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竹林崇先生のコラム

脳卒中後の上肢麻痺に対する経頭蓋直流電気刺激を用いた筋力トレーニングの効果について

UPDATE - 2022.12.9

<抄録>

 脳卒中後の上肢運動障害に対して,筋力増強トレーニングが実施されることが多い.しかしながら,弛緩性麻痺といったより重度な上肢麻痺を有した対象者においては,随意運動が十分に得られないこともあり,その効果は研究によってばらつきがある.近年,筋力増強トレーニングの効果を一定化させるために,経頭蓋磁気刺激や経頭蓋直流電気刺激によって誘発される運動誘発電位の振幅を皮質脊髄路のバイオマーカーとして,筋力増強トレーニングの負荷量を調整することにより,麻痺側上肢に対するアプローチの効果を最適化できるかどうかを示した試みがある.本コラムにおいては,脳卒中後の上肢の運動障害に対する筋力増強トレーニングの今についてまとめ,解説を行う.

     

1.脳卒中後の上肢麻痺に対する経頭蓋直流電気刺激を用いた筋力トレーニングの効果について

 Bütefischら1)は,ケースコントロール研究において,27名の生活期の脳卒中後片麻痺患者を対象に,様々な負荷量をかけた筋力増強トレーニングを1日2回,各15分間に,麻痺手の各関節運動に対して実施した.その結果,握力,最大等尺性手指伸展筋力,最大等尺性手指収縮速度,において,介入前後で有意な改善を認めた.一方,対照群として設定したボバースコンセプトを基盤としたアプローチにおいては,上記にあげた末梢筋群を直接強化することはなく,介入前後で手指機能の有意な改善は認めなかったと報告している.
 また,Winsteinら2)は,脳卒中発症後1ヶ月以内の亜急性期の対象者64名において,通常のケアを実施する群,課題指向型アプローチと通常ケアを実施する群,筋力増強トレーニングと運動制御練習を実施する群の3群に分け比較見当を行っている.筋力増強トレーニングを実施した群は,求心性・等尺性・遠心性収縮のいずれかを促す形で行った.遠心性収縮に関しては,必要に応じて重力を軽減した姿勢で行った.さらに,これらの筋力増強トレーニングは,フリーウェイト,セラバンド,手指筋力向上のためのグリップデバイスを用いて行われた.また,トレーニング中に筋緊張が明らかに上昇した場合は,トレーニングを短期中断し,リラクゼーション等は行わず,安静により筋緊張が低下した後,トレーニングを再開した.筋力増強トレーニングは週3回実施し,他の日には抵抗を落とし,スピードを向上した上で,麻痺手の随意的な反復練習を実施した.各群の練習時間は,4〜6週間に20時間実施された.この研究の結果,課題指向型アプローチと通常ケアを行った群と筋力増強トレーニングを行った群は,通常ケアを行った群に比べ,有意なFugl-Meyer Assessmentの上肢項目(FMA)における改善を認めた.なお,この両群のFMAの改善具合は,通常ケア群の約2倍であったと報告された.なお,介入後9ヶ月の長期効果では,特に重度の上肢麻痺を呈した患者において,課題指向型アプローチを実施した群が筋力増強トレーニングを行った群に比べ,有意な改善を認めたとされている.
また,Stroke Rehabilitation Clinician Handbook 2020において,運動機能(6つのランダム化比較試験から1a),手指機能(2つのランダム化比較試験1b),日常生活活動(2つのランダム化比較試験1b),痙縮(2つのランダム化比較試験1b),ROM(4つのランダム化比較試験1a),筋力(3つのランダム化比較試験11)とされている3).
 これら従来の筋力増強トレーニングに加えて,近年では経頭蓋磁気刺激や経頭蓋直流電気刺激を用いて,運動誘発電位(MEP: Motor Evoke Potential)を示し,随意運動の減弱化等によるトレーニング効果のばらつきを減らすために,これらを併用した筋力増強トレーニングが実施されている.例えば,Palimerisらの研究では,筋力増強トレーニングにおいて,対象者90名を,MEPを用いた評価において,低強度群(MEP<50μV),中強度群(50μV <MEP<120μV),高強度群(120μV<MEP)の3群に事前評価でカテゴライズし,それぞれの重症度に応じて,低い強度(1RMの35-50%),中強度(1RMの50-65%),高強度(1RMの70-85%)の強度による筋力増強練習を実施した.また,それぞれの群において,直流電気刺激(2mA, 20分)または偽刺激を与えるグループにランダムに割り付けられ,それぞれの筋力増強トレーニングの結果について比較見当を行った.その結果,両群ともに上肢機能や筋力の改善を認めたが,経頭蓋磁気刺激による有意な筋力増強効果は認められなかったと報告している.
 これらの結果から,MEPによる筋力増強トレーニングの負荷量の選定はトレーニング効果のばらつきを軽減できる可能性を示唆したものの,経頭蓋直流電気刺激による筋力増強トレーニングの増強効果は認められないことが示唆された.

     

引用文献
1. Bütefisch C, et al: Repetitive training of isolated movements improves the outcome of motor rehabilitation of the centrally paretic hand. J Neurological Sci 130: 59-68, 1995
2. Winstein CJ, Rose DK, Tan SM, Lewthwaite R, Chui HC, Azen SP. A randomized controlled comparison of upper- extremity rehabilitation strategies in acute stroke: a pilot study of immediate and long-term outcomes. Arch Phys Med Rehabil ; 85(4):620-628, 2004

  1. 3.Teasell, R., Hussein, N., Viana, R., Madady, M., Donaldson, S., Mcclure, A., & Richardson, M. Stroke rehabilitation clinician handbook. London, ON: Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation, 2020
  2. 4.Palimeris S, et al. Effect of a tailored upper extremity strength training intervention combined with direct current stimulation in chronic stroke survivors: A randomized controlled trial. Front Rehabilit Sci3: 978257, 2022

     

<最後に>
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