唆した.しかしながら,厳密なデザインを用いたこの分野の研究はまだまだ少なく,今後多くの研究の実施が期待されているところである.今後もこの分野の研究について注視する必要がある.

     

引用文献

1. Dong, V. A., Fong, K. N., Chen, Y. F., Tseng, S. S., & Wong, L. M. (2017). ‘Remind‐to‐move’treatment versus constraint‐induced movement therapy for children with hemiplegic cerebral palsy: a randomized controlled trial. Developmental medicine & child neurology59(2), 160-167.2. Schwerz de Lucena, D., Rowe, J. B., Okita, S., Chan, V., Cramer, S. C., & Reinkensmeyer, D. J. (2022). Providing Real-Time Wearable Feedback to Increase Hand Use after Stroke: A Randomized, Controlled Trial. Sensors22(18), 6938.

     

<最後に>
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