<抄録>
リハビリテーションを実施する上で,日常生活活動に対する予後予測は非常に重要なものとなる.予後予測をせずに,アプローチの優先順位を決めることは,基本的には困難である.本コラムにおいては,特に発症初期の神経症状からの予測について,詳細に解説を行う.
1.日常生活活動の予後に影響を与える予測因子
Veerbeelらは,システマティックレビューの中で,特に精度の高い6つのコホート研究から,発症後3ヶ月における日常生活活動の予後予測因子において,予測精度が高い因子として,初期の神経症状,上肢機能,年齢,をあげている.この中で,それぞれの因子について,検討していく.
2.脳卒中発症初期の神経学的症候から予測する日常生活活動の予後について
Kwakkelらは,神経学的症候を示すNational Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)発症当初の値と日常生活活動の自立度を示すBarthel index(BI)の発症から6ヶ月後の関係について報告している.この研究では,6ヶ月後のBIの値と発症2日目(r=0.549),5日目(r=o.592),9日目(r=0.567)のNIHSSとの関係性をスピアマンの順位相関係数を用いて調べ,それぞれの間に有意な中等度の関係性を認めたと報告した.また,予後予測モデルの性能指標でReceiver Opearating Characteristic Curve(ROC)におけるArea under the curve(AUC)の値は, 2日目(0.798),5日目(0.804),9日目(0.808)と良好であった.さらに,オッズ比は, 0.143(2日目)から0.148(5日目)であった.
Johnstonらは,急性期の脳卒中患者において,3ヶ月後のADLに有意な影響を与えうる因子について検討を行った.その結果,良好なADLの帰結(NIHSS ≧15点もしくは死亡,BI≦60点もしく死亡,modified rankin scale [mRS] =5, 6点)に影響を与える因子として,年齢(オッズ比で1.07),脳卒中発症時のNIHSS(オッズ比で1.15),糖尿病歴の有無(オッズ比で1.84),身体障害歴の有無(オッズ比で1.2),静脈血栓溶解(t-PA: tissue plasminogen activator)の治療の有無(オッズひで0.47),画像診断による病巣の範囲(オッズ比で1.00),画像診断までの時間(オッズ比で0.97),画像診断の病巣と診断までの時間の交互作用(オッズ比で1.00),であったと報告した.加えて,不良な帰結(National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)=0, 1点,Berthel index=95, 100点,modified rankin scale(mRS)=0, 1点)に影響を与える因子として,年齢(オッズ比で0.97),脳卒中発症時のNIHSS(オッズ比で0.82),糖尿病歴の有無(オッズ比で0.94),身体障害歴の有無(オッズ比で0.45),静脈血栓溶解(t-PA: tissue plasminogen activator)の治療の有無(オッズひで2.3),画像診断による病巣の範囲(オッズ比で0.97),画像診断までの時間(オッズ比で0.94),画像診断の病巣と診断までの時間の交互作用(オッズ比で1.00),であったと報告した.また,NIHSS,BI,mRSの予測において,良好および不良な帰結の予後予測のモデルについて,画像診断をモデルに加えた方が,予後予測モデルの性能指標でReceiver Opearating Characteristic CurveにおけるArea under the curveの値が0.975-0.882であり,画像診断をモデルに加えていない時(0.758-0.867)よりも,若干精度が高かったと報告している.
ただし,初期の神経学的症候からの予測について,画像診断を加えた場合も,一定の効果が得られていないのも事実である.例えば,Satoらは,前方循環と後方循環の虚血性脳卒中例を比較した結果,良好な帰結(mRSにて2以下)に対する多変量調整オッズ比は2.34であり,後方循環よりも前方循環例の方が,6ヶ月後の日常生活活動の自立度が良好といった結果が示唆された.また,発症初期のNIHSSの点数が低いことが,前方循環(オッズ比で1.547)および後方循環の梗塞(オッズ比で1.279)において,良好な帰結を予測する独立した因子であることがわかった.また,良好な帰結を予測するNIHSSのカットオフは,前方循環の梗塞でNIHSSが8点以下(感度84%,特異度81%),後方循環の梗塞で5点以下(感度80%,特異度82%)であったと報告している.また,これらの結果は,Kaziらの研究においてもほぼ同様の結果が示されており,発症初期の神経学的症候からの予後予測は損傷部位によって,若干異なることを配慮しておきたい.
また,Meyerらの前方循環領域の虚血性脳卒中における,血栓除去術後の対象者のADLの長期予後においても,術後初期24時間後のNIHSSは非常に強い予後予測因子と言われており,AOU0.86と精度が高かったと報告している.さらに,24時間後のNIHSSが8点以下で最も良好な帰結の指標になることも示された.
なお,近年の研究では,Maoらは,神経学的症候を示すNIHSSのみの評価ではなく,その結果に,年齢,心房細動の有無,プレアルブミンの値等,複合的な側面からの説明変数をモデルに組み込むことにより,予測精度がより向上する(NIHSSのみのAUC=0,783,複合的なモデルによるACU=0.861)といった報告も刺されており,画像およびその他の説明因子も踏まえた予後予測が重要であると述べられている.
引用文献
- 1.Veerbeek JM, Kwakkel G, van Wegen EE, et al:Early prediction of outcome of activities of daily living after stroke:a systematic review. Stroke 42:1482—1488, 2011
- 2.Kwakkel G, Veerbeek JM, van Wegen EE, et al:Predictive value of the NIHSS for ADL outcome after ischemic hemispheric stroke:does timing of early assessment matter?. J Neurol Sci 294(1—2):57—61, 2010
- 3.Johnston KC, Wagner DP, Wang XQ, et al:Validation of an acute ischemic stroke model:does diffusion—weighted imaging lesion volume offer a clinically significant improvement in prediction of outcome?. Stroke 38:1820—1825, 2007
- 4.Sato S, Toyoda K, Uehara T, et al:Baseline NIH Stroke Scale Score predicting outcome in anterior and posterior circulation strokes. Neurology 70(24 Pt 2):2371—2377, 2008
- 5.Stroke Ouctcome prediction using admission Nihss in anterior and posterior circulation stroke. J Ayub Med Coll Abbottabad 2021; 33: 274-278
- 6.Meyer L, et al. Early clinical surrogates for outcome prediction after stroke thrombectomy in daily clinical practice. J Neurol Neurosurg Psychiatry 91: 1055-1059, 2020
- 7.Mao H, et al. Derivation of a prediction rule for unfavorable outcome after ischemic stroke in the Chinese population. J Stroke cerebrovasc dis 28: 113-141, 2019
<最後に>
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