<抄録>
脳卒中後に生じる上肢麻痺は,対象者のQuality of lifeを低下させると言われている.従って,上肢麻痺に対するより良い介入に対する開発や検証は必須であり,1990年代から継続して行われている.それらの検証の中でも,近年多く認められるのが,脳卒中後の上肢麻痺に対してリハビリテーションを実施する時期と,その練習量に関する検討である.リハテックリンクスのコラムにおいても,練習量に関する解説は,新規の論文が出版されるたびに,紹介をしてきた.今回,それらの題目に関する2021年10月の時点における最新の知見について,解説を行う.
1.脳卒中後の上肢麻痺に対する練習量に関するコンセンサス
今までも多くの研究が練習量に関する検討を実施している.特に,急性期・亜急性期における練習量に対する配慮については,生活期のそれよりも厳重に注意を払うべきだと考えられている.その考え方は,急性期におけるConstraint-induced movement therapy(CI療法)の急性期における効果について検証した,2009年のDromerickら1の研究が発端である.この研究は,1日3時間のCI療法を実施する群(日常生活においても,起床時間の90%以上で非麻痺手を拘束し,麻痺手の使用を促した),1日2時間のCI療法を実施する群(日常生活においても,1日5時間の非麻痺手の拘束を促した),1日2時間の通常の理学療法・作業療法を実施する群(練習時間以外の条件なし)の3群間のランダム化比較試験である.研究結果としては,1日2時間のCI療法を実施した群と1日2時間の通常の理学療法・作業療法を実施した群に関しては,介入から90日後の予後に有意な差は認められなかった.しかしながら,1日3時間のCI療法を実施した群は,1日2時間の通常の理学療法・作業療法を実施した群に対して,有意に麻痺側上肢の機能予後が悪かったと報告した.
この結果から,特に急性期・そして亜急性期においては,量的な練習の優位性については,疑問視されるようになっている.例えば,量的な練習を基本とするCI療法に関して,2020年に発行されたエビデンス集であるStroke rehabilitation clinician handbook2において,急性期・亜急性期に実施されたCI療法は,対照群となる一般的なリハビリテーションに対して,明確な優位性を示さないと言われている.ただし,もう少し踏み込んだ解析をしたLiuらのシステマティックレビューとメタアナリシスにおいては,急性期・亜急性期において,量的練習を伴うCI療法は,対照群である一般的なリハビリテーションに対し,有意な効果を示している.特に,1日の練習時間を2時間以下に絞った低強度のCI療法に関しては,より対照群に対し,有意な上肢機能の改善を示している.これらが示すように,急性期・亜急性期と言ったタイミングにおける練習量との兼ね合いは,今後もさらに多くの議論が必要と考えられている.
2.CI療法以外の手法に関するタイミングと量に関する見解
CI療法以外の分野において,練習量について検討している論文はまだまだ少ない.その中でも,Hsiehら3の研究が挙げられる.彼らの研究は,発症後平均5ヶ月の亜急性期の対象者に対し,高強度のロボット療法と,低強度(高強度群は低強度群の2倍の練習量)のロボット療法を実施した所,運動機能,筋力,日常生活活動,両手の能力において,高強度群が他の群に比べ,有意な改善を示したと報告している.
また,Haywardらのシステマティックレビューでは,急性期と亜急性期におけるロボット療法,電気刺激療法,CI療法が取り扱われている.その中で,練習量の中央値は,1セッション辺り45分,1週間に5日間,4週間の介入が実施されていた.これらを分析した結果,対照群に比べ,これら3つの療法は,脳卒中後に生じた麻痺側上肢の機能障害を有意に改善することはなかったと報告している.しかしながら,このシステマティックレビューでは,急性期13名,早期亜急性期176名,後期亜急性期34名と,サンプルサイズが少ないことと,選択した論文における介入時間が少なすぎることから,効果を検出できなかった可能性に言及している.
これらからもわかるように,各国の各種ガイドラインにおいては,量的練習といった要素を含むアプローチの推奨度が軒並み高いと言う現状ではあるものの,それらを提示するタイミングや適切な練習量については,ほとんどわかっていない.今後も,多くの研究者によって,様々な検証がなされることが予測される.新しい知見がリリースされる度に,情報のアップデートを図ることが望ましいと思われる.
引用文献
1.Dromerick AW, et al: Very early constraint-inudced movement during stroke rehabilitation (VECTORS) a single-center RCT. Neurology 73: 195-201, 2009
2.Teasell, R., et al. “Stroke rehabilitation clinician handbook.” London, ON: Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation (2020)
3.Hsieh YW, et al: Effects of treatment intensity in upper ;imb robot-assisted therapy for chronic stroke: A pilot randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair 25: 503-511, 2011
4.Hayward KS, et al: Timing and dose of upper limb motor intervention after stroke: a systematic review. Stroke, online ahead of print, 2021
<最後に>
【2月3日他開催:子どもの発達支援に必要な発達評価の視点】
小児期特有の疾患に関わるセラピストにとって有用となる評価の視点について解説します。
https://rehatech-links.com/seminar/22_02_03-2/
【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
2,失認–総論から評価・介入まで–
3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
–医療機関における評価と介入-
4,高次脳機能障害における就労支援
–制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
5,失行
6,半側空間無視
通常価格22,000円(税込)→16,500円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/