<抄録>
近年では,リハビリテーションにおける予後予測研究が多く発行されている.また、主要なガイドライン等でも,予後予測を実際に行うことが推奨されている.ただし,近年の予後予後研究結果の利用推奨を受け,臨床家や研究者の中には極端に予後予測研究の結果を過剰に評価し,それこそが絶対的な結果だと傲慢な理解を進めると,必要な機能練習をリハビリビリテーション計画から不用意に削除することや,対象者にネガティブな予後予測を最もらしくかつ節操に伝達し,信頼関係の破綻を導くかもしれない.本項では,予後予測研究の限界と,それらの解釈の仕方について,解説を行う.
1.予後予測は絶対的なのか?
この議論は,予後予測を臨床において実施していく際に,非常に重要なものとなる.世の中には,素晴らしい予後予測に関する研究が存在するが,100%的中する予後予測研究は現状存在しない.多くの研究で,研究に適合した対象者と,適合しなかった対象者は必ず存在する.
例えば,脳卒中後の上肢麻痺を呈した対象者の麻痺手の機能レベルを急性期(発症72時間以内)における機能レベルから予測すると言った研究がある.2008年のProbhakaranら1の研究では,41例の対象者を対象として,発症から24時間以内に評価したFugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢項目の値を,単変量分析を用いて,0.7×(66−発症時のFMAの上肢項目の点数)+0.4≒ 3ヶ月から6ヶ月後に予測できる最大回復FMAの上肢項目,と言った予測式をたてた.その後,ランダムサンプリングを実施した対象者によって検証したところ,47%の対象者にしか適合しなかった.しかしながら,同研究の中で,外れ値(予後予測が適合しなかった7名の対象者)を選別し,除去した結果,89%までその適合率は向上したと述べた.その後,Winterら2が,2015年にPribhakaranらのモデル式を検証するために,213例の対象者に対して,調査を実施したところ,69%の対象者に対して,適合が認められたと報告した.さらに,この研究では,このモデルに適合していない対象者65名に対して,多変量解析によって解析した.その結果,モデルに適合しない対象者の要因として,1)72時間以内に手指の伸展が出現しない,2)顔面麻痺があること,3)より重度の下肢の麻痺が存在すること,4)Bamford分類で定義されたより重度の脳卒中に分類される,が挙げられた.また,これらの要素を除いた症例の中では,1.99+0.78×実際のFMAの上肢項目の値≒ 3ヶ月から6ヶ月後に予測できる最大回復FMA(R=0.97, R2=0.94),と言うモデル直線が成り立つと報告した.
この研究からも示されるように,現存するどんなに優れた予後予測指標であったとしても,必ず適合する対象者と適合しない対象者が存在する.従って,適合しない要素を吟味し,より正確な予後予測を目指す必要がある.また,これらの内容から,臨床においては,予後予測指標よりも,実際の臨床における結果が上振れする場合,下振れする場合は必ずある.予後予測を過信すると,超急性期に,対象者に対し,予後に対してネガティブな予測を配慮なく伝えてしまうことや,予測された予後が悪いことから,その障害に介入しないと言った,予後予測に依存しすぎた誤った行動が選択されることもある.従って,予後予測はあくまでも臨床を計画する要因の1つに過ぎないと言う意識を持ち,その結果に一喜一憂せず,眼前の対処者の臨床所見,病態を吟味し,予後予測で示された回復曲線を超える,そう言った心持ちで常に臨床に望む必要があると思われる.
<引用文献>
- 1.Prabhakaran S, Zarahn E, Riley C, et al. Inter-individual variability in the capacity for motor recovery after ischemic stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2008;22:64-71.
- 2.Winters C, et al: Generalizability of the proportional recovery model for the upper extremity after an ischemic stroke. Neurorehabili Neural Repair 29: 614-622, 2015
<最後に>
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