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竹林崇先生のコラム

脳卒中後の上肢機能トレーニングにおける迷走神経刺激の併用効果について(1)

UPDATE - 2022.12.12

<抄録>

 脳卒中は様々な機能障害を引き起こし,後遺症を残す疾患として有名である.その中でも四肢の運動障害は対象者のQuality of life(QOL)の低下に影響を与える障害の一つであり,それらに対する治療法の開発は急務とされている.その中でも上肢の運動障害はQOLの低下に直結すると考えられており,多くの治療法が開発・検証がなされている.近年,脳卒中後の上肢運動障害に対する治療法として,経皮的迷走神経刺激とリハビリテーションプログラムの併用に関する研究が徐々に増加している.未だ本邦においては,一般的な治療法とは言えないものの,世界的には多くの試行がなされている.本コラムにおいては,3回に渡って,脳卒中後の上肢運動障害に対する経皮的迷走神経刺激とリハビリテーションプログラムの併用アプローチに関する現状とそのメカニズム,そして,エビデンスについて,まとめた上で解説を行う.

     

1.脳卒中後の上肢運動障害に対する経皮的迷走神経刺激に関する研究について

 脳卒中は死因と発症後生活行為に与える後遺症の大きさといった点で,第二位の疾患と考えられている.この疾患は,発症後複数の機能障害をもたらすと考えられている.特に,複数ある機能障害の中でも,上下肢の運動障害は筋力の低下,筋緊張の増加,異常な共同運動パターンと言った多少の症候として現れ,実生活の履行に対して,深刻な影響を与えると考えられている.その中でも,特に上肢の運動障害は,Quality of life(QOL)の低下に直接的に関与すると考えられており,それらの障害を緩和することが,古くからの命題として存在する.
 さて,近年,脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションの手法として,運動療法に加えて,頭蓋の外部から非侵襲な経皮的な刺激を併用することにより,運動療法の効果を効率化される手法がいくつか考案されている.標準的な非侵襲的神経調整技術には,経皮的直流電気刺激(tDCS: Transcranial direct current stimulation)や経皮的磁気刺激(TMS: Transcranial magnetic stimulation)が有名である.ただし,これらの機器は高価であり,介入を実施する上でも,専門機関や専門家(特にTMSは医師でなければ実施できない)の存在が鍵となると考えられている.そのため,臨床で一般的に用いるには,若干限界があると考えられている.
 そこで,近年経皮的迷走神経刺激(TVNS: Transcranial vagus nerve stimulation)が注目を浴びている1.TVNSは迷走神経調整技術の1つで,耳介迷走神経(TaVNS: Transcranial auricular vagus nerve stimulation)や頸部迷走神経(TcVNS: Transcranial cervical vagus stimulation)といった2つの介入方法が利用されている.これらの手法によって,迷走神経を非侵襲的に刺激し,迷走神経介在経路を賦活することができるとされている2.VNSおよびTVNSは,てんかん,うつ病,偏頭痛,耳鳴りなどの治療に使用されているが,一方で脳卒中患者に対する研究も進められている.さらに,近年では,リハビリテーション 医学の発展に伴い,慢性期脳卒中患者における上肢運動障害に対する研究も進んでいる.例えば,Dawsonら3は,発症から6ヶ月以上が経過した中等度から重度の上肢運動障害を有する慢性期脳卒中患者21名に対して,VNSとリハビリテーションを併用して実施する群とリハビリテーションを単独で実施する群にランダムに割付け,比較検討を行った.この研究において,上肢の運動障害に対するリハビリテーションは,週3回2時間のセッションを6週間提供された.また,VNSを実施した群においては,練習として,0.5秒のVSN刺激と対になるような動作をセッションごとに400回以上繰り返し実施された.結果,9名の対象者がVSNとリハビリテーションを併用して実施する群に,11名がリハビリテーション単独で実施する群に割り付けられた.研究においては,装置を使用した際の恒久的に残存する重度の副作用はなかったものの,1名の対象者がVNSを埋め込む際に,一過性の声帯麻痺と嚥下障害を認めたと報告されている.また,治療当日の吐き気や味覚障害など軽度の副作用を5名の対象者に認めた.上肢の運動障害については,Fugl-Meyer Assessmentの上肢運動項目において,群間に有意さを認めた.しかしながら,欠損データ等を含めたIntention-to-treat解析においては,両群間に有意なFugl-Meyer Assessmentの上肢運動項目よる改善差は認めなかったと報告している.これらの研究を起点として,VNSとリハビリテーションの併用の可能性が考えられている.

     

2.まとめ

 本コラムにおいては,VNSとリハビリテーションプログラムの併用の可能性に触れた.脳卒中後の上肢機能トレーニングにおける迷走神経刺激の併用効果について(2)では,VNS併用アプローチにおける非侵襲性刺激の可能性や,それらを実施した際のメカニズム等について解説を実施していく.

     

引用文献

  1. 1.Yap J, Keatch C, Lambert E, et al. Critical review of transcutaneous vagus nerve stimulation: challenges for translation to clinical practice. Front Neurosci. 2020;14:284
  2. 2.Yakunina N, Kim SS, Nam EC. BOLD fMRI effects of transcutaneous vagus nerve stimulation in patients with chronic tinnitus. PLoS One. 2018;13:e207281
  3. 3.Dawson J, Pierce D, Dixit A, et al. Safety, feasibility, and efficacy of vagus nerve stimulation paired with upper-limb rehabilitation after ischemic stroke. Stroke. 2016;47:143–150.

     

<最後に>
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