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脳卒中発症に関与する危険因子(2)

UPDATE - 2022.6.10

<抄録>

 脳卒中発症および再発の危険因子として様々なものが挙げられている.我々療法士はそれらの因子を正確に理解し,対象者の方々に伝えることで,できるだけ脳卒中の発症および再発予防を心がける必要がある.そこで,本コラムにおいては,発症および再発のリスク因子について解説する.

     

1.脳卒中発症の危険因子

 脳卒中は,急性期の救命率が向上したことで,死因の順位は明らかに減退している.しかしながら,片麻痺をはじめとした様々な心身の障害によって,長期間の介護が必要となるケースも多い.従って,できれば,脳卒中の発症そのものを予防できることが望ましい.ここでは,脳卒中の発症の原因と考えられるリスク因子について,説明を行う.

     

1)糖尿病

 糖尿病は,脳卒中発症の独立した危険因子であり,発症リスクは糖尿病ではない者に比べ,リスク比で2.0〜4.0程度とされている1.この中でも2型糖尿病は,インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす遺伝子因子に,過食,運動不足,肥満,ストレスなどの生活習慣,さらには加齢が影響し,発症すると考えられている.糖尿病に対する治療は,食事療法や禁煙等の生活指導と薬物治療が中心である.ただし,それらを単独ではなく,併せて実施することにより、より心血管イベントをより抑制することができると脳卒中ガイドライン2021においても推奨されている2.薬物療法による血糖コントロールは,脳卒中発症についてもリスク比で0.80〜0.91にて抑制できる可能性が示唆されている3.また,脳卒中発症のリスクを軽減するためには,糖尿病を含む多くの危険因子(この項でも挙げられている高血圧,脂質異常症,肥満,喫煙)を包括的にコントロールすることが求められる.2型糖尿病を合併した高血圧患者において,ランダム化比較試験を実施した結果,通常降圧群よりも,厳格降圧群の方が,約44%脳卒中発症率が低かったと報告している4.また,14件のランダム化比較試験のメタアナリシスにおいて,2型糖尿病を有する対象者はスタチンを服用していた場合,していなかった場合に比べ,脳卒中発症のリスクはリスク比で0.79減少したと報告されている5.

     

2)心疾患

 心疾患は脳卒中の発症に大きく関連している.脳梗塞の危険因子とされる心房細動は,非弁膜症性心房細動(non-valvular atrial fibrillation: NVAF)と弁膜症性心房細動(VAF)に分別される.NVAF患者に対しては,脳卒中発症のリスクの層別化にCHADS2スコア6の使用が勧められている.さて,NVAF患者における心原性脳塞栓症の予防については,直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)がワルファリンと同等もしくは,それ以上の予防効果を述べている.さらに,DOACはワルファリンよりも頭蓋内出血率が有意に低いとされており,これらの薬剤療法が一般的であるとされている7.一方,弁膜症性心房細動(VAF)DOACの有用性および安全性は証明されておらず8,ワルファリン療法等の他の薬剤療法が推奨されている2

     

3)肥満,メタボリックシンドローム,睡眠時無呼吸症候群,末梢動脈疾患

 肥満は内臓脂肪型と皮下脂肪型に分類されるが,メタボリックシンドロームの原因ともなる内応脂肪肥満はインスリン抵抗性等を高めることから,脳卒中発症のリスク因子の原因に成り得る症候である.また,これらのリスク因子を介在せずとも,肥満およびメタボリックシンドローム自体が直接の脳卒中発症のリスク因子といった報告もある9, 10.97の観察研究のメタ解析から,Body mass index(BMI)が5上昇するごとに,脳卒中発症リスクが4%増え,30以上となるとリスク比で1.14と増加すると述べている.
 また,睡眠時無呼吸症候群も脳梗塞発症のリスクを高めると考えられている.5つの観察研究のメタアナリシスでは,睡眠時無呼吸症候群を有する対象者は,有さない対象者に対して,脳卒中発症のリスクが,リスク比で2.24増加すると報告されている11.
 さらに,抹消動脈疾患も症候の有無にかかわらず,脳卒中発症のリスクが高いと考えられている.43の観察研究から示されたメタアナリシスでは,抹消動脈疾患を有する対象者は,脳卒中の発症リスクがリスク比で2.17,致死的な脳卒中に至るリスクをリスク比で2.28,増加させると報告されている12.これらから脳卒中発症の確率は,様々な原因が複雑に絡み合った症候であると考えられる.

     

引用文献
1.日本糖尿病学会(編著):糖尿病治療ガイド2020—2021.pp14—76,文光堂,2020
2.脳卒中
3.Holman RR, et al. 10-years follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes. M Engl J Med 359: 1577-1589, 2008
4.UK Prospective Diabetes study group. Tight blood pressure control and risk of macrovascular and microvascular complications in type 2 diabetes: UKPDS 38. BMJ 317: 703-713, 1998
5.Kearney PM, et al. Efficacy of cholesterol-lowering therapy in 18,686 peopele with diabetes in 14 randomised trial of statins: a meta-analysis. Lancet 371: 117-125, 2008
6.Go AS, et al. Anticoagulation therapy for stroke prevention in atrial fibrillation: how well do randomized trials translate into clinical practice?JAMA 290: 2685-2692, 2003
7.Connolly sH, et al. Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 361: 1139-1151, 2009
8.Eikelboom JW, et al. Dabigatran versus warfarin in patients with mechanical heart valves. N Engl J Med 369: 1206-1214, 2013
9.Colpani V, et al. Lifestyle factors, cardiovascular disease and all-cause mortality in middle-aged and eelderly women: a systematic review and meta-analysis. Eur J Epidemiol 33: 831-845, 2018
10.Iso H, et al. Metabolic syndrome, and the risk of ischemic heart disease and stroke among Japanese men and women. Stroke 40: 337-343, 2009
11.Loke YK, et al. Association of obstructive sleep apnea with risk of serious cardiovascular events: a systematic review and meta-analysis. Circ Cardiovasc Qual Outcomes 5: 720-728, 2012
12.Hajibandeh S, et al. Prognostic significance of ankle brachial pressure index: A systematic review and meta-analysis. Vascular 25: 208-224, 2017

     

<最後に>
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