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予後予測で用いられる研究デザインとは(2) −予後予測研究で用いられる統計用語や手法の基礎知識(1)−

UPDATE - 2021.9.17

抄録

 リハビリテーション領域において,予後予測は大切なスキルの一つである.リハビリテーション領域における予後予測の研究は年々増加しており,新しい知識を常に更新し続ける事が重要となる.ただし,予後予測関連の論文を参考にする際,結果や結論ありきで,知識を充足するだけでは,いささか不十分と言わざるをえない.最良の学習方法は,予後予測論文にて使用される研究デザインを理解し,論文読者自身が批判的吟味を加えながら,論文の結果や結論を理解する事が求められる.本稿では,リハビリテーションにおける予後予測論文の結果や結論を吟味する際に,最低限知っておかなければならない,統計用語や手法の基礎知識について,簡単に解説する事を目的としている.

     

1.予後予測論文の結果と結論を批判的吟味するための基礎知識(1)

     

1)P値について統計的な手続きが

 P値とは,Probability(確率)の頭文字を取られたものである.さて,P値が登場する統計的な検定では,論理学における背理法といった間接的証明方法が用いられている.背理法とは,2つの仮説,帰無仮説(仮説そのものを否定する説),対立仮説(仮説そのものを肯定する説)を設定し,帰無仮説を統計的に否定することによって,対立仮説を正しいとする,間接的証明方法なのである.従って,帰無仮説(Aではない),対立仮説(Aである)の場合,統計的な結論としては,「Aではない」を証明するのではなく,「Aであることはない」という不確かさが残る証明であることを覚えておきたい.さて,一般的にp<0.05という数値をよく見かけると思う.これは「帰無仮説が正しいにもかかわらず,棄却してしまう確率」を指している.つまり,100回調査を繰り返すと,20回に1回の希な確率で異なる結果が生じることを示している.ただし,p値を5%と設定している根拠は,特になく慣習的なものと考えられている.また,p値だけでは,帰無仮説を否定することは示せるものの,実際にどのぐらいの程度(差等の実際の値)で否定できるのかといった情報を得ることはできない.

     

2)95%信頼区間

 P値だけでは実際にどの程度,帰無仮説を否定できたについては,示すことができないと上記で示した.一方,区間推定は,結果が臨床的な意味を持つものかどうかを判断するために,データの測定尺度を用いて,直接示すことが可能である.そこで,最も使用される指標が信頼区間(Confidence interval: CI)であり,データからCIを求めることを区間推定という.95%信頼区間とは,母集団から標本を採取し,その平均から信頼区間を求めるという作業を100回実施した際,5回は信頼区間のなかに母平均が含まれないことを意味している(図1).さて, 95%信頼区間を解釈する際,検定の対象が『差』の場合と,オッズ比やリスク比などの比を見ている場合,数値の持つ意味が異なる.例えば,2群間の平均に関する差について検定を行なったとする.その場合,対立仮説は「A群の平均値−B群の平均値=0以外の数」,となり,帰無仮説は,「A群の平均値−B群の平均値=0」となる.この場合は,帰無仮説で設定した0という数値を跨いでいない場合に,帰無仮説を否定できる(有意であるという解釈が可能である).一方,比の場合,例えば,リスク比は2群において,同等の発生確率の場合,リスク比は1となる.これらから,帰無仮説は「発生確率が同率(リスク比が1)」で,対立仮説が「発生確率が異なる(リスク比が1未満,もしくは1よりも大きな値)」となる.従って,1を跨いでいない場合に,帰無仮説を否定できる(有意であるという解釈が可能である).オッズ比については2群において,同等の異常確率の場合,オッズ比は1となる.これらから,帰無仮説は「異常確率が同率(オッズ比が1)」で,対立仮説が「異常確率が異なる(オッズ比が1未満,もしくは1よりも大きな値)」となる(オッズ比に関しては,次稿:予後予測で用いられる研究デザインとは(3)−予後予測研究で用いられる統計用語や手法の基礎知識(2)−にて解説する予定である).従って,1を跨いでいない場合に,帰無仮説を否定できる(有意であるという解釈が可能である).


図1. 95%信頼区間を求める過程のイメージ図
(奥田千恵子: お馴染みp値,見慣れぬ信頼区間.日病薬誌 50: 729-732, 2014を一部改編)

     

<最後に>
【8月28日他開催:呼吸器疾患に対する作業療法】
慢性呼吸器疾患の基礎から実践までを説明し、各疾患の作業療法メソッド、在宅ケアの方法などの詳細も解説します。
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