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予後予測における療法士教育の問題点

UPDATE - 2021.9.9

<抄録>

 予後予測は,リハビリテーションを進める上で重要な手段と考えられている.その理由としては,1)適切なリハビリテーションアプローチを設計に必要な情報,2)対象者に正確な情報を提供する必要性,が考えられる.しかし,リハビリテーションに必要な予後予測の情報について,療法士教育の中では,表立って行っていない場合や,行っていたとしても1960年代から1990年代に研究された情報としては古い内容が,未だに療法士教育の中で多く使用されている印象がある.本コラムでは,療法士教育における予後予測の現状と問題点について,建設的にまとめたいと思う.

     

1.療法士教育における予後予測の実際と問題

 リハビリテーション分野における予後予測研究は,昔から多くの研究がなされている.これは筆者の印象ではあるが,予後予測研究の最初に意識され始めたのが,1960年代〜1990年代ではないかと考えている.海外では,脳卒中の帰結研究,臨床的な予後予測研究としては,非常に大規模なCopenhagen Stroke Studyが挙げられる1.これまでの帰結研究,予後予測研究が単一施設や比較的小さなコミュニティ内で収束していた.しかしながら,この研究では,デンマークのコペンハーゲン市において,1年間に脳卒中を罹患し,その後,急性期ケアとリハビリテーションを受けた患者の大半を対象とした前向きのコミュニティベースな観察研究である2.この研究では,1)組織的な脳卒中ケアとリハビリテーションの効果,2)初期の脳卒中の重症度と機能障害に関連した脳卒中の神経学的転帰(予後)と機能的転帰(予後),3)上肢機能と歩行の回復の実際,4)初期の脳卒中重症度に関連した神経学的および機能的回復に要した時間的経過,5)脳卒中の回復メカニズム,6)脳卒中の進行度,年齢による自然回復における再灌流の程度,糖尿病,入院時の血糖値,脳卒中のタイプ(出血・梗塞),無症候性梗塞, Magnetic Resonance Imaging(MRI)におけるT2強彫像で見られる脳室周辺や深部白質の高信号病変(Leukoaraiosis)などで示される人口統計学的,医学的,病態生理学的要因が脳卒中の回復に及ぼす影響を調べた.今までの研究になく,実世界に非常に近い患者群を対象者として,行われた研究として非常に大きな注目を集めた.

 また,本邦では,1961年から40年以上継続されている九州大学のグループによる久山町研究などが挙げられる.この研究では,福岡市に隣接した糟屋郡久山町(人口約8400人)の住民を対象に,脳卒中および心大血管疾患などの疫学調査を行なっている.この研究で注目すべきは,当時の久山町の住民の特徴が,全国平均とほぼ同じ年齢,職業分布を有しており,全国の平均的な日本人の縮小モデルとしての可能性を有していた点である.ただし,残念ながら,この研究では,脳卒中発生や再発に関する疾患等の予後に焦点が置かれており,リハビリテーションに関わる知見は少なかった.リハビリテーション領域における代表的な臨床所見をベースにした予後予測研究としては,長年利用されてきた二木の予測がある.「二木の早期自立度予測基準」と呼ばれることが多く,対象者の脳卒中発症時期に合わせて,1)入院時の予測,2)発症2週時の予測,3)発症1ヶ月時での予測,について実施がなされた3.この研究が公表された当時は,急性期においてシステマティックに予後を予測するための画期的な手法として,広く注目を集めた.最後に,脳卒中におけるMRIやCTを用いた伝統的な画像研究を紹介する.前田ら4の臨床的な経験をもとにした運動麻痺の予後とMRIやCTにおける損傷部位や大きさに関する示唆では,1)病巣は小さいが,運動予後が不良な部分,2)病巣の大きさと比例して運動障害が出現する部位,3)大きい病巣でも,運動麻痺の予後が良好な部位,に分けて報告している.

 伝統的な予後予測について,ここでは一例を示した.これらの研究は,リハビリテーション領域における予後予測に関して,パイオニア的な位置づけにある本当に素晴らしい研究であると筆者らは考えている.これらの研究があったからこそ,昨今のリハビリテーション領域の発展があったと言っても過言ではない.ただし,多くの研究が20-40年以前に実施された研究である.特に,リハビリテーション領域は,一般的な医学的治療や手続きに付帯して,サービスが提供されることが多い.つまり,リハビリテーション領域以外の一般的な医学的治療の治療成績や手続きの進歩によって,リハビリテーションに関わる多くのアウトカムの帰結が大きな影響を受けることが想像に難しくない.

 また,これに加えて,2000年を超えたあたりから,リハビリテーション領域においても,公衆衛生的な手続きが,介入手段の効果を調査するための一般的な手法として用いられることが増えた.具体的には,ランダム化比較試験や,システマティックレビュー,メタアナリシスを用い,リハビリテーションに用いる手法そのものの効果の質が向上してきた経緯もある.このように,リハビリテーションを取り巻く内外の環境が,この20-40年の間に劇的に変化していることを考えると,これらの素晴らしい予後予測研究を,現状に当てはめるにことに限界があることも否めない.従って,これらの予後予測に関連する研究の歴史を学び,十分な敬意を示しつつも,近年の医療をはじめとしたリハビリテーションを取り巻く環境の中で,導き出された新たな予後予測指標を学び,それらを臨床の中で活かし,検証した後,さらに適合度の高い予後予測モデルの開発等につなげていく必要が考えられる.

     

<引用文献>

  1. 1.Hudak PL, et al: Understanding prognosis to improve rehabilitation: The example of lateral elbow pain. Arch Phys Med Rehabil 77: 586-593, 1996
  2. 2.Jørgensen HS. The Copenhagen stroke study experience. J Stroke Cerebrovasc Dis 6: 5-16, 1996
  3. 3.二木立.脳卒中リハビリテーション患者の早期自立度予測.リハ医学19: 201-223, 1982
  4. 4.前田真治.臨床に役立つ脳卒中の予後予測−どこまで機能回復を望めるか 我々が用いている脳卒中予後予測Ⅳ.Jouranal of Clinical Rehabilitation 10: 313-319, 2001

     

<最後に>
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