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脳卒中後の肩痛に対するアセスメント、予防、介入について −American Heart Associationのガイドライン2016−

UPDATE - 2021.9.25

<抄録>

 脳卒中後の臨床において、肩痛は介入を行う上で、大きな障壁となる。また、対象者自身も肩痛によって、大きな精神的ストレスを抱えることが多い。実際、先行研究では、肩痛が対象者のQuality of lifeを低下させるといったものも多く存在する。今回は、American Heart Associationのガイドライン2016より、脳卒中後の肩痛に対するアセスメント、予防、介入について、解説を行う。

     

1.脳卒中後に発生する肩痛の疫学

 脳卒中後の肩痛はよく確認されており、脳卒中発症から1年間の発症率が1-22%と報告されている1。ただし、これらは肩痛の定義により、5-84%という高い併発率をあげている論文も認められる2。つまり、多くの脳卒中後の対象者において、肩痛は併発する症候であり、それらに対する適切なケアが求められている。さて、肩痛が発生する大きな2つの因子として、1)肩甲上腕関節の亜脱臼、2)脳卒中後の上肢麻痺、の2点が挙げられている3。さらに、これらの大きな肩痛の因子に加えて、脳卒中後の肩痛の慢性かを予測する因子としては、1)高齢者、2)左肩麻痺、3)麻痺側の感覚脱失/固有感覚の低下、4)早期からの痛みの主訴、5)肩甲上腕関節の受動的な肩の外転、外旋の可動域の減少、6)内旋した腕の受動的な外転で肩が痛む、6)上腕二頭筋と棘上筋の触診による圧痛、等が挙げられている4-9

 脳卒中後に生じる肩痛は、肩の組織損傷や、関節力学の以上、中枢部の痛みに対する閾値の低下等、多くの要因が関連していると報告されている。特に、急性期患者の1/3はエコー等の検査により、上腕二頭筋腱や肩峰下滑液の滲出、上腕二頭筋、棘上筋、肩甲下筋の腱障害、鍵盤断裂などが生じていると報告されている10, 11 また、これらの損傷所見は、より重度の上肢麻痺を呈している対象者によく見られるとも言われており、注意が必要ともされている。しかしながら、肩痛を有する対象者が、全て上記のような末梢構造の障害を抱えているわけでもない。ここからも、脳卒中後の肩痛の複雑さが感じ取れる。

 また、一般的に運動麻痺と痙縮の関係は非常に強固なものが報告されているものの、痛みに関しては痙縮等も研究の上では因果関係は認められないと言われている。一般的には、痛みの原因として痙縮を臨床にてあげる療法士は多いが、これらの点はさらに多くの今後世に出てくるであろう研究結果を吟味する必要が考えられている。

     

2.脳卒中後の肩痛に対するリハビリテーションにおける予防、介入について

 脳卒中後の肩痛に対する介入については、1)適切な上肢のポジショニング、2)肩の可動域の維持、3)運動の再訓練、等が挙げられている。特にこの中では、車椅子使用中の膝上クッションやアームトラフ(上肢をアームレストに固定する道具)等は、肩の痛みや亜脱臼を軽減するための有効なポジショニング機器となると報告されている。

 次に、積極的な受動的関節可動域練習に関しては、多くの臨床において、肩痛の除去のために実施されており、後に起こる肩痛を予防できる可能性があると言った意見も一部の臨床家、および研究者の中に存在する。しかしながら、これらの意見を支持する明確なエビデンスは現在のところ存在しない。また、肩関節の構造上に問題を抱える対象者の場合は、受動的な関節可動域練習を実施することで、肩痛をより深刻なものとすることもあるので、注意が必要とされている。

 介入研究では、テーピング固定、針治療、電気刺激療法等が挙げられている。これらの両方については、『肩痛(亜脱臼への効果とは区別する必要がある)』に対しては、現在のところ、有効性を支持、または否定するだけの結果がなく、効果は不透明という形で扱われている12-14

     

3.脳卒中後の肩痛に対する医学的な予防、介入について

 さらに、肩痛に対する予防、介入に関しては、リハビリテーション以外に医師が提供する、医学的な介入が認められる。その代表的な例としては、コルチコイド等のステロイドの関節注射や痙縮に対するボツリヌス毒素の施注、ペインクリニック等で実施される肩甲上腕神経に対する神経ブロック、大胸筋・広背筋・大円筋・肩甲下筋の外科的腱切除術などが挙げられている。ステロイドの関節注射は短期的な痛みを軽減するの報告が比較的多い(長期的な痛みに対する研究は認められない)。肩甲下筋、棘下筋、大胸筋に対するボツリヌス毒素の施注は、痙縮に関連した肩関節の可動域伴う痛みに一定の効果はある可能性が示唆されているが、一般的な痛みに対する効果は不十分とされている。また、外科的腱切除術もボツリヌス毒素の施注と類似した効果が認められる可能性に言及している。最後に、肩甲骨上神経に対する神経ブロックは、侵害受容性疼痛と神経因性疼痛の療法のメカニズムに作用すると報告されており、小規模ではあるが、多くの試験で有用な結果を残している。これらの医学的治療がどのように提供されているかについては、リハビリテーション介入を選択する際の重要な情報となるので、理解しておく必要があると思われる。

     

<引用文献>

  1. 1.O’Donnell MJ, Diener HC, Sacco RL, Panju AA, Vinisko R, Yusuf S; PRoFESS Investigators. Chronic pain syndromes after ischemic stroke: PRoFESS trial.Stroke. 2013; 44:1238–1243
  2. 2.Chae J, Mascarenhas D, Yu DT, Kirsteins A, Elovic EP, Flanagan SR, Harvey RL, Zorowitz RD, Fang ZP. Poststroke shoulder pain: its relationship to motor impairment, activity limitation, and quality of life.Arch Phys Med Rehabil. 2007; 88:298–301
  3. 3.Paci M, Nannetti L, Taiti P, Baccini M, Rinaldi L. Shoulder subluxation after stroke: relationships with pain and motor recovery.Physiother Res Int. 2007
  4. 4.Rajaratnam BS, Venketasubramanian N, Kumar PV, Goh JC, Chan YH. Predictability of simple clinical tests to identify shoulder pain after stroke.Arch Phys Med Rehabil. 2007; 88:1016–1021
  5. 5.Dromerick AW, Edwards DF, Kumar A. Hemiplegic shoulder pain syndrome: frequency and characteristics during inpatient stroke rehabilitation.Arch Phys Med Rehabil. 2008; 89:1589–1593.
  6. 6.Lindgren I, Lexell J, Jönsson AC, Brogårdh C. Left-sided hemiparesis, pain frequency, and decreased passive shoulder range of abduction are predictors of long-lasting poststroke shoulder pain.PM R. 2012; 4:561–568.
  7. 7.Niessen MH, Veeger DH, Meskers CG, Koppe PA, Konijnenbelt MH, Janssen TW. Relationship among shoulder proprioception, kinematics, and pain after stroke.Arch Phys Med Rehabil. 2009; 90:1557–1564.
  8. 8.Rajaratnam BS, Venketasubramanian N, Kumar PV, Goh JC, Chan YH. Predictability of simple clinical tests to identify shoulder pain after stroke.Arch Phys Med Rehabil. 2007; 88:1016–1021.
  9. 9.Roosink M, Renzenbrink GJ, Buitenweg JR, Van Dongen RT, Geurts AC, IJzerman MJ. Persistent shoulder pain in the first 6 months after stroke: results of a prospective cohort study.Arch Phys Med Rehabil. 2011; 92:1139–1145.
  10. 10.Huang YC, Liang PJ, Pong YP, Leong CP, Tseng CH. Physical findings and sonography of hemiplegic shoulder in patients after acute stroke during rehabilitation.J Rehabil Med. 2010; 42:21–26.
  11. 11.Pong YP, Wang LY, Wang L, Leong CP, Huang YC, Chen YK. Sonography of the shoulder in hemiplegic patients undergoing rehabilitation after a recent stroke.J Clin Ultrasound. 2009; 37:199–205.
  12. 12.Griffin A, Bernhardt J. Strapping the hemiplegic shoulder prevents development of pain during rehabilitation: a randomized controlled trial.Clin Rehabil. 2006; 20:287–295.
  13. 13.122. Hanger HC, Whitewood P, Brown G, Ball MC, Harper J, Cox R, Sainsbury R. A randomized controlled trial of strapping to prevent post-stroke shoulder pain.Clin Rehabil. 2000; 14:370–380.
  14. 14.123. Pandian JD, Kaur P, Arora R, Vishwambaran DK, Toor G, Mathangi S, Vijaya P, Uppal A, Kaur T, Arima H. Shoulder taping reduces injury and pain in stroke patients: randomized controlled trial.Neurology. 2013; 80:528–532.

     

<最後に>
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