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竹林崇先生のコラム

脳卒中後の上肢機能トレーニングにおける迷走神経刺激の併用効果について(2)

UPDATE - 2022.12.14

<抄録>

 脳卒中は様々な機能障害を引き起こし,後遺症を残す疾患として有名である.その中でも四肢の運動障害は対象者のQuality of life(QOL)の低下に影響を与える障害の一つであり,それらに対する治療法の開発は急務とされている.その中でも上肢の運動障害はQOLの低下に直結すると考えられており,多くの治療法が開発・検証がなされている.近年,脳卒中後の上肢運動障害に対する治療法として,経皮的迷走神経刺激とリハビリテーションプログラムの併用に関する研究が徐々に増加している.未だ本邦においては,一般的な治療法とは言えないものの,世界的には多くの試行がなされている.本コラムにおいては,3回に渡って,脳卒中後の上肢運動障害に対する経皮的迷走神経刺激とリハビリテーションプログラムの併用アプローチに関する現状とそのメカニズム,そして,エビデンスについて,まとめた上で解説を行う.

     

1.脳卒中後の上肢運動障害に対する経皮的迷走神経刺激に関するメカニズムについて

 迷走神経刺激(VNS: Vagus nervestimulation)に関する研究の一端については,『脳卒中後の上肢機能トレーニングにおける迷走神経刺激の併用効果について(1)』に示したとおりである1.しかしながら,VNSは装置の設置等に手術と言った手続きが必要であり,技術的にも一般汎化性は低く,費用も高価になることが言われている.さらに,先に示した研究結果から,心不整脈や声帯麻痺と言った身体へのリスクもある程度予測されることから,大規模な普及は困難であると考えられている.一方,最近では迷走神経を刺激する際に,手術などによる侵襲的な手続きを必要とせず,経皮的に刺激ができる経皮的迷走神経刺激(TVNS: Transcranial Vegus nerve stimulation)を用いた研究も実施されている.例えば,Redgraveら2は,非侵襲的な耳介神経刺激(TaVNS: Transcranial auricular vagus nerve stimulation)を用いて,発症から3ヶ月以上経過した13名の対象者に対しアプローチを実施している.この研究では,介入時に25Hz, 1msecondのパルス幅で提供される耳介神経刺激と同時に,8-10の上肢を用いる練習をそれぞれ30-50回反復を行ったとされている.この結果,これらの介入を受けた対象者は,全ての対象者が1回あたりのセッションで300回以上の反復的な練習を達成し,Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目において,平均で17.1点の機能回復を認めたと報告している.この結果からも,VNSでなくとも非侵襲的な手段であるTVNSによってもある程度類似した効果が期待できる可能性が近年調査の中で明らかになっている.また,そのメカニズムに関しても,TavNSとリハビリテーションを組み合わせて実施した際に,運動皮質の再編成プロせすを促進し,大脳皮質における神経可塑性の効率を高めることも基礎研究の中で明らかになっている3.
 さらに,Luらは,基礎研究の結果から,TaVNSは,脳梗塞周囲の皮質において,抗老化物質の一つであるGDF11(Growth differentiation factor11)を生成すると報告している.GDF11とは,Transforming Growth factor-β(TFG-β)の一つであり,神経新生と血管新生の増加のマーカーとして,示されている.この結果からも,TaVNSを併用したリハビリテーションプログラムを提供することで,脳卒中後の神経新生および血管新生といった幹細胞由来の修復反応が示される可能性について,言及することができる.これらの結果から,TVNSは,脳卒中後の上肢運動障害の改善に寄与できる補助的な介入となる可能性が示唆されている.つまり,TVNSは安全性,低コスト,簡便性,侵襲的といった点から,慢性脳卒中患者の運動感覚リハビリテーションにおいて,新しい介入となりうる可能性を秘めている.これらの取り組みから,非侵襲性刺激であるTVNSを併用したリハビリテーションプログラムのより踏み込んだ開発に期待が寄せられている.

     

2.まとめ

 本コラムにおいては,VNSとリハビリテーションプログラムの併用の可能性と,侵襲的な刺激方法であるTVNSが与える上肢運動障害の回復に関するメカニズムについて解説を行った.脳卒中後の上肢機能トレーニングにおける迷走神経刺激の併用効果について(3)では,VNS併用アプローチに関するエビデンス等の解説を実施していく.

     

引用文献

  1. 1.Dawson J, Pierce D, Dixit A, et al. Safety, feasibility, and efficacy of vagus nerve stimulation paired with upper-limb rehabilitation after ischemic stroke. Stroke. 2016;47:143–150.
  2. 2.Redgrave JN, Moore L, Oyekunle T, et al. Transcutaneous Auricular Vagus Nerve Stimulation with Concurrent Upper Limb Repetitive Task Practice for Poststroke Motor Recovery: a Pilot Study. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2018;27:1998–2005
  3. 3.Hays SA, Rennaker RL, Kilgard MP. Targeting plasticity with vagus nerve stimulation to treat neurological disease. Prog Brain Res. 2013;207:275–299
  4. 4.Lu L, Bai X, Cao Y, et al. Growth Differentiation Factor 11 Promotes Neurovascular Recovery After Stroke in Mice. Front Cell Neurosci. 2018;12:205.

     

<最後に>
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