<抄録>
我々、リハビリテーションに関わる職種に従事する者は,障害者という言葉に触れる機会が非常に多い.しかしながら,障害者という言葉が持つ『害』という文字の文脈について,問題提起がなされ,障害という一般的な常用単語の他に,障がい,しょうがい等の記載が,内閣府および文部科学省において,議論がなされた.現在も,「障害」という単語をめぐる議論は尽きないが,海外ではこれらの単語については,どのような取り扱いになっているのであろうか.リハビリテーション職につくものとして,これらの背景を理解しておく必要ああると思われたので,本コラムにおいて簡単にまとめておく.
1.障害の表記について
障害という言葉は,江戸時代末期に生まれたと言われており,大正期に入り,一般的な常用単語として,世間でも用いられてきた.
ただし,この言葉に関して,肯定的な意見としては,『障害者の権利に関する条約においては,障害を視覚,聴覚,肢体等の機能不全を意味する「Impairment」と表記するとともに,機能障害等によって,その人の生活や行動が制限・制約することを「Disabilities」と表現している.これは,障害者の社会参加の制限や制約の原因が,個人の属性としての「Impairment」にあるのではなく,「Impairment」と社会との相互作用によって生じるものであることを示している.したがって,障害者自身は,「差し障り」や「害悪」をもたらす存在ではなく,社会にある多くの障害物や障壁こそが「障害者」を作り出してきた.このように社会に存在する障害物や障壁を改善または解消することが必要である.このような社会モデルの考え方と条文では,「Persons with disabilities」
と表記していることから,現段階では,「障害」の表記を採用することが適当である』1とされている.
一方,否定的な意見としては,一部の団体から,『障害に用いられる「害」は,公害,害悪,害虫の害であり,当事者の存在を害であるとする社会の価値観を助長してきた』また,『「害」には語源的に人を殺めるという意味があり,不適切と言った』1というものがあり,広く検討がなされるに至ったと言われている.
2.障がいの表記について
上記の障害の「害」の持つ文脈を排除する代案として,害をひらがな表記で「がい」とする,障がいと言った表記についても提案がなされている.これらに対しても,肯定的な意見としては,一部自治体や企業から発せられた『「害」という漢字の負のイメージにより不快感を覚えるものがいるならば改められる部分は改めるべき』,『「障害」という言葉が持つ,負のイメージに対する関係者の問題意識に鑑み』1といった意見に見られるように,上記の「害」という文字が持つ負の文脈に対応した意見が散見された.
一方,否定的な意見としては,『人に対して「害」の字を使用することは不適切であるとして,「障害」の表記を「障がい」に変更する考え方は,障害者の社会参加の制約や制約の原因が,個人の属性としての機能障害にあるとする個人モデル(医学モデル)に基づくものであり,医学モデルから障害を個人の外部に存在する種々の社会的障壁によって構築されたものとして捉える社会モデルへの転換を第一次意見において示した推進会議としては,採用すべきではないのではないか』と言ったものがあげられている.
3.海外の障害に対する考え方
障害,障がい,いずれの名詞を用いるとしても,社会として,障害の有無に関わらず,人として平等な権利を有すると言った社会全体における認識が重要であることに変わりはない.例えば,米国では,障害者のことを,”disabled people(障害者)”ではなく,”people with disabilities(障害とともに生きる人々)”や,”Challenged people(障害に立ち向かう人々)”と言った言葉が利用されている.”people with disabilities(障害とともに生きる人々)”は,人に焦点が当たる言葉であり,人として,障害の有無に関係なく,平等かつ健やかな社会生活を送ることについて,社会の共通認識としての強い意志を感じることができる.
一方,”Challenged people(障害に立ち向かう人々)”については,本邦においても議論がなされており,肯定的意見としては,『障害に負けることなく,社会進出していこうとする人たちという前向きかつ可能性を示唆する表現である』や『障害をマイナスと捉えるのではなく,障害を持つゆえに体験する様々な事象を自分自身のため,あるいは社会のため積極的に生かしていこうという思いを込めている』といった意見がある.一方,否定的な意見としては,『障害者が直面する様々な課題を個々の障害者の問題としてそれぞれがチャレンジしていくことを求めるものであり,社会全体に対して社会の中にある様々な偏見や差別,障壁をなくすため,社会全体が取り組んでいくことを求めるものではない」といった意見もある.
名称とは,その決定に至った思考や文化の結晶であり,様々な議論を通して,万人に配慮がなされるべき問題である.ただし,先にも記したが,本質としては,「社会として,障害の有無に関わらず,人として平等な権利を有すると言った社会全体における認識が重要であること」であることに変わりはない.これらの実現に向けて,様々な議論が進むことを期待する.
引用文献
- 1.平成22年11月22日,「障害」の表記に関する作業チーム.「障害」の表記に関する検討結果について.https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/s_kaigi/k_26/pdf/s2.pdf
<最後に>
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