<抄録>
エビデンスに基づくリハビリテーションを提供するためには,様々なスキルが必要となる.特に,エビデンスを探索する際の方向性を間違えないように,診断に対する専門性が非常に重要視される.さらに,対象者の様々な価値観や心情の揺れを捉えることができる鋭い洞察力やコミュニケーションスキルが重要となる.本コラムにおいては,エビデンスに基づくリハビリテーションを提供するために重要なスキルについて確認し,その上で留意しなければならない事項について解説を行う.
1.エビデンスに基づくリハビリテーションを実施していく上で必要なスキルとは?
経験ベースで提供したリハビリテーションをエビデンスに基づくリハビリテーションが補完するために,それらを提供する上で必要なスキルについて表1に示す.
ここで,重要視したいスキルが『診断に関する専門性』という点である.
例えば,ある脳卒中後の軽度の上肢運動障害を呈した対象者を担当した際,ある療法士はこの運動障害に対し,軽度の麻痺に対するアプローチの一つであるConstraint-induced movement therapy(CI療法)が適応すべきかを迷った.そこで,数日を費やして,麻痺に対するアプローチについて,最高レベルの効果のエビデンスを探索し,批判的吟味によって評価を行った.しかしながら,それでもなお不確実な点があったため,先輩の療法士に対象者の運動障害を共観を依頼した.共観が始まり数分が経った後,その先輩はある療法士との議論を打ち切り,『後輩くん。これ,麻痺と言うよりは,運動失調だね』と穏やかに伝えた。
この話は,最適なアプローチに関するエビデンスを検索し,適応する前に,如何に正確に対象者の病態を紐解くことが重要かを示している.この病態の解釈を正確に実施した上で,療法士は経験と背景知識をもとに,最適なアプローチの選択をすることができる.
さて,エビデンスを適応する際に,療法士は各研究によって示されたエビデンスが,研究内の対象者と,眼前の対象者の特徴の相違点により,どの程度影響を受け得るのかを,自身の臨床的な経験や先行研究において示された交絡因子やバイアスといった情報から判断し,適応しなければならない.
また,これらに加えて,対象者とのコミュニケーションも非常に重要な要素となる.特に,療法士である我々が対象者の個人的な状況・背景を理解するために,傾聴する能力や共感できるコミュニケーションスキルが必要となる.しかしながら,これらに関しては,対象者と療法士の二人称間で情報の共有が困難なことも多い.なぜなら,対象者が自身の置かれた状況を顕在的に把握できていない可能性もあるからである.従って,家族等の近い立場の第三者を議論に巻き込むことも重要であると考えられている(しかしながら,障がい自体が対象者のプライバシーに触れるものであり,家族に隠しておきたい事象である場合には,十分な配慮が必要である).
最後に,対象者によっては,アプローチの選択に際して,リスクと利益について直接的に議論すること自体に不快感を感じ,療法士が対象者自身に意思決定の責任を全てなすりつけているように思い,抗議することもあるかもしれない.そのような時には,意思決定において対象者の意思が優先的であることを認識した上で,対象者が好むであろう手法を医療者側から提案できるような洞察力もスムーズな協議を進める上で必要なコミュニケーション技術であると考えられている.
<最後に>
【12月6日他開催:姿勢制御に関係する各要因の臨床応用】
本講習会は前回の「姿勢制御に関係する各要因の基礎知識」の応用編になります。前回の内容を踏まえ、加齢や疾患が各要因へ与える影響や、臨床での評価方法やアプローチ方法などを紹介することで、聴講者が臨床で姿勢制御障害に対峙した時の引き出しを増やすことを目的としています。
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【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
2,失認–総論から評価・介入まで–
3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
–医療機関における評価と介入-
4,高次脳機能障害における就労支援
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5,失行
6,半側空間無視
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