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臨床での予後予測の活かし方

UPDATE - 2021.9.12

<抄録>

 予後予測研究には様々な研究デザインが用いられている.本稿では,様々な研究デザインを用いて調べられた予後予測を実際に臨床において利用するためのTipsについて記載するので、参考にされたい.

     

1.予後予測の方法

 前項までで,様々な研究デザインや統計的な手法を用いた,多くの予後予測研究が存在することに触れた.ただし,予後予測の対象となるアウトカムは様々なものが用意されている.例えば,国際生活分類(International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF)におけるアウトカム分類で考えると,身体機能・構造,活動,社会参加に分類することができる.従って,眼前の対象者のどのレベルのアウトカムを予測するかを考えることになる.一般的に,臨床場面で対象者や療法士自身の関心が集まる予後予測領域としては,ICFにおける身体機能・身体機能の項目が挙げられる.ただし,我々,療法士が生業としている領域は,リハビリテーション領域である.リハビリテーションとは,「全人的復権」と訳されることもあり,部分的な身体障害・身体機能に特化した予後予測だけでなく,活動,さらには,参加レベルのアウトカムにも興味の幅を広げ,多角的な側面から予後予測を実施する必要性がある.

     

2.研究デザインによる予後予測の工夫

 特定のアウトカムによる単一な予後予測だけでなく,多角的な予後予測を行う際に,どのように予後予測に関する研究の知識を臨床に活かすのか,本項ではそれらに言及していく.

     

1)判別,因果関係(観察研究)に関わる研究の内容を活かす

 判別,因果関係(観察研究)に関わる研究では,観察研究の中でも,ケースコントロール研究や後ろ向きコホート研究,横断研究などがこれらに含まれる.これらの研究の中から,療法士自身や対象者が必要とする予後予測を求めるために,まずは眼前の対象者と疾患や障害の程度など,特徴が近い患者が対象される研究を選ぶことが重要となる.それらの研究で示されている予後予測因子を眼前の対象者から抽出し,当てはめることによって,おおよその予後予測が可能となる.

 一部の研究では,発症時の状態から,帰結をパーセンテージや確率で示しているシンプルなものから,リスク比やオッズ比を示すだけでなく,予後予測を鑑みる上で重要な値であるカットオフ値を示している研究もある.さらには,フローチャート等で思考過程を視覚化し,スコア化が可能なモデル式を掲載しているものもある.特に,こう言った予後予測研究は,思考過程が明確で,かつ具体的な数値が得られるため,臨床的な有用性も高いことが考えられる.ただし,これらの数値に過剰に依存するのも危険な側面がある.予後予測研究に用いられたデザインや統計的な手段が適切かどうか,未知・既知のバイアスの存在がどれほど影響を与えるのか,それらについて慎重に吟味した上で,眼前の対象者の方の予後を予測する必要がある.

     

2)因果関係(介入研究)に関わる研究の内容を活かす

 介入試験において,代表的な研究デザインとしては,ランダム化比較試験が挙げられる.ランダム化比較試験とは,様々な種別のランダム化を行うことにより,未知・既知のバイアスの偏りを統制することを目的とした研究デザインを指す.また,ランダム化比較試験の多くは,試験における主要なアウトカムであるエンドポイントを評価する際に,評価によるバイアスが入らないように,盲験化(エンドポイントの評価を行う者が,眼前の対象者がどう言った療法を受けたか,また,介入前か後かもわからないような状況に置き,結果に影響を与える可能性がある要因を排除するための手続き)が実施されることも多い.リハビリテーション領域では,ある特定の手法の介入効果を検討するために,同様の特徴を有し,かつ他の療法を実施された対照群との比較検討を実施すると言った検討が多い.これらの研究の内容を予後予測に活かす場合,ある特定のアプローチを実施した際に,眼前の対象者にとってどの程度の利得が予測できるかに想いを馳せることができる.

 まず,介入研究を予後予測に活かす際は,研究の対象を確認し,眼前の対象者の特徴に合致しているかどうかを確認する.これが合致していない場合,その研究で語られている介入がどれだけ効果のエビデンスが確保されていたとしても,同様の効果を見込めるかは不明確であるため,この点には留意する必要がある.また,介入の効果を鑑みる際には,対照群に比べ,介入群が有意(p<0.05,p<0.01等,または95%信頼区間が0を跨がない)であることに加え,その差がどの程度の大きさかを確認する必要がある.確認の仕方としては,95%信頼区間の最小値と最大値,効果量(effect size)により数学的な数値の大きさ,先の研究において示されたアウトカムにおける臨床上意味のある最小変化量(Minimal Clinical important difference)を超える変化があるか,等を検討する必要がある.

     

<最後に>
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