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竹林的脳卒中後の上肢運動麻痺に関する論文の読み方①

UPDATE - 2022.12.30

『Strength training associated with task-oriented training to enhance upper-limb motor function in elderly patients with mild impairment after stroke: a randomized controlled trial』を読んだ個人的解釈について

     

題材論文
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25122097/

     

 脳卒中後の上肢麻痺は,対象者のQuality of life(QOL)を減退させる後遺症の一つと考えられており,これらを軽減するために世界中で様々なアプローチが開発され,さらにはその効果が検証されている.その中でも,Constraint-induced movement therapyを含む課題指向型アプローチがこの20年ほど脚光を浴びており,効果の検証も進んでいる.今回は, da Silva BSらが示した課題指向型アプローチにおける練習の負荷量に関する研究について,個人的な解釈を進めていこうと思う.
 この論文は、慢性期の脳卒中を有する対象者における上肢麻痺に対する課題指向型アプローチの負荷量を検証すべく実施された,ランダム化比較試験である.慢性期の脳卒中を有した対象者の麻痺手に対して,介入群は課題指向型アプローチを実施する際に介入前の最大筋力量の60%の負荷量となる重錘を前腕に設置し,対照群は課題指向型アプローチ単独で実施している.対象者は,20名を予定され,そのデータはブラジル臨床試験登録機関に登録,ランダム化の割り付けがなされた.さらに,アウトカムの測定に関しても盲検化が実施されており,バイアスに対する配慮は比較的なされている研究と思われた.
 結果としては,介入群が対照群に比べ,日本語版Test Ebaluant les Membres superieurs des Personnes Agees:TEMPA [作業における両手および片手のスキルを療法士の観察から示す質的評価法)のFunctional Graduateの両手動作(P=0.049),Task analysisの片手動作(P=0.041),肩関節の能動的可動域(P=0.01)およびFMAのスコアが有意に高かったことが示されている.この結果を鑑みると,単関節運動に関わるような筋出力に依存する評価に対して,このアプローチは強みを持っている可能性がある反面,パフォーマンスに関わる評価(動作の質や滑らかさ,スキルといった側面)においては,統計的な有意さは存在するものの,前者に比べるとかなりばらつきが大きい結果となっていることがP値からも想定できる.
 さて,この結果を見て,課題指向型アプローチの対象となる全ての対象者に対して、最大筋出力量の60%の重錘を付与するのか,と言われれば答えは確実に『NO』である.その理由としては何点かが挙げられる.まず第一に,この研究の対象者のベースラインのFugl-Meyer Assessment(FMA)の35点程度であることが挙げられる.FMAの35点とは,Brunnstrom Recovery Stage Ⅳの後半あたりに位置する機能である.この状況の対象者の多くは,肩関節の適合性に強く関与するローテーターカフのコントロールが非常に悪く,重錘負荷のような重力負荷を付与した場合,アウターの筋を優先的に使用する動作を誤学習してしまう可能性が考えられる.
 第二に,第一の延長上になるが,アウターを過剰に使用しすぎると,上腕二頭筋の長頭,短頭等に痛みを生じる可能性が経験上高い.しかしながら,当該の研究では痛みによる離脱が一例もない(ランダム化比較試験を実施する際,離脱例を出さずに試験を遂行することは至難の技である.また,当該の研究デザインを使用する際には,安全性評価を実施することが多いが,それも上記論文の中には記述が見当たらない).これは運が相当良かったのか,それらを鑑みて精密な難易度調整を施したのか,この点は見当がつかないが,日本人を対象とした臨床の肌感覚からは少し違和感がある結果ではあるかと感じた(研究が慢性期であり,回復期等に比べると肩の安定性や筋緊張の一律性が整っているとはいえ,一定するはこれだけ高強度の練習を実施すれば痛みを訴えるケースがあることも想定できる).
 ただし,第二の点については,対象者の多くがブラジル人であることを仮定すると,ラテン系の方々多いと思われる.人種によって,体格や体躯の強靭さはデータでは示されていないが,明らかに存在する.日本人が含まれる東南アジア系の対象者においては,この研究で用いられる高強度の練習に耐えられる可能性もないわけではない,それらも差し引いて,この点は『結論を下せない』と同時に,疑義も残るところであると思われた.
 ざっと読んだだけでも上記の疑義が挙がることから,上記研究で用いられたアプローチを臨床において用いる場合も,かなり慎重に対象者を選ぶ必要があることが考えられる.例えば,臨床で仮に使用するならば,肩関節周囲の適合性に問題がなく,ローテーターカフのコントロールがある程度可能であり,筋緊張もニュートラルな状況が確保されている軽度の麻痺手を有する脳卒中後の対象者となることが考えられる.ただし,これも経験と論文の内容の解釈によるものであり,実際にここの事例において試した場合,上記の解釈を超えることもあることも想定に入れて,試行を行うことも重要である.

     

<最後に>
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